第17話 曙光の鷹
「……また、とんでもないことを考えやがって……」
ステラが寝静まった深夜、リビングの机を囲んで四人――俺、ホーク、アイシャ、ヨーダが集まり、密談が始まった。
議題はもちろん、黒涙草の件だ。
俺が考えをすべて話し終えると、ホークは頭を抱え、深いため息をついた。
「……結論は、メナトが植えているヴェノムモリス次第ってことでいいかしら?」
アイシャがピシャリと言う。
「あれに毒性が残っているなら即アウト。たとえ毒性がなくても、ヴェノムモリスの特効薬として機能しないなら、この話は終わり。いいわね?」
その口調には、これ以上の議論は許さないという強い意志があった。
確かに、俺の魔法で作ったヴェノムモリスが効力を持たないなら、黒涙草を体に入れる必要はまったくない。
「とりあえず、父さんの方で黒涙草の情報は追っておくから、メナトはヴェノムモリスの観察を徹底しろ。有害と判断したら、すぐ引っこ抜いて処分するからな」
「うん……みんなに迷惑かけないようにするよ」
そう言って席を立ち、ステラが眠る寝室へ戻った。
ヴェノムモリスは本来、驚くほど成長が早い植物だ。
だから俺が品種改良――いや、魔改良したヴェノムモリスもすぐに芽を出すと思っていたが、意外にもその気配はまったくなかった。
毎朝のジョギングで家の周囲を走りつつ、植えた場所を確認する。
しかし芽どころか、土の膨らみすらない。
失敗したのか? 不安になりながらも成長を見つつ、ヨーダに師事を受け、素振りを始める。
体を動かした後、いつものようにステラと遊ぼうと思ったが、妹は最近すっかりハマっている料理をするらしい。
ちなみにだが、アイシャは料理……いや、家事全般が得意ではない。
俺たちの面倒を見るだけでも大変なのに、傭兵団ではエースとして戦っているのだ。これ以上を求めるのは酷というもの。
ステラもそれを理解しているのか、目が見えなくても雑巾がけなど簡単な家事を買って出ている。そして最近は料理にも挑戦中。包丁も、少しずつだが使えるようになってきたらしい。台所から楽しげな二人の声が聞こえるたび、俺の心も温かくなる。
ステラが遊べないのだったらと思い、ホークとヨーダに色々教わろうと思ったが、二人は領主ヘルマー伯爵からの依頼で偵察任務へ向かうという。
今回の偵察は、ウィンを飛ばして東のマルム帝国の情勢を探り、間者の侵入を未然に防ぐという重要な仕事らしい。月四回の任務で報酬は金貨五枚。
破格の依頼料だが、戦闘義務はなく、危険を察すれば撤退してもいいという条件付きだ。
それでも伯爵にとっては十分すぎるほどの節約なのだという。
今までは他の傭兵団に頼んでいたものの、彼らが得られる情報はあくまで地上から見える表面だけ。
奥までは分からないし、間者の侵入を確実に防ぐこともできなかった。
しかし、ウィンを使役するホークなら、空からの情報を広範囲にわたって、しかも正確に集められる。伯爵が頼りにするのも当然だった。
俺もついていきたいと懇願し、ラージャンからほど近い山の裾野ヘと向かう。
その道すがら、街の外縁に降りると、中腹よりも賑わっていて、あちこちから子どもたちの笑い声が聞こえてくる。
中には明らかに傭兵団の子供らしき集団もあった。
「ねぇ、お父さん? この街に傭兵団っていくつあるの?」
「うーん……詳しい数は分からないが、ここを拠点にしているだけ傭兵団だけでも十以上はあるんじゃないか?」
それだけ、この辺りは依頼が多い……つまり、情勢が不安定ということでもある。
「傭兵団ってどのくらいの人数がいるものなの?」
「そうだな……お父さんが知っている限りだと、最大で千人くらいの傭兵団はあったな。その傭兵団はもう潰れてしまったけど。今は多くて百人、普通で二、三十人くらいじゃないか? まぁうちほど少ない傭兵団は聞いたことがないが」
【曙光の鷹】は三人だからな。
傭兵団というよりは家族って感じだ。
「人を増やす気はないの?」
「無理に増やそうとは思わないな。これでも入団希望者は多いんだが……色々秘密にしないといけないこともある。スカージャーのような奴もいるからどうしても慎重になってしまうんだ……もちろん増えてくれた方が楽はできるのだが……」
そこにホークたちの苦労が垣間見えた。
【曙光の鷹】は、元オーロラ王国の要人や系譜だけで構成された特別な傭兵団。
ホークの父は王国の宮廷魔法師長官。
アイシャの父は第一魔法師団団長。
ヨーダの父は王女直属の近衛兵長。
そしてエルは王宮庭師。
少数である理由は、滅びたオーロラ王国の女王アルバの子、ステラを守るため。
ゆえに、素性の知れない者を入団させることはできない。
慎重を重ねた末に、アイシャの旧知であるスカージャーを迎え入れたが……その結果が今の状況だった。
だからこそ、軽々しく新しい団員を加えるわけにはいかないのか。
「じゃあ、早く僕が一人前にならないとね!」
「そうだな。メナトなら何の調査もなく入団させられるな。じゃあ、街を出たら、お父さんがいいことを教えてやる。メナトは魔力量が多いから、これを覚えるだけでだいぶ強くなれるぞ? だけど非常に難しい。父さんでも完璧には使いこなせない。今はできなくてもいいから少しずつ慣れていけ」
ホークですら苦戦する技術か。
どんなものか楽しみだな。
逸る気持ちを抑えて、ラージャンの街を後にした。
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