第14話 辺境都市ラージャン
「ようやく見えてきた……ってなんかすごい形だね」
ラージャンの街が近づくにつれて、その全容が徐々に姿を現していく。
――まるで巨大な扇のような街。
扇の要にあたる土地は高台になっており、その頂にはこの街を治めるヘルマー伯爵の屋敷が、街全体を見下ろすようにそびえている。
そこから放射状に道が延び、街並みは外側にいくほど傾斜を下っていく。
高台に近いほど裕福な者が住み、外縁に向かうにつれて生活水準も下がっていく。
そんな、分かりやすい階層の街だ。
街門に着くと、全身を鎧で固めた門兵二人が俺たちの前に立ちふさがった。
「何か身分を証明する物を見せろ」
厳しい声。ホークは一歩前に出て、手袋を外した。
「【曙光の鷹】の団長、ホークだ。この街で傭兵業を行う予定だ。これは街の通行許可証とビサンド村のユーマン男爵からの紹介状だ」
右手の紋章を見せた後に、二枚の羊皮紙を見せる。
今までのどの街よりも緊張感があった。
帝国との国境が近いだけに、警備が厳重なのも納得だ。
無事に街へ入ると、俺たちは新しい生活の拠点を探すことにした。
「どんな家を探すの?」
俺が訊ねると、ホークは少し笑みを浮かべ、顎をさすった。
「実はもう決まっているんだ。次の家はけっこう大きいぞ。一人一部屋はあって、ウィンのための止まり木はもちろん、庭も広い。魔法の訓練などもそこでできる」
その言葉にステラが不満の声を漏らす。
「えっ? 私はお兄ちゃんと一緒の部屋がいいのに!」
アイシャが苦笑しながら妹の頭を撫でる。
「大丈夫。今はまだ二人一緒よ。将来のために部屋を分けてあるだけだから」
「本当!? 良かったぁ……ね、お兄ちゃん!」
ステラが俺の手をぎゅっと握る。
その小さな温もりが、なぜか少し切なかった。
あと数年もすれば、この手も離れていくのだろう。
屋敷へ向かう道すがら、俺たちと同じくらいの年の子どもたちが通りを駆け抜けていく。棒切れを剣に見立て、笑いながら傭兵ごっこをしている。
「メナト、この街には他の傭兵たちも多く暮らしている。俺たちのように団を作って活動している者も少なくない。傭兵の子供たちも多いはずだから、仲よくやるんだぞ」
「うん。なるべく波風立てずにね」
今までの街や村では子供の数自体が少なかったが、子供の世界にも、大人と同じように序列というものがある。
どんなに歳が近くても、力の強い子や家の身分で、上下が決まってしまうこともあるのだ。できるだけ目立たず穏やかにいきたい。
やがて目的の屋敷が見えてきた。
街に入ったときから気になっていた場所――高台にあるヘルマー伯爵の屋敷よりもなお背の高い、街の中腹西側にそびえる一本の大樹。
その根元に、古びたが立派な屋敷が建っていた。
屋敷が見えると同時に、上空を旋回していたウィンが大樹へと舞い降りる。
次の瞬間、枝の間から無数の黒い影が飛び立った。
「カァッ! カァッ!」
鴉の群れだ。どうやらここは彼らの縄張りらしい。
しかし、相手が悪い。
地球でも鴉は鷹に捕食されているくらい……それが猛禽類最強の鳳鷹、ウィンに歯が立つわけがない。
ホークの魔力を纏ったウィンの翼が一度はためくと、鴉たちは一斉に怯え、黒い雨のように散っていった。
俺たちも敷地内へ足を踏み入れる。
「うわぁ……広い庭! 離れまであるよ! こんなに大きな屋敷、家賃が高かったんじゃないの?」
俺の言葉に、ホークは苦笑を漏らした。
「いや、意外と安かったんだ。この大樹が原因でな。鳥が群がって洗濯物は干せないし、糞害や鳴き声が酷くて、誰も住みたがらなかったらしい」
確かに地面のあちこちに白い点々。
けれど、屋敷自体はしっかりしたレンガ造りで重厚感がある。
風雨に耐えてきた年季こそ感じるが、壊れた箇所はない。
ウィンを使役する俺たちだけのお買い得物件、というやつだろう。
ただ、中へ入った瞬間、その印象は少し変わった。
外見よりも中の荒れようが酷い。
長く人の気配がなかったせいか、埃が厚く積もり、カーテンは色褪せ、廊下には蜘蛛の巣が張っている。
やはり主がいない屋敷は廃れるのも早いか。
「これは……掃除のしがいがありそうだな」
ホークが腕まくりをするのを見て、アイシャがため息をつく。
「そうね……私たちだけじゃ終わらないわ。明日、使用人を雇いましょう」
確かにこの広さをこの人数で片づけるのは無理。
「そうだね。でも、今日寝る場所くらいは掃除しておかないと」
俺の言葉に、ステラもうなずいた。
「うん! 一つの部屋でみんなで寝るなんて楽しそうだし、私も頑張る! みんなでやっちゃおう!」
こうして、辺境都市ラージャンでの新生活は始まったのである。
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