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人間園  作者: 博家 賭生
4/6

人間か宇宙人か

このエピソードはちょっと読みにくくになるかもしれない。ごめんね!

今回は少し簡単な問題を出しましょう。あなたは2026年の世界を想像できますか? これをよんでる皆さんなら、おそらく難しくはなかったはずです。もし難しく感じた方がいれば、当時の様子を思い出させるお手伝いをいたしましょうか。


世界で最も大きな交差点をご存知ですか? それは東京にあり、「渋谷スクランブル交差点」と呼ばれています。一日の間に、この交差点の歩道から車道へ足を踏み出す人の数は、五十万人に達することがあります。この風景を夜に鳥の目線から、あるいは近くのビルの四十七階にある展望台から見下ろすと、信じられないほどの美しい光景が広がります。ビルの輝く灯り、ヘッドライトの光、そして何千もの光る画面が道路の端から反対側へと動く様子は、まるで星空のような絵を創り出します。


では、八十階建ての高層ビルを想像してみてください。もしその頂上に立ったことがなければ、難しいかもしれません。なぜなら、そんな巨大な建物を下から想像しても、五十階と八十階の違いを見分けるのは難しいものです。ただし、それらが隣り合わせに立っていない限りは。さて、頭の中に八十階建てのビルを思い浮かべたら、その高さだけを残して観覧車を加えてみてください。まさにそのようなものがアラブ首長国連邦にあり、高さは二百五十メートルです。世界最大の観覧車を一回転させるのに費やす時間は、およそ四十分です。もし二周したいと思えば、約九十分かかりますが、その間に宇宙に浮かぶ国際宇宙ステーションは地球を一周してしまうことができます。


百六十四キロメートルが何かご存知ですか? 車に乗る人にとっては、この質問に答えるのは朝飯前でしょう。車以外の交通手段を好む方のためにヒントを出しましょう――それはおよそ千五百のサッカー場分、あるいは台湾島を南北に縦断する長さに相当します。百六十四キロメートルは、東京から富士山まで直線で結んだ距離とほぼ同じです。さらに、百六十四キロメートルは、中国に位置する丹陽(たんよう)-昆山(こんざん)特大橋(とくだいきょう)という世界最長の橋の長さでもあります。


八万人。これほど多くの人が一か所に集まる光景を想像できますか? 日本の都市でも、これだけの人口を誇るのはそう多くはありません。日本最大のスタジアムである新国(しん こく)立競技場(りつ きょうぎじょう)は2020年に建設され、これからお話しするスタジアムと同じく八万人のキャッパを持っています。しかしそれに触れる前に、韓国に位置する世界最大級の収容人数を誇るスタジアムと比較してみましょう。そこは十三万四千人を収容できます。しかし、西暦一世紀に建設され、十八世紀以上にわたって単独で首位を維持し続けたスタジアムは、皆さんもよくご存知のコロッセオです。二十世紀初頭になってようやく、スコットランドのサッカースタジアムがそれを凌いだのです。


四千五百年。この間に何が起こると思いますか? 未来を見据えるなら、明らかに誰もこの問いに答えられないでしょう。想像を働かせれば、この間に全人類が滅びるかもしれないし、逆に進化して他の惑星に移住するかもしれません。1642500日の間に、あらゆる病気の治療薬や老化防止の錠剤さえも発明されるかもしれません。しかし、四千五百年の間に絶対に起こらないことを僕は知っています。それはエジプトのピラミッドが破壊されないことです。紀元前に何千年も立ち続け、僕たちが生きる2026年の今日までなおそびえ立つあのピラミッドは、決して壊されることはありません。


しかし、正しくは「立ち続けていた」と言うべきでしょう。そう、過去形なのです。これまで述べてきた人類の発展の遺産はすべて、2026年8月の宇宙人による地球襲来の後、地面と共に平らにされ、塵と化しました。人類が数万年の進化の過程で築き上げてきたものすべてが、わずか数日で破壊されたのです。現代人は、この戦争――世界のすべての国々が共通の故郷である地球を外部からの侵略者から守るために団結を余儀なくされたこの戦争を、「人類種の殲滅」と呼んでいます。この名前がすべてを物語っています。連合軍は何も成し遂げられなかったからこそ、このように呼ばれるのです。


