涙を誘うショー
よ!
「え? どういう意味?」アキラはトーマスの言葉の意味が理解できずに尋ねた。
「つまり、すぐに来園者が来て、まるで動物園みたいに俺たちを見物するってことだ。」トーマスは、まるで当然のことのように、平然と答えた。
「え? でも、なぜ? 何のために? それに来園者って誰だ?」これらの疑問がアキラの頭から離れず、次々と膨らんでいった。彼はあまりの衝撃に言葉も出なかった。彼の唇がこの状況で発することができたのは、脳が唇の存在を完全に忘れて放置した結果の、意味のない奇妙な音だけだった。
「あ…え…う…あ…え?」
同じ状態だったのはアキラだけではなく、他の七人の新人たちも同様だった。最初に我に返ってトーマスとの対話を続けられたのはエルザだった。
「『来園者』って言ったわね。でも誰のこと? 他の人間?」
「ある意味正しいが、完全に人間ではない。ヤツらは俺たちとそっくり同じに見えるが、実は宇宙人なんだ。」
「え? 宇宙人? じゃあ本当に存在するの?」アキラは聞き覚えのある言葉を聞いて大声で叫んだ。
「もちろん存在するよ。先祖たちは宇宙人のことを教えてくれなかった?」
「教えてくれたけど…」とアキラは今聞いたことを信じられなかった。彼はすでに、これらの宇宙人は作り話か、あるいは地球から別の惑星へ移住したものと確信していた。しかしトーマスから宇宙人が実際に生きてることを聞いて、アキラの心には強い罪悪感が燃え上がった。
「我々の動物園はもうすぐ開園する。だからついて来て…」トーマスが言い終わらないうちに、誰かが大声で遮った。
「でも、もし宇宙人が俺たちと同じに見えるなら、もしかしたら宇宙人じゃなくて、他の人間なんじゃないか?!」アキラは絶望的な声で叫んだ。これまで彼の頭の中で築かれてきた世界観を救うために藁にも縋りたかった気持ちは湧いてきた。
「いや、断言できるよ。ヤツらは間違いなく宇宙人だ。そして、宇宙人たちは人間とそっくり同じに見えると言ったが、我々との間には一つだけ違いがある。」
アキラの罪悪感が溢れだして来て、隣に立っていた人を、まるで汚すように排出し始めたところだった。でも最後の瞬間でアキラはかろうじて抑えることが出来て、全部を抱え込んだ。この後の話を無視して目を空に上げて両親とおばあさんに感謝や謝罪するようにつぶやいた。
「ありがとう。無理と思うけど、なんとか許してください。愛してるよ。」
「違いって何?」ルカが尋ねた。
「宇宙人には人間のような性器がない。ヤツらには必要ないんだ。ヤツらはクローン技術で繁殖する。」とトーマスは説明した。
「クローン? それってどういうこと?」ヌライシャ――エルザ、ランファ、ベアトリス、カロリナと一緒に来た二十歳の女性が聞いた。ただし、動物園に来た女の子の中で、カロリナのことはその後誰も見かけなかった。
「詳しくは知らないが、何か装置のようなものに心臓の一部を提供し、そこから別の宇宙人が育つらしい。」
「心臓の一部を提供して、どうして死なないんだ?」パブロが尋ねた。
「おい、俺は百科事典じゃないから。自分でもよくわかってないことが多いんだ。それに時間がもうないって。もうすぐ動物園が開く、急がないと。」トーマスは新しく来た八人を急かした。
「開園ってことは、あの巨大なガラス越しに俺たちを見る宇宙人たつが来るってことか?」エルザが聞いた。
「そういうことだ。あんたたち、つまり新人が来たばかりだから、最初の数日は来園者の数はバカにならないから覚悟しておいて。新人が来るときはいつもそうだ。ああ、そうだ、今日はお前たちに芝居が待ってるよ。」とトーマスは新人たちを中央の広場へと導きながら説明した。
「どんな芝居だ?」アキラがこの世に帰って興味津々に尋ねた。
