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悪辣非道お嬢様配信 ~わたくし、お嬢様道を実践しているだけですの~  作者: 白い鴉


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第61話刃物は、門でお預かりしておりますわ

 閉じた荷揚げ場は、広かった。


 人足の掛け声も、起重機の唸りもない。積み上げた木箱の影が、石畳の上に長く伸びているだけ。その真ん中に、卓がひとつ、置かれていた。鈴村さんの屋台の、折りたたみの卓だ。椅子が二脚。脇に、小さな炉と、湯気を立てる鉄瓶。

 卓の右手に、金の飾り文字の倉庫。左手に、鴉の紋の幟を下ろした倉庫。卓は、ちょうどその真ん中にあった。


【コメント】こんにちは

【コメント】荷揚げ場、がらがら

【コメント】ど真ん中に屋台の卓

【コメント】両方の倉庫から、等距離

【コメント】鈴村さん、測ったな


 門のところで、衛兵の方が、空の樽をひとつ据えていた。

 刃物は、ここで預かる決まりだった。


 黒鴉組の番頭様が、懐から短刀を一本出して、樽に落とした。それから、帯の後ろから、もう一本。袖から、もう一本。最後に、足首から、小さなものを一本。

 樽の底で、からん、からんと、四つ鳴った。


「……以上だ」

「本当に、ですか」

「本当に、だ」


【コメント】四本

【コメント】番頭、全身に仕込んでた

【コメント】衛兵さん、疑いの目

【コメント】足首は草


 灰色の外套の方々は、懐から細い刃物を一本ずつ出して、樽の縁にそっと置いた。置き方まで、揃っていた。


 お付きの方は、それぞれ三人ずつ。

 黒鴉組は、番頭様と、若い衆が二人。カルティエは、外套の三人。どちらにも、尾崎様の姿はなかった。


【コメント】若頭いない

【コメント】謹慎中だっけ

【コメント】港の件が片付くまで屋敷から出るな、ってやつ

【コメント】今日、片付けに来てるんだけどな


 鈴村さんと小夜さんは、門の内側の、木箱の陰に控えていた。鈴村さんは炭を足す係で、小夜さんは茶葉の係。

 スタロ様は、起重機の太い脚に背中を預けて、腕を組んでいた。荷揚げ場の全部が、そこから見渡せる。


 二つ目の鐘が、港の鐘楼から渡ってきた。


   *


 門から、二人、入ってきた。


 紺の着流しに、黒い羽織。白髪を短く刈った、痩せた老人。足取りは、ゆっくりで、まっすぐだった。

 灰色の外套に、白い手袋。襟元に、細い銀の鎖。こちらは、靴音ひとつ乱れない。


 鴉山様と、ラクロワ様は、卓を挟んで、同時に椅子を引いた。

 同時に、座った。


【コメント】来た

【コメント】組長とエドモン

【コメント】同時に座った

【コメント】一歩も譲らない座り方

【コメント】空気が重い


 わたくしは、卓の脇に立った。

 鉄瓶を取って、茶碗を二つ、温める。湯を捨てて、小夜さんの店の茶葉を入れて、もう一度、湯を注ぐ。


「本日、立会人を仰せつかりました。九条院瑠璃華ですわ」


 茶碗を、一つずつ、お二人の前に置いた。


「お茶の前に、ひとつだけ、お約束を」


 わたくしは、荷揚げ場をぐるりと見渡した。黒い羽織の三人。灰色の外套の三人。起重機のスタロ様。門の衛兵の方。木箱の陰の、鈴村さんと小夜さん。


「この場で刃物を抜いた方は、どちらの方でも、お片付けいたしますわ」


【コメント】宣言

【コメント】どちらの方でも

【コメント】刃物は門で預けたはずだけど

【コメント】念押し

【コメント】一番おっかない立会人


 鴉山様が、茶碗を取った。

 一口、含んで、しばらく黙っていた。


「……悪くねえ」


 ラクロワ様も、手袋を片方外して、茶碗を取った。


「坂の上のお店の茶葉ですね。存じております」


【コメント】二人とも飲んだ

【コメント】小夜ちゃんの茶葉、両組の頭に褒められる

【コメント】木箱の陰で小夜ちゃんが固まってる


 鴉山様が、懐から、紙の束を出して、卓に置いた。

 ラクロワ様も、同じように。


 卓の上に、紙が並んだ。十枚、二十枚。どれも、同じ字だった。小さく、几帳面な字。どの紙にも、鐘の刻が書いてあった。


 ――一つ目の鐘。向こうが荷を奪いに来る。

 ――三つ目の鐘。日傘の女は、向こうに寝返った。

 ――夕の鐘。東の長屋に、向こうの若い衆が集まっている。


「うちに来たのが、これだけだ」

「私どもに来たのも、これだけです。南の船の者たちのところにも。……鴉山様の番頭殿は、以前、南の船乗りの言葉で呼ばれる名だから、私どもの手の者だろうとおっしゃいましたが」

「言った」

「私どもの船の者も、同じ紙を受け取っておりました」


 鴉山様は、紙の上に、指を一本置いた。


「つまり、だ」

「ええ」

「俺たちは、同じ誰かに、踊らされてた」


【コメント】認めた

【コメント】同じ誰かに

【コメント】カンパネッロ

【コメント】両組の頭が、同じ結論

【コメント】ここまで長かった


 しばらく、どちらも口をきかなかった。

 炉の炭が、ぱちりと爆ぜた。


「それで、どうなさいますの?」


 わたくしが尋ねると、鴉山様は、茶碗を卓に置いた。


「手は打たねえ」

「まあ」

「打ったところで、また紙が来りゃ、若い連中は信じる。信じて、刃物を抜く。……だから、下りる」


 鴉山様は、ラクロワ様を見た。


「仮面の首が見つかるまで、黒鴉組は、港の番から下りる」

「カルティエも、下ります」


 ラクロワ様は、ほとんど間を置かなかった。


「荷揚げ場に、どちらの者もいなければ、紙は撒きようがない。撒いても、刃物を抜く相手がいない」

「仲良くなるわけじゃねえぞ」

「存じております。それから」


 ラクロワ様は、手袋をはめ直した。


「ムッシュ尾崎への貸しは、別のお話です」

「当たり前だ。あれは、あいつのけじめだ」


【コメント】下りる

【コメント】両方とも港から手を引く

【コメント】和解じゃなくて、撤退

【コメント】仲良くなるわけじゃねえぞ

【コメント】若頭の借金は残る

【コメント】ちゃんと大人の話し合いしてる


 鴉山様が、立ち上がりかけた。


 そのときだった。

 港の鐘楼から、鐘が、もうひとつ、渡ってきた。


 黒い羽織の若い衆の一人が、番頭様の後ろで、顔を上げた。

 灰色の外套の一人が、ラクロワ様の後ろで、同じように顔を上げた。


 二人とも、袖の内側に、手を入れていた。


【コメント】え

【コメント】鐘

【コメント】今の鐘、なに

【コメント】二人、同時に

【コメント】袖

【コメント】刃物、門で預けたよな!?

【コメント】もう一本あったのか


 わたくしは、鉄瓶を、そっと炉の上に戻した。


「まあ」


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