竜を借りて、君のもとへ 【父親の邂逅 前編】
俺は話が一段落したところで、木をくりぬいて作られたコップに水を注ぎ、それぞれの席の前に置いた。
それを見て、左肩に乗っていた精霊が俺のコップの上で一回りする。すると、一瞬微かに黄色く光ったような気がした。
精霊が肩に戻った後、俺は毒でも入っているのではないかと警戒しながらそれを飲む。
すると、ほんのりとレモンの爽やかな香りがして、ほのかな酸味が口の中に広がった。
(ずいぶんと気に入られたもんだな)
俺は精霊たちが可愛く思えて微笑んだ。
そんな様子を見ながら、フォルが目を細めて穏やかな声で話しはじめる。
「それにしても、まさか人間だったとは驚いたよ。昨日まではてっきり、手懐けた魔物でも小屋に隠してこっそり飼っているのだとばかり思っていた」
ヨークは父親の洞察力の鋭さに驚いて目を丸くしている。
「いつから気付いてたの?」
「おまえが薬を調合して、いそいそと出かけて行った日から、何か隠しているのだろうとは思っていた」
(それもう、はじめっからじゃねぇか)
俺は改めて、目の前の父親の恐ろしさと、それに全く気づいていなかったヨークの危うさに呆れた。
隠し事など最初から一切通用していなかったのだ。
一歩間違えればヨークのいない間に見つかって、牢に閉じ込められていたかもしれない。
そう思うと、背筋に冷や汗が伝うのを感じた。
斜め前を見ると、ヨークも(あ、危なかったぁ……!)と冷や汗をかきながら胸を撫でおろす様子が伝わってくる。
そして、父親に自分の隠し事が筒抜けだった照れくささを誤魔化すように、彼はぱっと表情を輝かせて俺を振り返った。
「ねぇバルト。バルトのお父様って騎士団長なんだよね? どんな方なの?」
(……ん?)
尋ねてくるその声と仕草に、俺はふと違和感を覚えた。
俺と出会ってからのヨークは、見た目よりもずっと大人びた口調で話していた気がする。
それが今や、まるで父親の膝元で甘える幼子のような、年相応――いや、それ以上に幼い子供のような無邪気さを見せている。
――そういえば、と俺はふと思い出した。
ヴォルフと話していたときのヨークの言葉遣いだ。確かにあの時も、ヨークはどこか幼くて子供らしい口調で話していた。
(なるほどな……俺の前では、少し背伸びして大人ぶっていただけだったのか)
絶対的な信頼を寄せる父親の前だからこそ見せるその素の顔に、俺はどこか微笑ましい気持ちになりながらも、少しだけ可笑しくなった。
俺は一つ咳払いをすると、気を取り直してヨークの質問に答えた。
「お父様なんてガラじゃないぜ。戦闘に関しちゃあ魔物よりも恐ろしい奴さ」
俺の言葉に、フォルは「そうだな」と静かに相槌を打った。
「彼は強く、そして、優しい男だ」
フォルがぽつりと呟いた言葉に、ヨークは期待に胸を膨らませた顔で父親を見つめた。
「父様、どんな方なの?」
フォルは息子の頭を優しく撫でると、まるで絵物語を聞かせる親のように穏やかな目をして微笑んだ。
そして、テーブルの上に組んだ手に顎を乗せ、懐かしそうに目を細める。
「そう、あれは20年ほど前のことだった。この集落の近くに、我々の捕獲を命じられた兵士たちがやってきたのだ。外護たちは結界をより強固なものにして、幻覚を見せる香を焚いたが……それでも一人の青年が運悪くたどり着いてしまった」




