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ごちそう

コダの家の入り口は木や竹でできた簾がかかっていた。


簾をくぐって家に入る。

入ると解体場で嗅いだ、虫よけの木を焼いた煙のにおいがした。

家の広さは現代でいう、ワンルームアパートくらいだろうか。


床は土のままで、右手側に藁が広く敷かれている。その上には簾がかかった窓が設置されていた。

左側は作業場だろうか、さっきラビが言っていた草鞋を作っていたのか、細い藁や何かの道具が積まれている。

中央には藁が敷かれていて、その上に木でできた脚の短いテーブルが設置されていた。

ここで食事を行うのだろうか。


左奥の壁側から、かまどが設置され、水がめ、食糧や食器を置くための棚が順に設置されていた。


三人が住むのには狭いと思ったが、この世界ではこれが普通なのだろう。


ドネは草の包みを広げ、肉を調理し始めている。


「かーちゃんが料理している間に、俺はハルに虫よけの草塗ってやる、ハルはそこに座ってくれ!」


コダは右側の広く敷かれた藁の上に座るよう促した。


そういえば山の道の途中で虫よけの草を塗ってくれるって言ってたな・・・。

転移時からここに来るまでに、結構蚊に食われていたのでいろいろ痒かった。


蚊に食われなくなるなら助かるけど、また口で草を調合するのは勘弁してほしいな・・・。

そう思いながらコダに言われた藁の上に座った。


あ、草鞋脱いでなかった・・・。


「ごめんコダ、草鞋脱いでなかった、今脱ぐね!」


「あーいいよ、足の傷のところに草塗ったろ、落ちないように寝る時までは履いておいた方がいい」


「ほんとは脱がなきゃだめだよ、ラビも脱ぎ忘れたときお母ちゃんに怒られるんだ」


「次からはちゃんと脱いでよね」


ここ寝所だったのか、土足で座っていることが申し訳なくなってきたが、言われたように履いておこう。

足裏が藁につかないようにヨガのポーズのような胡坐をかいて座りなおした。


コダは棚の上から乾燥した草をいくつか取り出し、中央のテーブルに石を置いた。

石はすり鉢の様で、同じく石でできたすりこぎでゴリゴリと草をつぶしている。


コダの様子を見ていたら暇だったのかラビがちょこんと足の上に座ってきた。

コダが友達と言ってくれたおかげか、ラビは人見知りせず自分に接してくれているようだ。


「ねぇハルは何でそんないおっきいの?」


座ったまま顔を見上げ自分を見てくる。


「なんでだろうね・・・生まれつきかな、その代わりお父さんと違ってひょろひょろなんだよ」


子供にわかるようにちょっと言葉を崩してみた、伝わるかな・・・?


「そうなんだ! ひょろひょろー! あはは!」


ラビにうけたのか笑ってその言葉を繰り返している。


上機嫌なのかラビは座ったまま頭をこちらに寄せて体重を預けてきた。

そのままラビの頭を撫でてやる。


ラビは再び顔を見上げて笑顔を向ける。


「えへへー」


ぐっ、かわいい・・・。

可愛い娘ができたらこんな気持ちなんだろうか、コダが羨ましい・・・。


コダはすり潰した草に、水桶から少量の水を加え再度すっている。


「もうラビに懐かれてるのか、ハル・・・ラビはやんねぇぞ?」


「やんねぇぞー!」


少し怖い顔のコダをまねしてラビもくり返す。


「前にも言ったろ、子供には手出さないって!」


「ならいいぞ! おっし、もう出来るぞ」


ニカッとコダは笑って、石のすり鉢ごと持ちながら自分のところに来る。


「ほれ、塗るからラビはちょっとどいてくれ」


「はーい!」


コダに言われてラビはぴょんと立ち上がり離れる。


水気を多く含んだ草は液体に近い、その液を体中まんべんなくコダは塗っていく

液はちょっと少しつんとした、独特のにおいだ。

そういえば虫よけの木を焼いたのと同じ匂いだ。


「これ虫よけで焼いてる木の葉っぱ?」


「そうだぞ、この村の周りにたくさん生えてんだ、これ塗れば2~3日は虫に刺されにくくなる」


「じゃあまた塗らないといけないんだね」


「あぁ、ちゃんとやらないと病気になることもあるからしっかりやんなきゃダメだ」


虫刺されから感染症を招くことがあるって聞いたことがある。

科学が進歩してなくても生活の知恵ってちゃんと理由があるんだな・・・。


とういうかさっきの話だと風呂って基本入らないってことだよな。

この暑さで結構汗かいたからシャワーだけでも浴びたい・・・。

でも無理そうだ、諦めるしかないか・・・。


「おし、塗り終わった!」


そう言ってコダは草汁が付いた手を、藁を束ねたもので拭いていた。


「ほら、三人ともできたわよ、準備して頂戴」


ちょうどドネの料理が終わったのか、言われたように二人は準備を始める。

コダが木製の器をドネに渡し、ラビが木製のスプーンをテーブルに並べる。


「俺も何かやるよ!」


何もしていないままはまずいと思って声をかける。


「もう終わったわよ、ハルはそこに座って頂戴」


許しを得たとしてもドネの態度はちょっときつめだったが、自分はまだこの家の食い扶持を一人分増やしている立場だ。

仕方がないと思った。


「おぉーごちそうだー!」


ラビは目をキラキラさせて料理を見ている。


「さぁ、今日狩った猪の肉だ、うめぇから冷めないうちに食っちまおう!」


「そうね、早く食べましょ」


料理がテーブルに置かれる。

猪の肉を使ったスープのようだ。


中央のテーブルを囲うようにみんなで座った。

朝から干し芋しか食べてないから腹はペコペコだ、立ち上る湯気と肉料理固有のにおいが胃袋を刺激する。


いただきます!

と思って食べようと思ったら、三人とも食べる前に左手をさすり始めた。


左手をさすり、右手をさする、最後に口を手で拭い、お祈りを始めた。

あわてて三人の真似をする。


「「「今日の糧をいただきます、命をいただくことに感謝します・・・」」」


自分も併せて祈りの言葉を口にした。

そういう信仰なのか・・・。


「じゃあ食べようか、ハルも遠慮しねぇで食ってくれ!」


「あぁ、じゃあいただきます」


スプーンで汁をすくい飲んでみる、塩で味付けされた薄めのシンプルな味付け。

スープには猪の内臓の部位らしき肉っぽい塊と、イモ、キノコ、にんにくが入っているようだ。


おいしいと思いたいのだが、ちょっと獣肉独特の風味が凄かった。

日本では味わったことのない野性味あふれる味だ。

におい消しでにんにくを入れているのだろうが、足りないと思う・・・。


ただこれがこの村のごちそうなんだ。

めったに食べられないものだし、コダはそれを笑顔で俺にごちそうしてくれた。

不味そうに食べちゃいけない。


「すっげぇうまいよ! こんなうまいもの食べたことがない!」


「だろ、かーちゃんの料理は一番うめぇんだ!」


「もう、コダったら・・・」


「おいしー!」


この家族のだんらんは壊しちゃいけない。

俺は笑顔で美味しそうに料理を食べきった。

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