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悪辣非道お嬢様配信 ~わたくし、お嬢様道を実践しているだけですの~  作者: 白い鴉


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第60話お茶会の段取りは、お任せくださいまし

 港が閉まった翌朝、日向雑貨店の戸口は、ずいぶん狭くなっていた。


 右側に、灰色の外套の若い男の方。上等な靴を履いて、白い封筒を一通、両手で捧げ持っている。

 左側に、黒い羽織の、白髪まじりの男の方。片目の上に、古い刀傷。腕を組んで、戸口の柱にもたれている。


 二人とも、店の中を向いていた。お互いの方は、一度も見なかった。


【コメント】おはよう

【コメント】なにこの絵面

【コメント】雑貨屋の戸口に、カルティエと黒鴉組

【コメント】片目の傷のおっさん、黒鴉組の番頭だ

【コメント】右の人、前に招待状持ってきた使いの人じゃね

【コメント】小夜ちゃんの店、両組の待合所にされてる


「……郵便受けじゃないって、前にも言ったんだけど」


 帳場の向こうで、小夜さんが、算盤を抱えたまま固まっていた。

 わたくしは、店の隅の丸椅子から立ち上がった。


「ごきげんよう、皆様。わたくしに、ご用ですの?」


 灰色の外套の方が、先に一歩、前へ出た。


「主、エドモン・ラクロワより。マドモアゼル九条院へ」


 封筒には、銀の封蝋。開くと、細い流れるような字で、短く書いてあった。


 ――黒鴉組と、一度だけ、同じ卓につきたく存じます。場所は、どちらの屋敷でもなく。立会人は、どちらにも与しない方に。その方の用意される場であれば、私は刃物を持たずに参ります。


 読み終えて顔を上げると、黒い羽織の番頭様が、柱から背を離していた。


「親父からの言伝だ。同じことを言いに来た」


 番頭様は、懐から、折りたたんだ紙を二枚出した。

 どちらも、同じ字だった。小さく、几帳面な字。


 ――明朝、一つ目の鐘。上からの最初の荷を、向こうが奪いに来る。


「うちに届いたのと、カルティエに届いたのと。昨日、港で突き合わせた。……誰かが、両方に同じ紙を撒いてやがる」


【コメント】投げ文

【コメント】カンパネッロのやつ

【コメント】両方に同じ紙

【コメント】それで、話し合いか

【コメント】やっと気づいたか、組の偉い人たち


「それでな」


 番頭様は、紙を懐に戻して、わたくしを正面から見た。


「親父は、前にあんたに頼んだ。港のことから手を引いて、外にいてくれと。あんたは断った」

「ええ。悪い方々が港にいらっしゃる限りは、と」

「だから、今度はこう言えと言われた」


 番頭様は、一度だけ、咳払いをした。


「外にいてくれと頼んだ。だから、外から見ていてくれ。……どっちの側でもねえのは、あんただけだ」


【コメント】親父、筋が通ってる

【コメント】断られた頼みを、形を変えて頼み直してきた

【コメント】外から見ていてくれ

【コメント】お嬢、両方から頼まれた

【コメント】一番頼んじゃいけない人に


 わたくしは、封筒と、番頭様と、灰色の外套の方とを、順番に見た。

 それから、胸の前で、そっと手を合わせた。


「まあ。それは、つまり」

「つまり?」

「お茶会、ですわね!」


 小夜さんの手から、算盤が落ちた。


【コメント】あ

【コメント】お茶会

【コメント】出た

【コメント】広場が消えたやつ

【コメント】算盤落ちた


「お任せくださいまし。お茶会の段取りでしたら、わたくし、少々心得がございますの」


 わたくしは、帳場の上の半紙を一枚、拝借した。筆を取る。


「場所は、そうですわね。歓楽街の噴水広場はいかがかしら。開けておりますし、前回はお茶が冷めてしまいましたから、今度こそ温かいうちに。茶葉は、小夜さんのお店のものを。お席は、両家の皆様がたくさんいらしてもいいように、広場いっぱいに――」

