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転生したら世界で唯一複数紋章を内包できる【追憶の紋章】を授かっていた件 ~努力と想いを継ぐ紋章の力で運命をねじ伏せる~  作者: けん@転生したら才能があった件書籍コミック発売中
第2章 少年期 追憶の紋章

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第16話 毒を以て毒を制す

「ねぇ、ヨーダ。剣の訓練をするなら、ちゃんとした木剣がほしいな」


 朝の日課であるジョギングの最中、街に出ようと持ち掛けた。


「……確かに。木剣で素振りくらいはいいかもしれないな。朝食を食べたら買いに行くか」


「うん。それと、もう一つ寄ってほしいところがあるんだ」


 どちらかというと、こっちが本命だ。

 そして朝食後、俺たちは街へ向かった。


「……これは良い木剣だな。こっちも捨てがたい」


 店に着くやいなや、ヨーダはいくつもの木剣を手に取り、うなっている。

 俺はてっきり、木剣なんて鉄貨二枚――日本円にして二千円くらいで買えると思っていた。

 ところがヨーダが手にしているのは銀貨一枚、日本円で一万円以上する物ばかりだ。


「よ、ヨーダ? そんな高いのじゃなくていいよ?」


 ちなみにアイシャに「木剣を買いに行く」と伝えたら、金貨一枚を渡された。

 お金はあるとはいえ、浪費はしたくない。


「……心配するな。メナトに払わせる気はない」


 いや、そういう意味じゃないんだけど……。

 結局ヨーダは銀貨五枚で、なんと四本の木剣を買った。

 これは本気でやらないと、神様に叱られるな。


「ねぇ。もう一つ行きたいところがあるんだ」


 そう言って次に向かったのは、フラスコの刺繍が入った旗が翻る店。

 薬師ギルドだ。

 薬やポーションの調合・販売を行う同業者組合で、原材料も見られるかと思って来てみた。


「すみません。目の治療薬ってありますか?」


 俺が受付の男性に尋ねようとしたそのとき――答えたのはヨーダだった。


「……メナト。エルがとっくに調べている。目に良いとされるものは、すべて試したがダメだった」


 それは【草の紋章】から受け継いだ記憶だ。

 だから俺は、あえて別のアプローチをしようとしている。

 受付の男性に視線を向けたまま待っていると、ようやく彼が答えた。


「あるとすれば、この目薬だね。徐々に良くなっていく薬だけど、即効性はないよ」


 試験管のような容器の中に、ほんのり輝く緑色の液体が揺れている。

 ステラにまったく効果のなかった薬だ。


 やっぱり、どこの薬師ギルドでも同じか。

 でも、ここまでは想定内だ。


「じゃあ逆に……視力を落とす薬。飲み続けると失明してしまうような毒草ってありますか?」


「ぼ、僕はどうしてそんな物騒なことを聞くんだい?」


「その草を研究したいんだ」


 エルもまさかステラが毒を飲まされて失明したとは知らなかったからな。

 そっちの線から調べていくのが俺の狙い。


「……あるにはあるけど……うちのギルドには置いてないんだ」


「どこに生えているの? もしよければ教えて?」


 男性はヨーダに視線を向ける。

 本当に教えていいのか? と目で問い、ヨーダはしばらく考えてから頷く。

 男性は観念したようにため息をつき、口を開いた。


「国境辺りのレビンデ山脈に『黒涙草』という植物がある。強い神経毒で、高確率で呼吸困難を起こして死んでしまう。運よく助かっても視力がやられる……間違っても食べちゃダメだよ?」


「ヴェノムモリスとどっちが毒性が強いの?」


「ヴェノムモリス!? そんな危険な植物を知ってるなんて……あれ以上の毒はこの世に存在しないよ。別名、死の宣告。触れただけでも危険だ。一方、黒涙草は触れるだけなら大丈夫だし、必ず死ぬわけでもない……あっ、でも棘があって刺さると軽い麻痺は起こすから気を付けて」