「お前たちは…」トーマスが答えようとしたその時、庭園中に大きな鐘の音が響き渡った。それは最初の来園者が動物園に入り、人間たちを見る準備ができたことを意味していた。
「もう一度言ってくれ、聞き取れなかった。と」アキラがトーマスに頼んだが、トーマスにはもう時間がなかった。彼がアキラたちの視界から消える前に言ったのはただ一言。
「しまった! もう遅刻だ! 後で話す! ここで別れる。この直線の道をまっすぐ行け。そうすれば目的の場所に出る。また後で!」そう叫びながら、トーマスは新人たちに背を向け、本道から庭園のどこかへと曲がっていった。
若者たちには選択肢がなく、案内人の言うことを聞いて数分後、大きな空き地に出た。そこは木々や花々に囲まれ、中央には腰かけられる切り株がいくつか置かれていた。アキラたちがそこに着くと、ムハンマドという別の若者が待っていた。ムハンマドは、ただ普通に振る舞い、互いに話し、歩き回り、ボール遊びをし、そして常に笑顔でいるように指示した。
一方、ガラスの向こう側にはすでに大群衆の人が立っていた。でもヤツらは実際にはエウドクリルだった。ヤツらはアキラたちの新人を、まるでオリンピックで金メダルを獲ったかのように、耳まで裂けるような大きな笑顔と大きな拍手と歓声で迎えた。
ムハンマドはその間ずっと若者たちと共に留まり、アキラたちの質問に答え、どう振る舞うべきか、何をすべきか、何を避けるべきかという指示を与えた。
最初のうちは、八人全員が非常に臆病でぎこちなかった。アキラたちは何をすべきか、あのような大群衆に見られているときにどう振る舞えばいいのかわからなかった。無理もない。同族たちは生涯、知っている人々だけに囲まれて生きてきて、他者を見たり知ったりしたことがなかった。今は全員は、見知らぬ大衆の前に立ち、皆が何かを言い、叫び、自分に注意を向けて笑顔で手を振りほしがるの様子で待っていた。
最初の一時間は非常に気まずく、誰も落ち着くとこできなくて、誰も打ち解けて自然に振る舞えなかった。しかし来園者たちはむしろそれが気に入った。ヤツらはそのような態度を可愛らしいと感じ、変化を期待してほくそ笑えてた。そしてその変化は訪れた。
最初に居心地の良さから抜け出し、群衆が望むことをしたのはサンティアゴだった。彼はガラスに近づき、観客の前でポーズをとり始めた。様々なポーズをとるたびに、大きな拍手と歓声を得た。そして来園者の一人が彼に食べ物を与えた。サンティアゴは人間に餌を与えるための特別な場所に連れて行かれ、そこでエウドクリルが食べ物を買ってサンティアゴに与えた。
ベアトリスも自分に注目を集めたくなり、同じことを始めた。しかし彼女は魅力的な女の子だったので、群衆の喜びは何倍にも増し、さらに多くのエウドクリルが演技を求めて集まり始めた。そして彼女はそれに応え、笑顔で手を振り返した。
アキラはそれを傍らから見ていて、自分が子供の頃から知っている同族たちが今目の前でこんなことをしているとは信じられなかった。アキラは、同じ環境で育ち、同じ教育を受けたにもかかわらず、サンティアゴとベアトリスがこれほど変わり得ることに驚愕した。
アキラの顔には恐怖と戦慄を表す仮面が張り付いていた。彼は目の前の光景に恐怖を感じていた。アキラの頭の中には、これが何のために、何の目的で行われているのか、理由も目的も全く理解できなかった。自分たちとそっくり同じに見える生き物に向かって手を振り笑顔を振りまくことの何が面白いのか、なぜあの忌々しい宇宙人に合わせて自分から注目を集めなければならないのか、分からなかった。
