解体場
俺、この世界の文字なんて知らないはずなのに・・・
日本語とも全く違う形の文字なのになぜか理解できている。
・・・そういえばコダ達の会話もできている頃がおかしい。
英語は仕事でかろうじて使えるが、日常会話のレベルじゃない。
異世界で地球ではない星で日常会話ができていることに、今更ながらおかしいと思えた。
「これっていわゆる異世界ボーナスってやつか・・・?」
「他にも何かあるのかな・・・、村に来るまでの過程で身体強化は今までで感じなかったし、超人的な回復力もなさそうだ・・・」
「ステータスとか見れるのかな、レベルやスキル概念があるとか・・・」
「身体強化がないなら魔法が使えるとかかな・・・、魔法だったらこの世界に魔法がないと、使えたら騒ぎになりそうだし・・・・」
よくある異世界物のお約束があるのではないかと、一人で思考にふけっていた。
「どうしたハル、何かぶつぶつ言ってよ?」
「あ、何でもないよ! ちょっと考え事してたんだ」
「そっか、ならいいや!」
とりあえず異世界ボーナスがどんな物があるのかは、人気がいないところで確認しよう。
他の人にない能力があったら、この世界で何されるかわからないしなぁ・・・
「記録も終わったし、猪解体しちゃうね」
ゼンは慣れた手つきで猪を木の机に置いて、取り出したナイフで内臓を腑分けしていく。
解体場には、薄く煙が漂っていた。
独特な草のような匂いがする。
匂いのもとを探すと、粘土を焼いて作ったような小さい皿の上に木片がのっていて、そこから煙が出ている。
「じゃあ記録も終わったし、庭で待っているか?」
「あれは?」
コダに皿を指をさして聞く。
「虫よけだ、これ焚いとかねぇと、ハエがひでぇんだよ」
それでも何匹かのハエが猪の周りを飛び回っている。
「・・・結構いるな」
「そりゃ来るさ、煙だけで全部追っ払えるわけじゃねぇよ」
コダとの話を聞く限り、虫よけをしても完全に防ぐことはできないらしい。
日本の衛生環境に慣れている自分には、それだけでもかなり衝撃的だった。
「たまにデカいアブとかも来るし、羽音もデカいから面倒なんだ」
そう言ってゼンは腑分けが終わったようで、猪の皮を上手にはがしている。
よく見ると使っているナイフの刃部分は金属ではなく石だ、色が黒いから黒曜石っぽいかな?
「このまま解体の様子見ててもいいか?」
狩りや罠で仕留めた動物を肉に変えていく。
動画で見たことはあったけど、実際に見るのは初めてだ。
ハエの存在は気になるけど、もう少し見ていたかった。
「珍しいもんじゃねぇと思うけど、ハルが見たいってんならいいぜ、付き合ってやる」
「ゼン、このまま見ててもいいか?」
「いいよ、それにもうすぐ終わるしね」
ゼンの解体技術はすごい。
皮をきれいにはがし、さっきまで猪だったものが、食肉へ変わっていく。
ゼンは猪の後ろ足を、ナイフできれいに切り取っていた。
「よし、解体終わり。これコダの分ね」
ゼンは内臓と後ろ足をそれぞれ葉っぱで包んで、上を紐で縛ってコダに渡した。
「おう、ありがとな!」
「あれ、仕留めた猪の残りはどうするの?」
「あれは村のみんなで共有するんだ、煙でいぶして保存できるようにする。んでみんなが腹減って食いもんが少ねぇ時に足しにするんだ」
「駄目になりやすい内臓と、この足は狩ったものの特権だ、うめぇぞ!」
「あとは海側のアゴ村と、塩や魚の交換で使うこともあるよ」
ゼンが補足を入れてくれた。
この世界の食糧事情や、経済経路とかが少し見えた気がする。
現代社会とはかなり違う世界だ、もう少し村の環境や生活を見て学ぶしかないか・・・。
「一緒に足も燻していく?」
「いや、こっちで処理するからいいや、ありがとな!」
「じゃあハル、肉も手に入ったし家に向かおうぜ!」
そう言ってコダは嬉しそうに肉と内臓をそれぞれ包んだ葉の包みを持った。