当時八十億を超えていた地球の人口の半分以上が、最初の数日で殲滅されました。その後、科学者、技術者、発明家たちが宇宙人の皮膚を貫く武器を作ろうとする必死の試みがさらに二週間続きましたが、最終的に生き残ったのは人口の二パーセントにも満たないわずか二億人でした。生き残った二億人に残された選択肢はただ一つでした。文明や技術革命を忘れ、数世紀前の発展段階に逆戻りして、地球上のあらゆる隠れ家に身を潜めることだけでした。


戦争中に人々が半球の一端から他端へと移動したため、まったく異なる国、宗教、人種の代表者が混ざり合った集落が形成され始めました。そのため、二十一世紀末に人々が話す言語は、2026年8月に僕たちが知っていたあらゆる言語から少しずつ借用したものとなっています。そしてまさにこの理由から、二つの異なる集落から来た、かつて一度も会ったことのない二人が話し始めると、お互いを理解できない可能性が非常に高いのです。しかし、この小説の中では、すべての登場人物――人間も宇宙人も――僕と読者の便宜のために、お互いを完璧に理解できるものとします。




ロンドン。イングランドおよびイギリスの首都。ビッグ・ベン、ロンドン塔、ウェストミンスター宮殿、タワーブリッジなど、数多くの名所で知られる都市です。毎年ここを訪れる観光客の数は二千万人に達し、一日あたり約五万五千人に相当します。テムズ川沿いに立つこの都市の人口は、ほぼ一千万人です。


金曜の夕方。仕事帰りにバーに行って一杯か二杯ひっかけるには最高の時間です。ビールがお好みなら、ジョッキを傾けるのもいいでしょう。一人で行くも良し、友人か同僚と一緒に行くも良し。明日は土曜日なので、お店が許せば一晩中いても時間を気にする必要はありません。時計は六時を少し回ったところ。ちょうどこの時間に、バーがオープンし、一晩中営業し、最初の客をテーブルやカウンターに迎え入れ始めます。


この作品の第二の主人公は、他のサラリーマンや労働者たちと同様に、黒いブリーフケースを手にしてロンドンの街を歩いています。八月の暑さにもかかわらず、彼は白いシャツに黒いズボン、そしてジャケットを着ています。ジャケットのボタンを外したまま、彼はここ数年、常連客と見なされている店へと向かっている。彼と同じように一人で歩く者もいれば、バーやレストランに入って意識を失うまで酔い潰れようと待ちきれない大きなグループも、彼の行く手に現れます。


夏のため、外はまだ明るく、車はヘッドライトを消して走ることができます。街灯も家々の電球もまだ電力を消費していない。しかし、バーやレストランに入り、数時間過ごして再び外に出ると、まるでまったく別の世界、以前に見たことのない未知の世界に足を踏み入れたかのようであり、百万もの灯りが互いに競い合うように輝き、あなたの目を眩ませようとする。


階段を地下へと降り、ドアを開けると、この男は「|London'sロンドンズ Under(アンダー)ground(グラウンド)」という名のバーの中へ入ります。バーはすでに二時間以上営業し、中に入ると、この小説の主人公のお気に入りの隅のテーブルはすでに埋まってた。そこで彼はバーカウンターに向かい、バーテンダーに挨拶をして注文をした。


「炭酸なしの水、レモン入りで。」と男は落ち着いた低い声で言った。


「かしこまりました。」バーテンダーは返事をした。でも実は、バーテンダーに注文を聞く必要はなかった。なぜならこの男はいつも同じものを注文するからだ。


彼は決して食べ物や高価なアルコール飲料を注文しないが、常にチップを残している。その額は毎月、バーテンダーとウェイターたちの給料の半分以上に上っている。だから使用人たちは、この男が店の敷居をまたぐのを見るといつも喜んでいる。


バーカウンターに背を向けて、男はバーの客たちを頭のてっぺんからつま先まで観察し始めた。まるでシャーロック・ホームズが手がかりを探して人の職業を特定し、同時にその人の私生活を推理するかのように。