サンティアゴの例に従い、自分たちの家族を殺した存在と同じものたちと戯れ始めたほとんどの同族に失望したアキラは、エルザの方に視線を移した。幸運なことに、彼女も目の前の光景に衝撃を受けていた。二人はここにはもういられないという意見で一致し、ムハンマドの目を盗んで茂みの中に退散し、その空き地から逃げ出した。しかし動物園そのものから逃げることはできなかった。そこで恋人たちは、来園者の目に触れない庭園の中心にある小さな小道を歩くことにした。
「これは正気の沙汰じゃないだろう。信じられない! どうして家族の殺人者たちの顔を見て笑顔でいられるんだ?!」アキラは怒りを込めて叫んだ。
「そうね。どうしてあれが好きになれるの? 私たちをおもちゃのように見て、何の価値も与えていない。私たちはヤツらにとってただの物で、失くしたり壊したりしても、絶対何も感じない!」エルザも彼氏に同意していた。
「でも俺の祖母は動物園を全然違う風に描いていたな。 楽しい場所で、人々が普段の生活では出会えない動物を見に来るところだって。動物園の動物たちは愛と世話に包まれていて、何不自由なく暮らしているって! でもさっき見たものは、まったく動物園には見えなかった!」
「でもあの『檻』からは逃げ出せたわね。だからある意味、君の夢は叶ったんじゃない? はは。」
「何だって?!」アキラは苛立ちと理解不能の声で鋭く答えた。
「あ、ごめん… ただ重い空気をちょっと和らげたかっただけなの。ごめんなさい。」エルザは謝罪した。
「ああ… はは。確かにそうだな。すまない、声を荒げて。」
「気にしないで、私が悪いなの。冗談を言うには場所と時が良くなかったわね。」
その後、若いカップルは静かに庭園の狭い小道を歩き続け、その美しさと壮大さを堪能しながら、それぞれが自分の思いにふけった。
数分後、アキラとエルザは小さな池にたどり着いた。池の中央にはハスやホテイアオイ、そして様々な色の水草が浮かび、その風景全体がまるで画家のパレットのように色とりどりに輝いていた。透明な水の小さな池は、まるで一枚の動く絵画のように、太陽の光を反射してきらめいていた。光は木々の梢をかろうじて通り抜けて水面に届き、そこからエルザとアキラの目に直接反射していた。
その小さな池をさらに進むと、もう一つ池があり、それは数倍も大きかった。それは五つの島のある海にも例えられ、島々の間には苔むした竹の橋が架けられていた。これらの小さな島々は積み重ねられた石でできていた。草や葦が薄く生い茂っていた。陸地に最も近い島の上には、シダレヤナギの枝が垂れ下がっていたが、その木はまだ若すぎて枝が涙のように根元に届くほどにはなっていなかった。だからまだその可能性を残しながら、枝は太陽に向かって伸び、その影で小さな島を覆っていた。
次にエルザとアキラが訪れたのは日本庭園だった。その主役はもちろん桜だった。日本人である祖母から、幼いアキラはこの驚くほど美しい木について何度も聞かされていた。それは全ての日本人の誇りだった。彼がピンクと白の花びらを咲かせた桜を見ると、すぐにそれが桜だとわかった。同じ太陽がこの風景に真の豊かさを与え、ピンクの花びらを照らし、そこから反射してさらに下へと進み、次の花びらを見つけるまで反射を繰り返した。光は色を変えながら、地上に達して永遠に消え去るまで無限の反射を続けた。この太陽の光のおかげで、すでに信じられないほど美しい桜は、様々な緑の色合いの草の上に咲き、信じられないコントラストを生み出しながら、人間の目にはピンク、紫、白、オレンジの無限の新しい色合いを見せていた。そして風は、沸騰するほどに熱せられた興味をさらにあおるように、桜の花びらを揺らし、太陽の光は方向を無限に変えさせられ、ついにこの桜は、日の光にとって完全に迷宮になってライトを迷い込まされ、アキラとエルザの目に飛び込んだ。アキラはこの時期に桜が咲くはずがないことを知っていた。桜の好きな月は四月だから。それでもアキラは心でそれが桜だと感じた。そして、自分の目を信じられず、心と相反するその目に逆らって、彼は心を信じることにし、小声でつぶやいた:
