竜を狩りて、君のもとへ 【妖精と精霊編】
案内された離れは、俺が想像していたよりもはるかにしっかりとした木造の家屋だった。
中に入ってみると、実に四つもの部屋に分かれている。
この小屋は、外護が開拓や見張りから集落に戻ってきた際に寝泊まりするための場所らしい。
これまで寝泊まりしていた小屋も十分によく作られていたが、ここは部屋数が多い分、屋根の造りも一際大きい。
家の中央に立つ柱はどっしりと太く、両腕を回してようやく指先が届くかどうかという圧巻の構えだった。
俺は部屋の中を見回しながら、その意外な広さと建築技術の高さに素直に驚かされていた。
中央に置かれた大きな木製のテーブルは、ちょうど俺の目の高さに頭がくるヨークが両手をいっぱいに広げた程度の幅があった。
それを囲むように、木製の椅子が四脚備え付けられている。
奥の寝室に置かれたベッドも、これまで俺が使わせてもらっていた小屋のものより一回り上等で、今夜ここで眠るのが少し楽しみになるほどだった。
俺たちは、現在空席となっている『西の外護』の部屋で夕食をとることにした。
やがて、屋敷に食事を取りに行っていたフォルが戻ってきた。その手にはたくさんの料理が詰まった大きな木籠が抱えられている。
「さあ、並べるとしよう」
フォルに促され、俺とヨークも手分けしてテーブルの上に料理を並べていった。
爽やかな香りが漂う魚の香草焼きに、こんがりとジューシーに焼かれた猪の肉。焼き立ての香ばしいパンに、色鮮やかな人参とカブがごろごろと入った温かいスープ。
テーブルの上はあっという間に豪華なごちそうで埋め尽くされた。
「秋祭りの宴はまだまだ続いていてね。私は顔を出さねばならない。後はふたりでゆっくり食べてくれ」
フォルは料理を並べ終えると、気さくな笑みを残して部屋を出て行った。
残された俺とヨークは、向かい合って椅子に腰掛け、温かいスープに手を付けながら会話を始めた。
「それにしてもフォルの隠れ身の技は凄かったな。ここに来る途中で誰一人として俺たちに気付かなかったし。あれもやっぱり精霊の術なのか?」
集落を通る際、祭りを楽しむ大勢の民とすれ違ったはずなのに、誰一人として外の人間である俺に視線を向けなかった。
俺の問いに、パンをちぎっていたヨークが頷いた。
「うん。父様が闇の精霊を使って、僕たちの気配と姿を遮断してくれていたんだ。……闇の精霊は他の精霊と違って特別な存在なんだよ」
「特別?」
「闇の精霊は実体を持たないんだ。妖精の姿に変わることはできるけれど、すごく誇り高くてね。めったに人間と打ち解けたりしない。昔、先代の長も使役できたらしいけど、亡くなってからはあの精霊を使役できるのは父様だけなんだ」
そう語るヨークの目は、父親への尊敬に満ちていた。
俺は噛んでいた猪の肉を飲み込んでから呟いた。
「フォルと闇の精霊か……気が合いそうだな」
きっとどこか通じ合うものがあるのだろう。
俺は半目になって納得した。
ヨークは「ん?」ときょとんとした顔で俺を見つめてくる。
俺は無垢な瞳に追求されるのを避けて、以前から抱いていた疑問を口にした。
「精霊と妖精はどう違うんだ?さっき肩にとまってた精霊は、俺が子供の頃に読んだ絵本に描かれていた妖精とそっくりだったぞ」
ヨークは咀嚼していたパンを飲み込んで答えた。
「精霊たちは僕たち人間の想像に合わせてあの姿をしているんだよ。僕たちが妖精をイメージするから、それに合わせて姿を変えてくれているんだ」
「つまり、精霊と妖精は別物ってことか」
俺は次に魚の香草焼きに手を付けた。フォークで身を解すとふっくらと焼けた白身が顔を出す。
ヨークは頷いて話を続けた。
「精霊は普段形を持たない精神体なんだけど、集落の中で気に入った者の願いを聞くために実体化してくれてるんだ。基本的には、古代語の呪文を使って呼び出すんだよ」
「ああ、あれか!」
その言葉を聞いて、俺は思わず指を鳴らした。
小屋の中で初めてヨークが精霊を呼び出したとき、聞こえないほど小さな声で何やら呟いていたのを思い出したからだ。




