美は苦行
私は苦行に耐えた。温かいタオルで顔をグルグル巻きにされても、訳のわからないヌルヌルする物を顔中に塗られても、確実に変顔になっているだろうマッサージをされても、耐えた。髪は軽い感じのショートに、眉毛もきれいに整えて貰った。
「どう?見違えるようでしょ?」
キャシーさんから手渡された手鏡を私は覗き込んだ。メイクをした訳でも無いのに目元がすっきりして肌がつるつるしてる。ショートヘアになったせいか頭も軽くなった。今までのもっさりした私とは全く違う自分に驚きそして少し笑顔になってしまう。
「女性は誰だって、手をかければ美しくなれるものなの。美に困ったらまた来なさい。私が手助けしてあげる。あと、優しいイケメンにはくれぐれも気をつけるのよ。私もそれでスッゴい苦労して…」
それからキャシーさんの長い苦労話を聞かされ料金25000ガルを支払い私は解放された。キャシーさんの性別は結局聞けなかった。
《レン、変身成功だね~。》
「そうかな。ありがとう、水丸。」
私がちょっとテンション高めで歩いていると
「おお、レンさん、見違えました。その髪型、大変お似合いですね。先程は失礼しました。お詫びにお茶でもいかがですか?」
またジェロームさんに捕まってしまった。キャシーさんから気をつけろと言われてたのに。まあ、まだ何をされた訳でもないし、大家さんだし、いっか。私はジェロームさんのお店でお茶を頂く事にした。
昨日とは違う立派なソファーのある部屋に案内された。素敵なティーカップに入った緑茶のようなお茶を一口飲む。味は紅茶だった。
「いやあ、驚きました。あの家が一瞬で新築のような二階建ての家になるなんてすごい魔力ですね。あまりの驚きで取り乱してしまいレンさんに失礼な振る舞いをしてしまって申し訳ないです。」
「いえ、私も魔力が枯渇する寸前になってギルド長に常識を考えろと注意されてますし、ははは。」
意味の無い笑いと少しの嘘で誤魔化す私。ジェロームさんが真剣な顔で私を見る。
「レンさん、率直に言います。私と組んで商売しませんか?魔力が枯渇寸前は嘘ですね。昨日屋上から肉を焼く匂いがしていたと聞いています。魔力が枯渇寸前なら動けないはずです。あれだけの魔法を使ってピンピンしてるなら、他にも色々な魔法が使えるのではないですか?緑大蛇も狩ってらっしゃるようですし。」
肉の匂いまで噂になってたのか。
「うーん。私は普通に暮らせれば冒険者でも商人でも他の仕事でもいいんですけど、私、実は記憶喪失で世間の常識に疎いようで、それで今冒険者ギルドにお世話になってまして。いきなりジェロームさんと商売するのも不安と言いますか。私ジェロームさんの事をほとんど知りませんし。」
しどろもどろで話す私。
ジェロームさんはにっこりと笑った。
「そうですね。私もつい話を急ぎ過ぎました。まずは今レンさんがお世話になっている冒険者ギルドのハロルドさんに私から挨拶をさせて頂こうと思います。レンさん、今日は急な誘いに応じて頂きありがとうございました。」
家まで送るというジェロームさんの申し出を固辞し私は店を出た。
ジェロームはレンを見送った後すぐギルド長ハロルドとの面会予約を取るよう従業員に指示を出した。そしてこの店のスポンサーでもある父に手紙を書き、すぐ届けるよう別の従業員に渡した。父からレンについて調べるよう連絡を受けたから。
[記憶喪失のため世間の常識に疎く冒険者ギルドが面倒を見ている模様。魔力は膨大であると思われる。ハロルドにはすぐ確認をする予定。]




