↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪辣非道お嬢様配信 ~わたくし、お嬢様道を実践しているだけですの~  作者: 白い鴉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
108/171

第108話素敵な方が、映っておりますわ

 上層の朝は、壁が喋る。


 宿の食堂の壁に、板が一枚、はめ込まれていた。遠くの景色を、絵も声もそのまま映し出す、硝子の映像の板だ。上層では、どこの壁にも、これがあるらしい。朝の光の中でも青白く灯って、さっきから、同じ女の方の声が流れている。


『――おはようございます、エバーポートNEWS、美城アリアです。今朝の見出しです。銀行の島では、本日昼から、新しい硝子張りの大金庫のお披露目が行われます。点検のため閉鎖されていた庭園の島は、近く、式典とともに再開の予定です。……それでは、本日のオススメニュース!――と参りたいところですが、ただいま速報が入りました! 市場の島の三番通りで、プレイヤーとみられる武装した集団が、両替所に押し入ったとの通報です! 現場から中継で、ChECk☆it☆OuT☆!』


 最後のひと言だけ、声が三つほど跳ね上がった。

 板に映る景色が、白い石の通りに切り替わった。通りが、揺れていた。逃げていく人々。割れた硝子の扉。扉の中から、麻袋を担いだ男たちが飛び出してくる。


【コメント】おはよう

【コメント】上層の朝、ニュースで始まる

【コメント】見出しは普通のニュースなんだな

【コメント】オススメ、強盗になった

【コメント】最後だけテンションどうした

【コメント】ちぇっくいっとあうと

【コメント】強盗の生中継なのに

【コメント】プレイヤーの強盗か

【コメント】上で稼いでる連中か

【コメント】乗り場で暴れてた連中の残りかな


 わたくしは、焼きたての白いパンを、小さくちぎっていた。

 向かいの席で、小夜さんが、さじを持ったまま板を見上げている。スタロ様は、壁にもたれていた。夜のあいだ、どこかへ出ていたらしい。装甲の肩のところに、焦げた跡がひとつあった。


『――あっ、来ました! 来ました! 上層の英雄、スターグリントです!』


 板から流れる声が、さっきの決まり文句より、さらに高くなった。


 空から、何かが落ちてきた。


 石畳が、網の目のように割れた。土煙の真ん中に、男の方がひとり、片膝をついていた。

 ゆっくりと、立ち上がる。


 大きな方だった。銀の胸甲に、金の縁取り。肩当ての下から、裾の短い紺のマントが垂れている。胸の真ん中には、金色の稲妻の形をした紋。

 兜も、仮面もなかった。刈り込んだ金の髪。四角い顎。笑うと、歯が、朝の光より白かった。


「ハーッハッハッハ! 市民諸君、もう大丈夫だ!」


【コメント】出た

【コメント】スターグリント

【コメント】上層のNPCヒーローか、噂の

【コメント】顔出し!

