竜を狩りて、君のもとへ 【親父の背中編】
喉のつかえが取れたような気がして俺が納得していると、ヨークはスープのカブにフォークを刺しながら、少し寂しそうに視線を落とした。
「……ねえ、バルト」
「ん? どうした?」
「さっきの父様との話の時、バルトのお父様の話……ほとんど聞けなかったのが残念だったなと思って。父様からは聞いたけど、バルトの口からも聞きたかったんだ」
上目遣いにそう言ってくるヨークの瞳があまりにもまっすぐで、俺は少し照れくさくなりながらも苦笑いを浮かべた。
「……親父の話か。まあ、そんな大層なもんじゃないぜ」
俺はコップの水を一口飲んでから、ゆっくりと語り始めた。
「俺の親父――ロイス・ハーデンは、下級貴族の次男坊として生まれたんだ」
「次男坊……」
「ああ。家を継ぐ立場じゃなかったから、若い頃はがむしゃらに剣を振るってたらしい。成人して間もなく魔物の討伐数が百を超えて、その実績を買われて王国付きの討伐隊にスカウトされたんだ。……で、そのわずか一年後には、王国騎士団から直々にスカウトが来た」
「すごい……! 1年で騎士団にだなんて、本当に強い方なんだね」
ヨークがエメラルドグリーンの瞳をキラキラと輝かせる。
俺は「ま、そうだな」と複雑な思いで頷いた。
「でも親父は迷ったらしい。権力を笠に着るようなやり方は自分の性に合わないんじゃないかって。……けど、『自分が中に入れば、国の腐敗を少しでも止められるかもしれない』と思って入隊を決めたんだとさ」
ヨークはまるで英雄譚を聞く子供のように瞳を輝かせている。
俺は予想どおりの反応に苦笑しながら話を続けた。
「親父は高い志を持って入団した。でも現実はそう甘くなかった。騎士団ってのは聞こえはいいが、実際は王や上級貴族の気まぐれな命令で動く都合のいい駒でしかなかったんだ」
俺の言葉に、ヨークは真剣な表情で耳を傾けている。
「実力だけで副団長まで上り詰めた親父だったが……ある時、国から『希少種の捕獲』を命じられた。それでこの森の近くに狩りにやってきて、フォルたちと出会ったんだろうな」
「それが、さっき父様が話してくれた出来事なんだね……」
「そうだな。……親父は元々、希少種に対する扱いに疑問を感じていたんだ。きっと、自分の信念を曲げるくらいなら死んだ方がマシだと思ったんだろう」
ヨークは憧れを込めた眼差しで俺を見つめ、嬉しそうに微笑んだ。
「信念かぁ……。そういえば、バルトのお父様は貴族なんだよね。ということはバルトも貴族なの?」
俺はスープを飲んで頷いた。
「ああ。俺も一応貴族だからちゃんと学校に通わされて、成人年齢は18歳って決まってる。まあ平民には成人年齢なんてなくて、家業を継いだら一人前扱いだがな」
ヨークは不思議そうに首を傾げた。
「貴族なのに魔物狩りをしてたの?」
俺は空になったスープ皿に視線を落として答えた。
「親父には成人と同時に騎士団に入ることを勧められたよ。騎士団に入れるのは貴族だけだしな。……けど、今のまま騎士団に入ったら、親父の七光りだって揶揄されるに決まってる。だから、俺はあいつのケツを追いかけて騎士団に入るのがどうしても嫌だったんだ」
自分でも青臭いことを言っている自覚はあった。
それでも俺は自分の力だけで親父と肩を並べられるだけの男になりたかった。
「だから、親父とは違う道――魔物狩りで名を上げて、自分の力で親父を超えてやろうと思ったんだ」
淡々と語り終えると、ヨークは心底感心したように深く息を吐き、それから破顔した。
「二人ともかっこいいよ。僕も強くなれたらいいのに」
「別にかっこよくなんてないさ。結局、ただがむしゃらに足掻いてるだけなんだ」
気恥ずかしさに苦く笑うと、ヨークは真っ直ぐに俺を見て首を横に振る。
その眼差しは胸の内にある焦燥をじんわりと温かくほぐしていった。