現時点では客がそれほど多くなかったので、彼は特に面白い人を見つけられず、レモン入りの水をすすりながら、自分の頭の中に閉じこもり、自分だけにしかわからない何かを考え始めた。


しばらくして、カウンターに二人の男が座った。この小説の主人公は彼らの会話にあまり耳を傾けず、むしろ自分の考えに浸ることを選んだ。しかし、しばらくして、彼の耳に非常に興味深い会話が届いた。


「あの珍味の話、知ってる? めっちゃ金かかるらしいよ。ちょっと一口味わうだけで、年収まるごと飛ぶんだってさ」って見た感じから別に貧乏そうじゃない男が言った。


「年収まるごと?! 何がそんなに美味いんだよ?」相棒が目を輝かせて、半分怖がりながら聞き返す。


「詳しくは知らんけど、すごく珍しい肉らしいと。味は確かじゃないけど、今まで食ったもんの中で一番美味いって噂だよ。」


「マジで? へえ…食ってみたいけど、年収か…高すぎるな」


「だよな…」


「でもさ、オフィス全体で社員旅行の時に出し合ったらどう? 上司からも結構巻き上げられるだろうし!」突然、黒スーツの男のが名案をひらめいた。


「あ!それ、いいかもな! 月曜にみんなに話そうぜ。ただ、次の社員旅行が12月までないのがな…」とさっきまで喜んでたのに、一気にテンション下がった。


「でも、年末にそんな豪華なテーブルが待ってると思えば、毎日頑張れるってもんだろ!」ちょっと落ち込んでる同僚を励ました。


それ以降の会話は主人公の興味を引かなかった。また自分の世界に戻って、たまにバーの客をチラ見しながら、ただ時間が過ぎるのを待ってた。


一時間後、バーのテーブルは全部埋まり、騒音が外の通りまで聞こえるほどになった。やっと主人公はお気に入りの暇つぶしを始めた。


最初に目に入ったのは、金を賭けてポーカーしてるグループ。もうみんな酔っぱらってて、彼らのゲームを見てるのは、まるでスタンダップコメディのショーを見てるみたいだった。一人じゃなくて、何人もが芸人になってた。


「お前、ズルしただろ! 見てたぞ! カード戻せよ!このインチキめ!」と年配の男がテーブルの向こうの若い奴に怒鳴った。


「酒で頭おかしくなったのかよ、それとも年を取って目は全然ダメになったかよ?このクズ? 誰にガン飛ばしてんだ? あん?」最初の男に言い返したのは、右の靴下からスペードの2がはみ出てる若者だった。


その夜、主人公の記憶に残った次の場面は、酔い潰れてテーブルに突っ伏してるアル中どもを追い出そうとしてる若いウェイターの姿。他の客が席に座れなくて困ってたから。


次に、その酔っぱらいの左側を見ると、六人の男が丸テーブルに座って、交代でロシアンルーレットとナイフゲームをやってた。もちろん朝には全員、頭に穴も空かずにバーを出たけど、指が五本とも揃ってたのは驚きだった。


バーにはテレビも掛かってて、四人の男性が格闘技の試合を見て、すごい勢いで一人の選手を応援してた。でも、別にその選手のファンってわけじゃない。むしろ、顔も初めて見る連中ばかり。


「殴れよ、さあ殴れって!」酔っ払いがバー中に響く声で叫んだ。


「どこ叩いてんだよ! 左から回れって! そっちじゃねえってば!」二人目の男が、届くはずのないアドバイスを送った。


「よしよしよし! もう少し!」三人目が盛り上がった。


「ああっ! くそっ! また負けた! こんなんじゃ破産するわ!」


「破産? お前、まだ俺に10ポンドの借りがあるだろ! 忘れたのかよ、このクズやろ!」


「必ず返すってば! だからあと5ポンド貸してくれよ! 取り返してすぐに全額返すからね!」


最後に、レモン入りの水を手にした男の目に飛び込んできたのは、若いのに立ってるのもやっとの酔っ払い二人の喧嘩。すぐにバーのほぼ全員が巻き込まれた大乱闘に発展。それぞれが知り合いをかばって、テーブル、椅子、瓶、グラス、そして頭蓋骨まで何個か壊れた。それでも数分間続いたが、参加者の体力が尽きてようやく収まった。


