第4話:三日間の軌跡
放課後の中庭に、珍しい顔ぶれが集まっていた。
アルベール・ド・モンブラン。マリアンヌ・ド・ラ・フォンテーヌ。そしてヴァイオレット・レイヴンクロフト。
三人とも、エリザベスの言葉を聞いた直後から、微妙に顔色がおかしかった。
「演目審査を、受けようと思っているの」
エリザベスが静かに言った。
沈黙。
アルベールが口を開いた。「……それは」
シャーロット『三人とも固まってる』
(気づいてる)
マリアンヌが恐る恐る口を開いた。
「えっと……エリザベス様。確認なのですが……演目審査、というのが……どういうものか、ご存じですよね?」
「ええ。宮廷で芸術魔法を披露する必修実務でしょう。マクガイヤ先生から聞いたわ」
「……うん、そう、なんですけど」
マリアンヌはアルベールと視線を交わした。助けを求める目だった。
アルベールは静かに咳払いをした。
「エリザベス。一つ聞いていいか」
「なにかしら」
「……演目の練習を、したことはあるか」
エリザベスは少し考えた。
(記憶がない。つまり——)
「ないわ」
また沈黙。今度は少し長かった。
サンドラ『あら〜?練習がなくても天才的な演目ができますわよ!おほっほっほ!』
シャーロット『…サンドラ。少し黙って』
サンドラ『え?』
ヴァイオレットが静かに口を開いた。
「……エリザベス。あなた、以前は演目審査に出たことがないの。一度も」
「……そうなの?」
「ええ。毎回……体調不良で欠席していたから」
(体調不良。それが表向きの理由だったのね)
シャーロット『つまり実質、演目の評価はゼロ。三年分』
ジャスティス『三年分!?』
シンデレラ『……それって、もしかして退学になってたりしない……?』
レギーナ『なっていないのが答えだ。なぜかは……言わずもがなだろう』
(ヴァンデルビルト家だから。誰も何も言えなかっただけ)
エリザベスは静かに息を吐いた。
「……そう。つまり私は三年間、一度も演目をしたことがない」
「…うん」
「それで三日後に宮廷審査がある」
「…うん」
「壊滅的な演目点のまま」
「……うん」
アルベールが天を仰いだ。
マリアンヌが膝の上で祈るように手を組んだ。
サンドラ『……なんか、みなさんの様子が変ですわ』
シャーロット『状況を整理しましょうか。私たちは三日で演目を仕上げなければならない』
ジャスティス『三日で!?』
シャーロット『ええ。しかも相手は宮廷の貴族たち。ヴァンデルビルト公爵令嬢として、最低限の体裁を保てる演目が必要』
シンデレラ『……む、無理じゃないかな……』
レギーナ『……フン』
レギーナが珍しく押し黙った。それが何より雄弁だった。
「ねえ」
エリザベスは三人を見渡した。
「正直に聞くけれど——三日で、どこまでできると思う?」
三人はまた視線を交わした。
アルベールが口を開いた。
「……正直に言うと」
「ええ」
「奇跡が起きれば、笑われない程度には……なれるかもしれない」
マリアンヌが小さく付け加えた。
「……奇跡が起きれば、ですけど」
ヴァイオレットは無言のまま、静かに目を逸らした。
(つまり——全員が、ほぼ無理だと思っている)
エリザベスは少し間を置いた。
それから、静かに微笑んだ。
「じゃあ、奇跡を起こしましょう」
サンドラ『——きましたわ!エリザベス様がその顔になりましたわ〜!!』
ジャスティス『やるしかない!絶対やる!!』
シンデレラ『こわいけど……みんなと一緒なら、できるかも』
シャーロット『……三日間のスケジュールを組むわ。全員、覚悟して』
レギーナ『……フン。付いてきなさい』
アルベールはもう一度天を仰いだ。マリアンヌは祈る手にさらに力を込めた。
どんな絶望的な状況でも、静かに前を向く。それが今のエリザベス・ヴァンデルビルトという人間だった。
「——付き合うわよ」
ヴァイオレットが静かに言った。
「三日間。とことん付き合う」
エリザベスは少し目を丸くした。それから——「ありがとう、ヴァイオレット」