「おばあさんたちも、これを見ているといいんだ。」
日本庭園を出て、数十メートルにも及ぶ大きな花のアーチの並木道を通り抜けると、二人は先ほどの池よりもさらに多くの水がある場所に出た。しかしそれは海でも湖でもなかった。それは「噴水の庭」だった。
そのコレクションには百以上の噴水が含まれ、金や銀の人間や動物の像で飾られていた。それらは水を高く押し上げたが、水は物理法則と地球の重力に逆らえず、長く空中に留まることができず、落ちては先に落ちた水に砕け散り、小さな破片となってアキラとエルザに飛沫を浴びせた。数メートルの高さまで水を上げる大きな噴水もあれば、その巨大な噴水の隣に立って斜めに水を放つ小さな噴水もあった。これらの大小の噴水はすべて一つの貯水池に統合され、その全周に噴水が配置されていた。この小さな川の終わりには八段のカスケード噴水があり、各段は前の段より半メートル大きいくなっていた。そして最後の段の後にはちょっとした滝があった。水は十メートルの高さから落下し、下の小さな池に砕け散った。この貯水池の全周は、すでに小さな噴水で飾られているだけでなく、様々な植物や花の緑の野原が咲き誇り、緑の色と水に映る無限の新しい色合いのコントラストを生み出していた。
これほど美しいものを見たことがなかった二人の恋人は、言葉を失うほどの衝撃と驚きに包まれ、無言で一箇所から別の場所へと歩き続けるしかなかった。しかし互いに目を合わせ、相手の目を見つめることで、二人ともはお互いの気持ちを完璧に理解することが出来た。だからその時には言葉は必要なかった。二人ともは目を見つめ、手を強く握り合うことで、相手に気持ちを伝えることができた。
ついに動物園の端にたどり着き、途中で誰にも会わなかった若い二人は、遠くに数時間前にムハンマドがアキラやエルザを迎えたのと同じような空き地を目にした。近づいてみると、エウドクリルが人間に手に食べ物を持って与え、からかいながら遊び、一度で果物を噛ませないようにしているのが見えた。どんなに食べ物がありがたくても、アキラとエルザはその方法で食べ物を受け取る勇気はなかった。なぜなら、この場所に嫌悪感を抱くのに数秒もかからず、さらに進む決断をしただから。しかし残念なことに、恋人たちは通りかかったトーマスに見つかってしまい、怒鳴られた。
「お前ら、どこをほっつき歩いてたんだ?! 誰かがそこから離れていいと言ったの?!その覚えがないが! もうすぐ芝居の時間だ! 早くついて来いよ!」
「その芝居って何なんだ?」とアキラは聞いたが、残念ながら答えは得られなかった。トーマスは今日一日、様々な仕事に追われていた。彼は人間の中で最も経験豊富で、この動物園に最も長くいただから。そのため一日の終わりには疲れ果ていて、アキラの馬鹿げた質問に答える余裕はなかった。
十分ほどの早足の後、三人はついに芝居が行われる場所に到着した。そこには残りの新人の六人の同族と、この動物園の従業員の制服である緑のつなぎを着た二人のエウドクリルが待っていた。
八人の新人を先導して、一人のエウドクリルがアキラたちを連れて行き、もう一人が最後尾に立ち、誰も離脱しないように監視した。さらに数分後、全員はついに二百人以上のエウドクリルに囲まれた場所に到着した。ヤツらの視線はアキラとその同族たちに向けられていた。
