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悪辣非道お嬢様配信 ~わたくし、お嬢様道を実践しているだけですの~  作者: 白い鴉


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110/171

第110話三十秒、お待ちしておりましたのに

 割れた雲の穴から、銀色の何かが、まっすぐに落ちてきた。


 芝が、えぐれた。

 着地の揺れで噴水が割れ、水が根元から噴き上がって、雨のように降った。白い上着の方が二人、芝の上を転がっていった。


 土煙の中で、大きな影が、ゆっくりと立ち上がった。


 昨日、宿の壁の板に映っていた、銀の胸甲の男だった。


「ハーッハッハッハ! 式典の皆さん、もう大丈夫だ!」


【コメント】来た

【コメント】スターグリント

【コメント】昨日ニュースで見た人

【コメント】本物

【コメント】噴水、一撃で壊れた

【コメント】着地だけで二人いった

【コメント】二十一


 白い上着の方々の銃口が、一斉に、そちらを向いた。

 連射の音が、また鳴った。火花が、銀の胸甲の上で、雨のように散った。


 スターグリント様は、避けもせずに、まっすぐに歩いた。足場の一枚も、使わなかった。昨日の板の中で、青い筋を胸で受けていたときと、何も変わらなかった。

 ひとり、ふたりと、芝に沈んでいく。三人目が、東屋の柱の陰に逃げ込んだ。

 スターグリント様は、柱ごと、その方を殴った。


 白い東屋の屋根が、半分、傾いた。


【コメント】東屋

【コメント】柱ごと

【コメント】中に人質いるんだぞ

【コメント】二十四

【コメント】屋根、傾いてる

【コメント】小夜ちゃん!


 東屋の中で、悲鳴が上がった。

 傾いた屋根の下で、名士の方々が、頭を抱えてうずくまっていた。島の持ち主の紳士と、その背中に手を添えた小夜さんも。


 スタロ様が、新しい光の足場を蹴って、東屋の中へ飛び込んだ。

 傾いた梁を、両腕で、下から支えた。


「出ろ! 今のうちに、全員、外へ!」


 名士の方々が、這うようにして東屋から出ていく。小夜さんが、紳士の腕を肩に回して、最後に出てきた。


 二十八。


 残りの白い上着の方々は、もう、逃げ出していた。

 ゲイリー様が、目の前を走り抜けようとした一人を、卓ごと殴り倒した。ほかの方々は、スターグリント様が追いかけて、ひとりずつ芝に沈めていった。

 東屋の入口の脇にいた給仕の頭は、銀の籠手の拳を、連射銃ごと胸に受けて、芝の上を転がっていった。


 三十。


 わたくしは、日傘の柄を握ったまま、それを見ていた。

 術式は、とうに組み終えていた。お借りする目の当ても、ついていた。


 芝の上で、給仕の頭が、胸を押さえて丸くなっていた。


「……まあ」


【コメント】三十

【コメント】終わってた

【コメント】お嬢、撃ってない

【コメント】先を越された

【コメント】頭、まだ芝で転がってるぞ

【コメント】初めて見た、この形


   *


 芝の上に、白い上着の方々が、何人も転がっていた。


 胸を押さえていた給仕の頭が、東屋の前の、島の縁ぎりぎりの芝まで這っていって、膝をついた。両手を上げていた。銃は、とうに放り出されていた。

 東屋から出たばかりの小夜さんと紳士は、まだ、その近くにいた。


「……降参だ。降参する。浮き石なんざ、いらねえ。牢でも何でも入る」


 スターグリント様は、その方の前に立った。

 見下ろして、笑った。


「牢に入れば、いずれ出てくる」

「……は」

「出てきた君は、また誰かの島を狙う。それでは、エバーポートは安全にならない」


 スターグリント様は、給仕の頭の襟首を、片手で掴んで持ち上げた。

 紳士の体を支えた小夜さんは、そのすぐ二歩先に立っていた。


 銀の籠手の中で、光が、ひとつ、弾けた。


 光の粒が、ひとつ、昇っていった。


【コメント】……

【コメント】え

【コメント】降参してたのに

【コメント】今、何した

【コメント】始末

【コメント】生中継で

【コメント】NPCがNPCを


 スターグリント様は、空になった手を、軽く払った。

 それから、宙に浮かんだ硝子の目の方へ、くるりと振り返った。


「エバーポートは、今日も安全だ!」


 白い歯。

 右手の親指が、ぐっと立った。


【コメント】サムズアップ

【コメント】この直後に

【コメント】サムズアップするな

【コメント】ニュース的には、たぶん「英雄、式典を守る」

【コメント】上層の人たち、拍手してる

【コメント】名士さんたち、普通に拍手してる


 芝の上で、名士の方々が、少しずつ立ち上がりはじめていた。誰かが手を叩いた。それが、すぐに広がった。


 わたくしも、その拍手に加わった。


「まあ。お見事ですわ。三十秒、お待ちしておりましたのに。わたくしの出番は、ございませんでしたわね」


【コメント】拍手した

【コメント】お嬢、拍手してる

【コメント】知ってた

【コメント】出番取られて、ちょっと残念そうなのが一番こわい


 小夜さんの手は、紳士の体を支えたまま、動かなかった。


 光の粒が昇っていったあたりを、見上げていた。

 顔から、色が抜けていた。唇が、何かの形に、少しだけ開いて、そのまま止まっていた。首飾りを握った指の関節が、白かった。


「小夜さん?」


 小夜さんは、わたくしを見た。

 見て、何か言おうとして、やめた。


「……ううん」


 それだけ言って、紳士を支え直した。


【コメント】小夜ちゃん、真っ青

【コメント】目の前だったもんな

【コメント】そりゃ怖いよ

【コメント】……怖い、だけかな


   *


 スターグリント様が、大股で、こちらへ歩いてきた。


 硝子の目が、ふわりと、その肩の後ろについてくる。スターグリント様は、わたくしの前で足を止めると、わたくしの頭の上を、ちらりと見た。

 賞金首の赤い札が出るはずのところを。何も出ていない、そこを。


「勇敢なお嬢さんだ! 逃げずに、最後まで、そこに立っていたな!」


 大きな手が、差し出された。


 わたくしは、日傘を肩に預けて、その手を取った。

 籠手越しでも、固い手だった。


「お褒めにあずかり、光栄ですわ。悪い方々を、まっすぐに片付けていらっしゃるお姿、素敵でございました」

「ハーッハッハッハ! 市民の声援が、私の力だ!」


 スターグリント様は、握った手を、硝子の目の方へ、高く掲げた。

 もう片方の手で、また、親指を立てた。


【コメント】握手

【コメント】ツーショット

【コメント】この島を落とした女と、この島を守った男の握手

【コメント】世界で一番やばいツーショット

【コメント】スターグリント、頭の上見て、賞金首の札がないのを確かめてた

【コメント】札がないから、善良な市民

【コメント】判定上、問題はございません(英雄版)


 少し離れたところで、スタロ様が、傾いた東屋の前に、立ち尽くしていた。


 スタロ様は、こちらを見なかった。

 白い上着の方が昇っていった、島の縁の上の空を、ずっと、見上げていた。拳は、握られたままだった。


 ゲイリー様が、芝の上に転がった白い上着の方々を、ひとりずつ、見下ろして回っていた。


「……さっきの頭、上の手配書で見た顔だった。賞金のでかい方の」


 それから、空を見上げて、ぼそりと言った。


「……また、横取りだ」


 傾いた東屋の屋根から、白い瓦が一枚、芝の上に落ちて、割れた。


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