【コメント】歯が白い

【コメント】笑い声、音割れしてる


 麻袋の男たちが、腰の光線銃を抜いた。

 青い筋が、三本、四本、まっすぐに胸甲を撃った。


 スターグリント様は、避けなかった。

 光線を胸で受けたまま、まっすぐに、歩いていった。焦げ跡ひとつ、つかなかった。


「効かん! 効かんぞ!」


 次の瞬間には、走っていた。

 ひとり目を、肩で跳ね飛ばす。二人目の光線銃を、銃身ごと握り潰す。三人目が麻袋を盾にしたので、麻袋ごと殴った。銭が、通りに雨のように降った。


【コメント】正面突破

【コメント】避けない

【コメント】光線、全部胸で受けてる

【コメント】銃を握り潰した

【コメント】麻袋ごといった

【コメント】戦い方が雑すぎる


 四人目が、通りの脇の果物屋の屋台へ逃げ込んだ。

 スターグリント様は、屋台ごと、その方を蹴り上げた。


 屋台の屋根が、空を飛んだ。橙色の果物が、通りいっぱいに転がっていった。


 光の粒が、四つ、昇っていった。

 スターグリント様は、それを見送りもせずに、くるりとこちらを向いた。こちら、というのは、板を見ているわたくしたちの方だった。


「エバーポートは、今日も安全だ!」


 白い歯。

 それから、右手の親指を、ぐっと立てた。


【コメント】サムズアップ

【コメント】カメラ目線

【コメント】カメラの位置、完全に分かってる

【コメント】屋台、蹴り上げたけどな

【コメント】果物屋のおっちゃん……


 板の端に、前掛けの年配の方が映っていた。屋台のあった場所に、ぽつんと立っていた。

 スターグリント様は、その方の前へ大股で歩いていって、両手で、がっしりと手を握った。


「ご協力、感謝する!」

「……協力、は」

「屋台のことは、気にするな! 悪党は、片付いた! ハーッハッハッハ!」


【コメント】握手した

【コメント】まず殴って、そのあと握手

【コメント】おっちゃん、協力してない

【コメント】気にするな、って言われても

【コメント】おっちゃんの今日の稼ぎ……


 わたくしは、ちぎったパンを、皿に置いた。


「まあ。素敵な方ですわね」


【コメント】言うと思った

【コメント】お嬢、絶対好きなタイプ

【コメント】お声も大きくて、とか言いそう

【コメント】混ぜるな危険


「お声も大きくて、笑顔も爽やかで。悪い方々を、ご自分の手で、まっすぐに片付けていらっしゃる」

「……屋台、蹴ったぞ」


 壁際で、スタロ様が、低く言った。

 板には、しゃがみ込んで、転がった果物を一つずつ拾い集める果物屋の方が映っていた。スタロ様は、中継が別の場面に切り替わるまで、ずっと、その背中を見ていた。


【コメント】スタロ、果物屋さんの方見てる

【コメント】見るとこがいつもそこ

【コメント】ヒーロー二人で、見てるとこが真逆

【コメント】お嬢は英雄を見てて、スタロは果物屋を見てる


 小夜さんは、さじを持ったまま、何も言わなかった。


   *


 昼過ぎに、宿の戸口が、大きな影でふさがった。


「よう」


 ゲイリー様だった。胴着の肩が、一か所、黒く焦げている。腰の銭袋が、昨日より、はっきりと重そうに揺れていた。


「上の手配書の獲物、二人仕留めた。……帰りの艇の運賃も、取れた」

「まあ。おめでとうございます」

「ただな」


 ゲイリー様は、食堂の壁の板を、親指でしゃくった。

 板には、また、あの方の笑顔が映っていた。


「でけえ札は、全部あの金ピカが持ってく。今朝も、目ぇつけてた四人組を、俺が着く前に屋台ごとやりやがった」

「まあ。お仕事が早い方ですのね」

「早すぎんだよ」


【コメント】今朝の強盗、ゲイリーの獲物だったのか

【コメント】横取りされた

【コメント】金ピカ

【コメント】ゲイリーの呼び方、雑

【コメント】上層の賞金稼ぎ、全員あいつに泣かされてそう


   *


 日が傾きはじめたころ、鈴村さんが、宿に戻ってきた。


 紺の上着の襟もとが、昨日よりも、もう少し緩んでいた。手には、封をした書状が一通。

 食堂の卓に、それを置いて、鈴村さんは、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。


「まとまりました」


 小夜さんが、さじを置いた。


「上の方々が、下町の代表を、これからの正式な話し相手として、お認めくださいました。決まりを作っていただくのは、まだ先ですが。……少なくとも、話を聞いていただける場所が、できました」

「すごい」


 小夜さんの声が、少しだけ、上ずった。


「鈴村さん、すごいよ。串屋さんなのに」

「串屋ですので、根気だけはございます」


 鈴村さんは、目もとを和らげて、書状の封を指で撫でた。


「最後に、あの背の高い役人の方が、こうおっしゃいました」


 鈴村さんは、少しだけ背筋を伸ばした。

 声の調子を、ほんの少し、平らにする。


「――以上です」


 小夜さんが、吹き出した。


【コメント】www

【コメント】鈴村さんのモノマネ

【コメント】似てる

【コメント】以上です(串屋の声で)

【コメント】この人、こういう冗談言うんだ

【コメント】交渉、二日でまとめたのか、さすが

【コメント】串屋の根気


 小夜さんは、笑いながら、ふと、自分の前掛けを見下ろした。


「……明日の式典、わたし、これで行くの?」

「まあ。何か、問題がございますの?」

「庭園の島の式典だよ? 上の、偉い人たちが来るんでしょ。わたし、前掛けしか持ってない」


 小夜さんは、前掛けの端を、両手でつまんでみせた。

 それから、首もとの首飾りに、そっと指を当てた。


「……これだけ、磨いとこうかな」


 鈴村さんは、小夜さんの指先の首飾りを、穏やかに見ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。