竜を狩りて、君のもとへ 【青年の純情編】
フォルは遠い日を懐かしむように微笑んだ。
「後から気付いたことだが、結界の中には我らの捕獲を企てるような邪な感情を持った人間は侵入できないはずなんだ」
それを聞いてヨークが瞳を輝かせた。
「それってつまり……」
フォルは頷いて言葉を続ける。
「つまり、彼は始めから私たちを捕獲しようなどとは考えていなかったということになる」
俺はちっと舌打ちをして頬杖をついた。
「ったく、格好つけやがって。親父らしいぜ」
ヨークは瞳を輝かせながら俺を見つめてせがんだ。
「バルトもお父さんの話を教えて」
思わずうんざりした顔で首を振る。
「ったく、どいつもこいつも親父の話になると目を輝かせやがって。パン屋のエリシアだって……」
俺はそこで墓穴を掘ったことに気付き、口をつぐんだ。
ヨークが純粋な目で俺を見つめて尋ねる。
「エリシアが何?」
俺は明後日の方向を見て適当に言葉を濁した。
「さあな。忘れた」
そこですかさずフォルが口を挟む。
「片恋の相手が父親を好いてしまったそうだ」
俺は図星を刺されて口をぱくぱくさせ、フォルに向かって指をさした。
「……あんた、いい性格してるな!?」
フォルは意に介さないようにすました顔をして水を飲んでいる。
ヨークは父親から俺の顔に視線を移して、無邪気に尋ねてきた。
「フラれたの?」
あまりにも直球な質問に古傷が痛む。
俺は額に手を当てて嘆いた。
「ヴォルフの時といい、おまえら親子そろってほんっといい性格してやがるぜ」
ふと、フォルが思い出したようにヨークに尋ねた。
「今日の舞はずいぶんと官能的だったが、おまえはバルトのことが好きなのか?」
俺は思わず飲んでいた水を吹き出しそうになる。
ヨークは「官能的?」と首を傾げた。
「あの舞は精霊たちが教えてくれたものだよ?こうするとバルトが喜ぶって」
そこで俺の肩にとまっていた精霊が、ニシシと悪戯っぽく笑った。
(……さっきフォルからヨークを必死に庇っていたのは、自分が唆したせいだったからか)
どうやらヨークは、まんまとこいつに乗せられてしまったらしい。
フォルは俺に顔を向けると、真剣な表情で尋ねてきた。
「君はヨークリアのことをどう思っているんだい?」
今の話の流れでそんなことを訊かないでほしい。
俺は焦って答えに詰まった。
先に変な言葉を聞いてしまったせいで、『命の恩人』という言葉がすぐに出てこない。
「いや、どうって……」
俺が口籠もっていると、フォルは予想外の言葉を発した。
「ヨークリアを娶りたいのか?」
俺は焦って首を振り、顔の前で手を振る。
「娶っ!? いやいや、いくらヨークが綺麗だからといっても、男同士だぜ? あり得ないだろ!?」
フォルはあくまでも真顔で尋ねてくる。
「この子は君が死ぬまで美しい姿を保ち続ける。男であることがそんなに問題か?」
俺は混乱しながら答えた。
「い、いや、そういう問題じゃ……。それにあんた、俺がもしそんなことをしたら自分の孫が抱けなくなるかもしれないんだぜ?それでもいいのか!?」
彼は相変わらずすました顔をしている。
「問題ない。その時はもう一人子供を作る」
「なっ……!」
さすが長命の一族。
俺は降参とばかりに空を仰いだ。
「勘弁してくれ。俺は胸の大きな柔らかい女の子が好きなんだ。いくら美人でも男に手は出さないさ」
フォルは「そうか」と少し残念そうに頷く。
その隣でヨークも少し残念そうに俺を見つめた。
それから少しして、ヨークの腹がぐぅぅーと鳴った。
ヨークは恥ずかしそうに腹をさすりながら「お腹空いちゃった」とはにかむ。
俺はその顔を見て、確かにこれが女の子だったら口説いていたかもしれないと思い、慌てて首を振った。
そんな俺の気持ちをよそに、フォルは席から立ち上がると扉に向かって歩き出した。
「今日は祭りのごちそうがたくさんある。二人とも、屋敷の離れで夕食を取るといい」
俺は驚いてヨークと顔を見合わせ、すぐに視線をフォルに戻した。
「もし見つかったら騒ぎになるんじゃないか?」
フォルは得意気に微笑んだ。
「私を誰だと思っている? 先ほど君は、私がすぐ近くにいても気付かなかっただろう?」
彼の言うとおりだった。
初めてフォルに会ったとき、俺はほんの5メートルほどしか離れていない彼に全く気付かなかったのだ。
ヨークは立ち上がると俺の手を取って「大丈夫だよ。父様は集落で一番身を隠すのが得意なんだ」と促した。




