初めての友達
男はしばらく様子を見てから、近寄り静かに手を合わせた。
「山の恵みをいただきます、無事に山の命として戻れますように・・・」
男は仕留めた猪に祈りの言葉をささげていた。
祈りの言葉を言い終わり、慣れた手つきで猪の処理を始めた。
処理がひと段落したのか、こちらに振り向いた。
「もう大丈夫だ、こっち来ていいぞ」
呼ばれたので、隠れていた岩陰から男のところまで移動する。
「痛っ!?」
歩こうとしたときに足の裏から痛みが走り、うまく歩けなかった。
男のもとに向かいたかったが、思わず足の裏を見た。
小枝の破片が刺さり、尖った石を踏んだせいなのか足の裏からは血が出ていた。
「ん、どうした。怪我してるのか?」
自分が男のもとへ来ず、足を確認しているのを見てこちらに歩いてきた。
「見せてみろ」
「・・・結構切れてるな、治療してやる。これ飲んで待ってな」
男は肩から腰にかけて縄を巻いている。
縄には2本の竹の筒や、いろいろなものがついていた。
そこから竹の筒を1本をこちらに手渡した。
筒は竹の水筒だった。
「腹減ってるなら、これも食っていいぞ」
同じく縄につけていた、平たく薄茶色をした干し芋をくれた。
「オラはコダってんだ、なんかあったら大声で呼べ、じゃあ待ってろよ!」
そう言ってコダと名乗る男は木々の向こうへ消えていった。
コダが見えなくなってから、もらった水筒を見た。
「・・・そういえばここ異世界だよな、飲んで大丈夫かな・・・?」
渡された水筒の線を抜き、恐る恐る口に入れる。
慎重に一口水を飲んだ瞬間、そんな心配なんかどっかいってた。
「みず、水!」
炎天下の中、数時間歩き回っていて脱水症状も起きかけていた。
ぬるめの水は、この世で1番美味いんじゃないか、と思えるほどだった。
水筒の水はほとんど飲んだだろうか、水筒を振るとチャプチャプ音がする。
「やべ、飲みすぎたかな」
この暑さだ、コダだって必要だから持ってきた水だ。
それを自分がほとんど飲んでしまったことに気づき、申し訳なくなった。
「仕方ない、彼が戻ってきたら謝ろう・・・」
「あとはこの芋か、これも食べて大丈夫かな・・・?」
彼は食べてもいいと言ってくれた。
朝から何も食べていなかったので、お腹はすいている。
水は気にせず一気に飲んでしまったが、食べ物はどうだろうか?
口に入れずちょっとだけ舐めてみた。
「しょっぱい・・・塩味だ」
日本の干し芋のイメージで甘いと思っていたが、塩味なのでちょっと驚いた。
舐めてみたところ問題なさそうなので、少しかじって口に入れる。
ちょっと堅めの芋で、噛んでいくと少し粘り気が出てきた。
最初は塩味、噛みしめるほど淡白な味の中にほのかな甘みも感じられた。
「うめぇ・・・」
最初の一口をゆっくり味わった後に飲み込む。
汗もかなりかいていたので、この塩気は嬉しくてたまらなかった。
もう一口、もう一口と、少しずつかじりながら、大切に頂いた。
水も飲めて、芋も食べられた。
朝からいろいろなことが起きた後、ようやく落ち着けた気がする。
「コダって人、いつ戻ってくるのかな・・・」
落ち着いた後は、また猪が来るんじゃないか、肉食の獣が来るんじゃないかとちょっと怖かった。
周りを警戒してみていたが、特に異常はない。
しばらく周りを警戒していたら、ガサガサと音がした。
驚いてその方向を見ると、コダが葉っぱや草をたくさん持って出てきた。
コダは近くまで来て、持っていたものを地面に置いた。
「待たせたな、具合はどうだ?」
コダは自分に対して、明るく目をクリっと見開き笑顔で声をかける。
すごく優しそうな青年だと思った。
社会人として助けてもらったお礼は言わなきゃと、正座を組み頭を下げた。
「コダ様、危ないところを助けていただき、誠にありがとうございました」
「また頂いた水も芋も大変おいしく頂戴いたしました、重ねてお礼申し上げます」
「頂いた水もほとんど飲んでしまいました、申し訳ございません」
正座での謝礼と謝罪をコダは驚いて見ていた。
そのあと大きく笑った後に
「いいっていいって、困ったときはお互い様だろ、気にすんな」
「しっかし、おめぇ変わった言い方すんだな、ほかの村じゃそんな言い方すんのか?」
「芋美味かったろ、うちの村の自慢なんだよ!」
と、明るく話しかけてきた。
「そいえばおめぇ名前聞いてなかったな、なんていうんだ?」
「小林 晴久と申します」
「コバヤシハルヒサ・・・、長ぇな・・・どこまでが村の名前だ?」
その質問を受けたときに、よくある異世界物の中で苗字を持たない人たちもいることを思い出した。
別世界から来たってことは伏せておいた方がいいだろう。
「コバヤシが村で、ハルヒサが名前です」
「そうか、オラはトルネ村のコダだ、改めてよろしくな!」
コダは明るく挨拶してきたので、こちらも挨拶を返す。
「こちらこそコダ様、改めてよろしくお願いいたします」
言葉を返した後、コダはまた笑って
「そんな変な言い方はやめてくれよ、あとオラはコダでいいぞ」
「ハルヒサも長いから、ハルって呼んでいいか?」
敬語はやめてタメ語でいいのかな・・・。
あと名前の呼び方も今は従った方がよさそうだ・・・。
「もちろん、よろしく・・・コダ」
いきなり敬語を使わなくなるので少しぎこちなく言ってしまった。
「おう、じゃあ傷の具合見るから足だしな」