「待って」

「卓は、噴水を挟んで、向かい合わせに――」

「待ってってば」


 小夜さんが、帳場から回り込んできた。

 算盤を拾いもせずに、わたくしの手から、そっと筆を抜き取った。


「……ちょっと、串屋さんに届け物があったの、忘れてた」

「まあ。今でなくても」

「すぐ戻るから。何も書かないで待ってて。何も」


 小夜さんは、前掛けも外さずに、店を飛び出していった。


【コメント】小夜ちゃん逃げた

【コメント】いや、援軍呼びに行った

【コメント】届け物は口実

【コメント】串屋さん呼びに行ったな

【コメント】正しい判断

【コメント】番頭、小夜ちゃんの背中を目で追ってる

【コメント】カルティエの使いの人も

【コメント】二人とも、今ちょっとだけ同じ顔してた


   *


 小夜さんは、本当にすぐ戻ってきた。

 後ろに、前掛け姿の鈴村さんを連れて。手に、竹の皮で包んだ串を一包み、提げていた。


「おはようございます、九条院様。番頭さんも、お使いの方も。……小夜さんから、少し伺いまして」


 鈴村さんは、戸口の二人に、それぞれ同じだけ頭を下げた。それから、わたくしの手元の、書きかけの半紙をちらりと見た。

 噴水広場、と書いたところで、止まっていた。


「九条院様。お茶会、とても良いお考えだと存じます」

「まあ。鈴村さんも、そう思われます?」

「ええ。ただ、港のお話は、港でなさるのがよろしいかと。広場ですと、関わりのない方々が、大勢通りますので」


 鈴村さんは、穏やかに続けた。


「荷揚げ場が、今日も閉まっております。人足の方々もおりませんし、どちらの組の持ち物でもございません。衛兵の隊長さんには、私からお願いしてみましょう。卓と椅子と、湯を沸かす炉くらいは、屋台のものでよろしければ」

「お席は、両家の皆様、たくさん――」

「お付きの方は、三人ずつ、というのはいかがでしょう。卓に着かれるのは、組長さんと、ラクロワ様だけ。刃物は、荷揚げ場の門の外で、衛兵さんにお預けいただく」


 番頭様が、低く唸った。

 灰色の外套の方は、黙って、小さく頷いた。


「茶葉は、小夜さんのお店のものを。お茶は、九条院様に淹れていただけたら、両家とも、文句のつけようがございません」


【コメント】鈴村さん、全部組み直した

【コメント】お茶会の名目は残して、中身を全部安全にした

【コメント】広場いっぱい→三人ずつ

【コメント】プロの段取り

【コメント】お嬢の顔も立ててる

【コメント】小夜ちゃん、裏でガッツポーズしてそう


 わたくしは、半紙の「噴水広場」の字を、しばらく見ていた。

 少しだけ、名残惜しかった。けれど、港のお話は港で、というのは、もっともだった。


「承りましたわ。では、場所は荷揚げ場。お茶は、わたくしが」

「ありがとうございます」


 鈴村さんは、深く頭を下げた。

 それから、戸口の二人の方へ向き直った。


「刻限は、どういたしましょう」

「二つ目の鐘だ」


 番頭様が、すぐに言った。

 灰色の外套の方も、同じ言葉を、ほとんど同時に口にした。


 二人は、そこで初めて、お互いの顔を見た。

 それから、同時に、目を逸らした。


【コメント】揃った

【コメント】今、初めて目が合った

【コメント】そして逸らした

【コメント】仲良くはならない

【コメント】二つ目の鐘、か

【コメント】鐘の刻、カンパネッロの手紙と同じ書き方なのが、なんかやだな


   *


 戸口の二人が帰っていったあと、店の外で、光の足場の音がした。


 白い影が、軒先に降り立った。

 スタロ様は、少しだけ息を切らしていた。蛍光の線が、朝の光の中で、せわしなく明滅している。


「……いた。港で、話すって言ったまま、ずっと話せてなかったからな」

「まあ。スタロ様、ごきげんよう」

「今、港の方に、カルティエの使いと黒鴉組の番頭が並んで歩いていくのが見えた。並んで、だぞ。……何があった」


 わたくしは、半紙をたたんで、胸に当てた。


「お茶会ですわ。わたくし、立会人を仰せつかりましたの」


 スタロ様は、しばらく黙っていた。

 それから、兜の奥で、深く息を吸う音がした。


「……俺も行く」

「まあ。スタロ様も、お茶を」

「飲まない。立ち会う。お前が立会人なら、お前を立ち会う奴がいるだろ」


【コメント】スタロ、全部察した

【コメント】お前を立ち会う奴

【コメント】立会人の立会人

【コメント】正しい

【コメント】小夜ちゃん、うしろで深く頷いてる


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