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社会人として

「・・・仕事、どうしよう・・・」


ここが日本じゃないなら、月曜からの仕事はどうなる・・・。


「前に契約した会社とのアポイントがある。このままだと、すっぽかしてしまう・・・」

「同僚に頼まれた仕事もできない。あいつ、絶対困るよな・・・」

「プレゼン資料も作らなきゃ・・・」


仕事でやらなければならないことが、次々と頭に浮かんでくる。


あれこれ考えていくうちに、


「・・・母さん」


家族のことが頭をよぎった。

山に行くとは伝えていた。

けれど、帰ってこなければ心配するだろう。


「これ、失踪扱いになるのかな・・・」

「捜索願とか出されて、山でも捜索隊が出るよな・・・、いろいろ起きるよな・・・」


日本で生活していたら起こり得るトラブルが、次々と思い浮かんでくる。


もう家族にも、友達にも会えない。

そう思った瞬間、急に怖くなった。

しばらく考えがまとまらず、その場に座り込んで、うずくまっていた。


どれくらいそうしていただろう。

やがて、少しだけ頭の中が整理されてくる。


「・・・とりあえず、日が昇るのを待とう」


今は何も分からない。


だったら、今できることから考えるしかない。


「今は悩むのをやめよう、ここがどこなのか、近くに水源があるのか探さなきゃな」


夜だというのに、気温は夏の夜のように高い。

日が昇れば、さらに暑くなるだろう。

このまま水が飲めなければ、脱水症状を起こすのは時間の問題だ。


ただ、今は夜で視界が悪い。

下手に動いて怪我をしたら、それこそ最悪だ。


「明るくなってから、水を探そう」


そう決めて、立ち上がろうとした。


御殿場で使っていた椅子は、この近くにあるはずだ。

椅子のそばに置いていたランタンを使えば、足元を照らしてテントまで戻れる。

そう思って周囲を見回した。


「あれ?」


椅子がない。


「ランタンも・・・ない?」


御殿場の山で、椅子から落ちて倒れ込んだところまでは覚えている。

だから、その付近にあるはずだった。

特にランタンは明かりがついていれば、すぐに見つかるはずだ。


「ない?」


嫌な予感がした。


慌てて服のポケットを探る。


「スマホもないぞ!?」


反対側のポケットも探す。


「財布も!?」


腕を触る。


「腕時計もない・・・」


何度も身体や服を確認する。


けれど、何もない。


身に着けているのは、服と履いている靴だけだった。


「マジかよ・・・」


異世界に飛ばされた。

そう理解して、少しでも希望を持って行動しようとした矢先だった。

その希望すら、あっさりと打ち砕かれた。


何も考えられなくなる・・・。


その場に再びうずくまった。


家族もいない。


会社もない。


スマートフォンもない。


財布もない。


時間すら分からない。


そして、自分がどこにいるのかさえ分からない。


しばらくうずくまっていると、これまでの疲れが一気に押し寄せてきた。


考えることもできなくなり、いつの間にか眠ってしまった。


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