↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/19

竜を狩りて、君のもとへ 【宵闇の対峙編】

 ほんの5メートルほど先に、ヨークに似た20歳くらいの男がいた。


 声がするまで人の気配など全くなかった。

 男はまるで初めからそこにいたかの如く平然と立っている。


 俺はとっさに腰に提げていた剣の柄(つか)に手を添え、もう片方の腕を横に広げてヨークを庇った。


(外さずに持ってきて正解だったぜ)


 息を殺し、男の動向を睨みつける。


「父様」


 緊張の糸を切り裂くように、ヨークの小さな声が漏れた。


 二十歳ほどに見えるこの男が、ヨークの父親――?


 俺はそこでようやく、『女神の寵愛を受けし民』が若い姿のまま歳を取らないのだということを思い出した。


 ヨークの父親は足音ひとつ立てずに近づいてくる。


 その目がバルトを捉えた瞬間、全身の血が凍りつくような錯覚に襲われた。


 抗うことすら許されない、絶対的な格の差。

 一歩足を踏み出すことすら叶わないほどの威圧感に、まるで捕らえられた小動物のように身体が竦(すく)み上がる。


 とうとう目の前まで距離をつめられ、俺はただ冷たい汗が頬を伝い落ちて行くのを感じていた。


「この子を拐(かどわ)かすつもりならやめておけ。どのみちおまえはもうここからは出られない」


 男の右手がゆっくりと持ち上げられ俺の顔の前にかざされる。

 

 そこでヨークが叫ぶように懇願した。


「やめて! 父様! 彼は怪我をしていたから、僕が手当をしてただけなんだ!」


 必死な顔で訴えるヨークを一瞥(いちべつ)して、その男はすぐに視線を俺に戻した。


「この男はおまえの舞台を観に来ていたな。精霊たちがこの男の居場所を隠そうと飛び回っていたことに、私が気付かないとでも思っていたか?」


 その言葉に、ヨークが驚いて息を呑む気配が伝わってくる。


 男の目はどこまでも冷たく、まるでその手は刃の切っ先のように鋭く感じた。

 

 固まる俺の横で、ヨークが震える唇を動かしてなんとか言葉を紡ぎ出す。


「……女神様は争いを好まれない。無抵抗な彼を傷つけることだって、望まれはしないよ?」


 その言葉に、男はふっと薄く笑った。


「問題ない。この男は牢に閉じ込める。我らは何もしない。勝手に衰弱して死ぬだけだ」


 そう言って男は俺の前に差し出した手を開いた。


 俺は剣の柄を握る手に一度力を込め、苦い息を吐ききるとそっと離した。

 そのまま下にだらりと垂らす。


 この男はヨークの父親だ。

 もし傷つけるようなことをすれば、こいつが悲しむ。

 

(ヨークの泣き顔を見るよりはマシだ)


 俺は自嘲して目を閉じた。


「やめて!父様!」


 隣からヨークの悲痛な声が聞こえる。


 その瞬間、ドォン!!と雷の落ちる轟音が鳴り響いた。

 凄まじい衝撃とともに、視界が目も眩むほどの眩い光で満たされる。


 やがて辺りが静寂に包まれた。


 ふっと笑う男の声が聞こえる。


「これだけ言っても剣を抜かないか。……それに、ずいぶんと精霊たちに好かれているようだ」


 目を開くと、俺の周りに色とりどりのたくさんの精霊たちが集まっていた。


 ヨークは何が起こったのか分からず父親を見つめている。


 男は腕を下ろし、どこか形無しといった様子で笑った。


「さすがに私も女神様の怒りを買うのは本望ではない。……確かに、ヨークに良からぬ企みを抱いているわけではなさそうだ」


 俺は緊張の糸が解けて、その場にへたり込んだ。


 すかさずヨークが「大丈夫?」と肩を支えてくる。


 俺は深く息を吐き出して頷いた。


 「なんとかな。……戦う前に死を覚悟したのは初めてだぜ」


 ヨークの父親はそんな俺を見下ろして尋ねた。


「おまえ、名はなんという?」


「……俺の名前はバルトだ。バルト・ハーデン」


 ヨークの父親が驚いたように目を見開く。


「ハーデン? 現騎士団長と同じ家名だな」


 その言葉に俺は忌々しげに答えた。


「騎士団長は俺の父親だ」


「彼には昔世話になった。これも、女神様が繋いで下さった縁(えにし)かもしれんな」


 ヨークの父親はそう言って俺に手を差し出した。


 俺はその手をとって起き上がる。


 その様子を見て、ヨークは心底ほっとして微笑んでいた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。