アキラたちは今朝、このガラスドームの中に入ったと同じ金属製のドアから外に出された。ドームの壁はこの惑星上では採掘できない複雑な素材でできていた。エウドクリルたちは以前に征服した惑星の中の一つから持ち込んだものだった。それは非常に強固で、どんな人間の武器も破壊できないものだ。しかしドアの向こう側は今朝とは全く異なる空間だった。それはドームと同じガラスでできた長方形の透明な部屋で、内部には一つだけ物が置かれていた。それは十人以上が楽に寝られるほど大きなベッドが白いシーツで覆われていた。そしてこの部屋の周囲全体には、サッカースタジアムのように観客席が設置されていた。時間が経つにつれて、スタンドの空席はどんどん減っていき、最後の二百席目に最後の来園者が座るまで続いた。
その時、動物園の従業員の一人が新人たちに尋ねた。
「お前たちは人間の種族がどうやって繁殖するか知っているかな?」
八人の若者たちは皆うなずいた。アキラたちの集落では、性教育は生活の重要な一部だった。十六歳に達すると、両親は子供がどこから来て、どのように生まれるかを説明し、男女の身体の違いも話し合った。だからこの部屋にいる全員がセックスとは何かを知っていたが、誰も経験したことはなかった。
全員が自分が言おうとしている言葉の意味を理解していることを確認した作業服のエウドクリルは、透明な部屋の周囲に座る二百人の宇宙人を含む全員に聞こえるように、はっきりとした大きな声で言った。
「今からお前たちは服を脱いで性行為をしろ!」
アキラも他の七人もこれらの言葉に大きく驚き、どうすればいいのかわからなかった。アキラたちの両親は、セックスは極めて個人的で私的な行為であり、男女間の愛の最高の表現であり、他人の前で行うべきではないと教えていた。だから、パートナーとの二人きりどころか、大勢のエウドクリルの注目を浴びる中で性行為を行うように命じられたことで、八人の若者全員が呆然とし、動けなくなった。
そして芝居の開始を待ちきれない群衆は、その不快で気まずい雰囲気をさらに悪化させるように叫び始めた。
「早く始めろ!」
「待たせるなよ、もうとっくに待ってるんだよ!」
「そろそろ始めるんじゃないのか? お前らは何様だと思ってんの?!」
「俺は金を払ったんだ! 働けよ!」
「いつまで待たせる気だ?!」
これらの叫びは一つに混ざり合い、ガラス室に侵入し、一切の損失なくアキラと仲間たちの耳に届いた。しかしどうすればいいのかわからず、四人の男性と四人の女性はその場に立ちすくんで、最初は床を見つめ、やがて互いに顔を見合わせ始めた。アキラとエルザは互いに見つめ合い、一言も発さなかった。この停滞が五分続き、観客の忍耐が限界に達したとき、動物園の従業員の一人が言った。
「栗色の髪の女の子を最初に脱がせた男には賞品をやろうかな!」
そして言うまでもなく、その女の子はエルザだった。この動物園の歴史上最も美しい女性だった。彼女の美しさに匹敵するどころか、並ぶことさえできる女は一人もいなかった。そのため、大多数の視線はエルザに釘付けだった。
そのうち何かが切り出した。サンティアゴは、自分自身の肌で群衆の人気者になることがどういうことかを経験し、快いボーナスや賞品を得ていた。サンティアゴの中でスイッチが入ったかのように、内なる怪物が解き放たれた。彼はこの女の子の恋人がすぐ隣に立っていることを忘れたかのように、エルザに飛びかかり、彼女が抵抗し反撃しようとしても構わず、無理やり服を剥ぎ取ろうとした。群衆はもちろんこれを喜んだ。サンティアゴがエルザを床に押し倒すや否や、ヤツらは爆発し、大声で歓喜しながら席から飛び上がった。
アキラはこの状況で決断を下すのに一秒もかからなかった。アキラは自分の恋人を襲った男に突進し、力づくで襟首を掴んで持ち上げ、拳で顔面を殴った。相手が地面に倒れても、アキラはやめず、むしろ殴打の雨を続けた。もし部屋に動物園の従業員がいなければ、この芝居会場は殺人現場になっていただろう。
