領主の娘
「妻のアンジェリカだ。レンのお母様だよ。」
いや、違うし。私の母はもっとどっしりでっぷりしたおばさんだ。
「まあ、あなた。いきなりそんな事を言ったらレンさんが困惑するじゃないですか。領主なんだからもう少し落ち着いてくださいな。」
領主さんを窘めるアンジェリカさん。30代前半くらいにしか見えないとっても美しい女性だ。若い。とてもジェロームさんのお母さんには見えない。姉と言われた方が納得できる。アンジェリカさんは私を見て微笑んだ。
「レン、ジェグラシムが突然こんな事を言い出して驚いたでしょ?ごめんなさいね。この人いつも一人で突っ走っちゃうから…。それにいきなり領主の娘になんて言われても異世界からいらしたレンは戸惑ってるんじゃないかしら。」
「はい。この世界の一般的な常識からも外れているようなのに、領主の娘としての振る舞いなんてとても出来そうもありません。私を娘にしたら領主さんやご家族にとてもご迷惑をお掛けすると思います。」
いや、マジで。社交界デビューとか絶対無理。
うふふ、と何故か嬉しそうに笑うアンジェリカさん。
「レンは頭が良いのね。普通は領主の娘にしてやるなんて言われたら迷う事無く飛びついてくるのに。でもレンが心配している事なら安心していいわ。養女になれば住む場所はこの館の敷地内にしてもらう事になるけれど、基本的にレンの自由にしてもらえれば、と思っているのよ。社交の場だって病気って事にしておけば出なくても大丈夫ですし。うちで働く皆にはジェグラシムからよ~~く言い含めておけば大丈夫よ。もちろん私は反対しないわ。でも後で異世界のデザートを是非いただきたいわ。」
最後に己の欲望をぶっ込んできた。やるな、アンジェリカ。てかデザートの威力凄すぎ。
その条件なら大丈夫なのかな…。
「敷地内に住むとのことですが、小さな家を建てて水丸と一緒に住んでも大丈夫ですか?私を養女にしたとして、色々なお付き合いを避ける事は本当に可能ですか?ってか、私を養女にすれば領主さんのお家全体に厄介事が増える予感がするのですが、本当にいいんですか?後、領主さんとアンジェリカさんをお父様、お母様と呼ばなければいけない、というのは勘弁して頂きたいです。」
水丸と一緒に気楽に生活できれば住む場所はどこでも良いしな。
「レン!そんな事を気にしていたのか!レンが私に協力してくるのならそんな程度はどうでもいい事だ!」
「あなた、どうでもいい事ではありませんよ。ちゃんと説明して納得を得なければ後々トラブルになると何度も申し上げてますのに、全く…」
しゅんとする領主さん。アンジェリカさんの尻に敷かれているようだ。アンジェリカさんが言う。
「レン、今は使っていない離れがあるからそこに住んだらどうかしら。後で一緒に見に行きましょう。他の心配事も私達で対応できますし、私達の呼び方なんかレンの好きにすればいいわよ。でも時々レンの離れに遊びに行きたいわ。絶対面白そうだもの。」
ちょいちょい自分の要望をぶっ込んでくるな。
「ありがとうございます。お話をお受けしようと思います。領主さん、アンジェリカさん、これからお世話になります。よろしくお願いします。」
領主さんは満面の笑みで
「おお!めでたい!早速レンの歓迎パーティーの準備を…!」
「あなた。落ち着きましょうね。」
優しく微笑みながらも背後に恐怖のオーラを漂わせたアンジェリカさんの一言で領主さんは大人しくなった。