 ……これ、ビンゴだろ。


「お兄さん、教えてくれてありがとう! お礼に、そこのしなびれた草を貸してくれる?」


 俺がカウンター裏の乾いた草を指さすと、男性は不思議そうにしながらも草を手渡してくれた。

 手袋を外し、草に触れた瞬間――【追憶の紋章(メメントモリ)】が淡い緑光を放つと、草は瑞々しさを取り戻す。


「紋章――!? 僕は……いや、君は十歳なのか!?」


 色々教えてもらって俺だけ答えないというのはフェアではないが、ここは草を甦らせることで許してほしい。


 深く頭を下げて店を出ると、ヨーダが無言で俺の肩に手を置いた。


「……メナト、どういうことだ?」


 ヨーダには、ちゃんと説明しないといけない。


「うん。僕にちょっと考えがあるんだ。庭で話すから、ついてきて」




「……で? 説明してもらおうか?」


 庭に着くと、ヨーダが促す。


「うん、じゃあ見てて?」


 そう言い、手袋を外して右手を前に掲げる。


『死を招く根よ、静かに眠れ。我が手は汝を断たず、ただ罪を剥ぐのみ。毒よ、滅びの闇に還れ。魔に喰いし命の種よ、いま清浄の衣と、己の毒を払う力を纏い、無垢の姿で芽吹け。再生の輝きを我が掌へと集え――』


 詠唱と同時に、紫黒の魔法文字が巡り、【追憶の紋章(メメント・モリ)】も紫黒に発光する。

 だが、言葉を紡ぐほどに、その暗い輝きは新緑の光へと塗り替えられ、柔らかな光が庭一面を照らしはじめた。


『【無毒ノ魔種(スペルマ・サルバス)】!!!』


 手のひらに現れたのは白い種子。

 同時に、体の芯から魔力が一気に抜け落ち、膝がふらりと揺れた。


「……だ、大丈夫か!?」


 すぐさまヨーダが支えてくれる。


「うん……思ってた以上に、魔力をごっそり持っていかれたみたいで……」


「……そうか。で、その種はなんなんだ?」


「多分だけど……ヴェノムモリスの種だと思う」


「――っ!?」


 その名を聞いた瞬間、ヨーダの表情が強張る。

 俺の手から種を払い落とそうと、反射的に腕が伸びた。


 だが、ここで手放すわけにはいかない。

 握り込み、逆にヨーダの手をそっと押し返す。


「ヨーダ、大丈夫。この種には多分だけど、毒がない。魔法で毒を抜いたからね……【追憶の紋章(メメント・モリ)】に内包されている、【草の紋章】と……多分【毒の紋章】の力を借りたんだ。多分って言ったのは、厳密にそれかどうか断定はできない。でも、毒に関する魔法文字が確実に反応する。だから、少なくとも毒そのものを扱う紋章であることは間違いないと思う」


「……毒のないヴェノムモリスだと……? 信じられんが」


 ヨーダの声は驚きというより、理解が追いついていないという色が強かった。


「あくまでも多分だけどね。植えてみたら、普通に毒々しい紫黒の穂が出るかもしれないし……逆に、僕が言ったみたいに品種改良できてる可能性もある。ここは実験してみないと分からない」


 そこで、息を一つ飲んで本題へ入る。


「でね。僕が毒の魔法を使えるのって、ヴェノムモリスの毒に限定されてるんだ。他の毒をイメージしても、紋章が全く反応しない。だから、一つ仮説を立てた。自分の体に入った毒しか、紋章は反応しないんじゃないか? って」


 ヨーダはまばたきもせず、ただまっすぐ俺の目を見ている。

 その視線は、理解しようとする必死さと、どこか不安を含んだ強さがあった。


「……だからね。僕がステラの視力を奪った『黒涙草』を、あえて食べて……解毒剤を作れないかなって思ったんだ」


 昨日のうちに、毒の抜けていると思われるヴェノムモリスの種は、庭の隅に植えた。

 さっきの詠唱には解毒のイメージも加えてあるから、俺が創り出したヴェノムモリスを煎じた薬を飲めば、ヴェノムモリスの毒で瀕死の人を救える可能性がある。


 そして、それが成功すれば、『黒涙草』でも同じことができるはずだ。

 ただ、最大の問題は一つ。

 俺が『黒涙草』を飲んで死なないかどうか。


 【毒の紋章】や【草の紋章】の効果で、どれだけ毒耐性がついているのか……正直まったく分からない。

 けれど、試してみなければ前に進めない。


「……ダメだ。リスクが高すぎる。もしお前が死んだら……ステラ様はきっと立ち直れない。後追い、という最悪の可能性すらある」


 ホークとアイシャには絶対反対されると思っていた。

 だからこそヨーダにだけ話したのだが、彼にすら止められるとは思わなかった。


「でもさ? 少しだけ体内に入れるだけで済むかもしれないんだよ? 僕はヴェノムモリスの毒でも死ななかった。黒涙草はヴェノムモリスほど毒性は強くないんでしょ?」


「……それはそうだが……俺の一存では決められん。ホークとアイシャにも相談してみる。二人の許可なしには……とても進められん」


 希望と困惑、そのどちらもが滲む声音だった。

日曜日まで6:10と18:10の2回投稿です!

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