しかし、アキラとサンティアゴと同じ透明な部屋にいて芝居の安全を確保していた二人のエウドクリルは、素早くアキラに駆け寄り、スタンガンで彼を撃ち、眠らせた。しかし、素早い反射神経と足を持っていても、宇宙人たちはサンティアゴを重傷から守りきれなかった。エルザの恋人は、彼女の加害者に数回の非常に強力な拳を顔面に浴びせ、サンティアゴの顔はその状態では誰だかわからないほど酷くになった。サンティアゴの顔は全体は血、打撲傷、切り傷、血腫で覆われていた。
アキラが恋人の加害者を殴っている間、彼はトランス状態に陥り、時間の経過を完全に失い、周囲の音も、自分以外の物体も、背中で倒れている男以外は何も見えなくなった。この二人は子供の頃からよく遊び、青春時代も共に過ごした友人と言えるほど親しいだったにもかかわらず、この瞬間、アキラには自分の彼女の加害者のサンティアゴは、自分にとって最大の敵として見えていた。三発目のパンチで相手が意識を失った後も、アキラは攻撃の雨を止めず、むしろ一撃一撃に、友人ではなく宇宙人に向けられていた怒りと憎しみのすべてを込めようとした。
観客は三つのグループに分かれた。一部ばこの展開に言葉を失ったエウドクリル、二部はアキラを応援するエウドクリル、そして三部はサンティアゴからの反撃を望む宇宙人たち。しかしその時点で後者はすでに意識を失って、何かをする状態ではなかった。あと二発で死が待っていたところで、動物園の従業員の一人がスタンガンでアキラを気絶させ、サンティアゴの命を救った。
アキラが意識を取り戻したのは数時間後だった。目を覚ますと、彼はこの二日間過ごした家とまったく同じ家の中にいた。目覚めたとき、アキラの頭は痛みで割れそうで、体は張りつめていた。ベッドから立ち上がるのに五分ほどかかった。人生で初めて、アキラは体中にこんな奇妙な痛みを感じていた。何が起きたのか思い出そうと、アキラは今日の一日を頭の中で再生し始めた。朝の始まり、エルザと再会した瞬間、その後連れて行かれた場所も思い出した。宇宙人が実際に存在し、ヤツらが自分の家族や同族を殺したのだということも思い出した。次に、昼間エルザと歩いた美しい庭園の光景が頭をよぎった。そしてようやく、芝居で自分に何が起こったのかを思い出した。
窓の外を見ると、太陽は数時間前に地平線で姿を消していた。アキラは自分が五時間以上気絶していたことを悟った。アキラは急いで外に出てエルザを探そうとしたが、二日前と同じように、家から出られる出口を探して手間取った。ドアはどんな操作も受け付けず、窓はすべて枠にがっちりと接着されていた。
少しパニックになり、気を取り直して、アキラはベッドの隣の棚に置いてあった電話を見つけ、恋人に電話をかけ始めた。しかし、これまでは最初の十秒以内にすべての電話に出ていたエルザが、今夜は一度目にも二度目にも出なかった。三度目の発信音が終わりかけようとしたとき、ようやく彼女は電話に出て、受話器を耳に当てた。
「エルザ? 様子はどうだ? 大丈夫か? 家から出られないんだ。鍵がかかってしまってる! エルザは大丈夫?!」
しかし、アキラの疑問符で終わる文に対して返事はなかった。すると、それを変えられると思ったのか、アキラはさっきの質問のいくつかをより大きな声で高い抑揚で繰り返した。
「エルザ?! 大丈夫か?! 黙らないで、何か言ってくれよ!」
そして返ってきたのは、彼女が今まで必死にこらえていた音だった。全ての感情がエルザから溢れだして、彼女は熱い涙と共に大声で泣き出してしまった。
読んでくれてありがとう!