その頃、主人公はもう店を出てた。時計を確認し、飛行機のチケットの時間と見比べて、有名な黒いロンドンタクシーを捕まえて空港に向かった。


向かった先は、観光客に人気のあの街。首都じゃないけど、アメリカって聞かれたらまず思い浮かぶ場所だ。


ニューヨーク、午前10時。ロンドンはもう午後3時。昨夜バーから帰った連中が二日酔いの薬を探して正気を取り戻し始める頃だ。でもイングランドの話はここまでだ。主人公は大西洋の向こう側の別の都市にいる。


目的地に着くと、昨日までロンドンにいたこの男はタクシーを降りて高層ビルに入る。警備員やホステス、ビジネスセンターの従業員たちは、彼に頭を下げて挨拶した。敬意と立場の差を示すように。


最上階の90階までエレベーターで上がる。50秒で320メートル。そこからは長い廊下。両側には有名画家の高価な絵が並び、隙間には彫刻やモニュメント。この男は、数年前までは一枚一枚見入ってたけど、今は素通りして廊下を渡っていた。一瞥もくれない。なぜかって? みんな多分、芸術作品に興味を失ったからだと思うかもしれないが、それは違う。それに、あんたには思い浮かんだ推測は全部違うと確信持っています。


廊下の突き当たりには金で覆われた4メートルの巨大なドア。彼はそれを押し開けて、ニューヨークのパノラマ窓のある部屋に入った。中央には円卓と10の椅子。他のメンバーはもう座っていて、彼を待ってた。


部屋に入ると、全員に軽く挨拶して言った。


「今日は集まってくれてありがとう。前にも言ったけど、今日はすごく大事な会合だ。俺たちの今後の運命を決める…」でも言い終わる前に、左隣の男が遮った。


「一位さん、本題に入りましょう。あなたのメッセージはみんな読んでおります。あれであなたは全エウドクリルを侮辱し、俺たちを取るに足らない種族呼ばわりしてしまいましたよね。その汚い言葉に責任取れますか?」


「ああ、二位。俺は自分の口から出る言葉には全部責任を持つ。だからこそ、みんなを集めて共通の問題を解決しようとしてるんだ。それに忘れるな、俺がここでの一位だ。だから俺に対してそんな口のきき方はするな。他に8人のエウドクリルがいるからね。そっちに不満をぶちまければいい。俺に対しては許さない。わかったか?」と第二の主人公は落ち着いた声で、でも相手に自分の立場をわからせるように言った。


他の誰も一位に逆らえることが出来なかった。権力と影響力を知ってるからこそ。二位がやっと聞く気になった頃で、一位は続けた。


「かつて全宇宙で最も偉大で最強の種族だった俺たちが、侵略した銀河すべてに恐怖をもたらした俺たちが、今や自制心もない哀れな道化師(ピエロ)に成り下がった。」


「今ここにいる俺と他の8人のエウドクリルを道化師(ピエロ)呼ばわりする気ですか?!」二位が怒鳴った。


「一つだけ勘違いしてるな。俺はここにいる10人全員――俺自身も含めて、エウドクリル全員を道化師(ピエロ)って呼んだ。」


「俺たちの何が問題なんですか?」二位がイライラしながら畳みかけた。


「俺たちは昔から、征服した惑星の種族から技術や技能、武器、生活用品を完璧にコピーすることを出来ている。でも今は大きな問題に直面してる。これまで一つの惑星に30年以上留まったことはなかった。なのにここ――地球ではもう60年以上もいる。その間に、俺たちは野蛮や好戦的やな本性も侵略の精神もすっかり忘れて、怠け者になって、進化なんてどうでもよくなってる。」


「それがこの惑星(ちきゅう)のいいところでしょう! 何も気にしなくていいし、ただリラックスしてればいいんですよね! それが最高です!」五位が叫んだ。


「破壊と殺戮の王だったお前がよくそんなこと言えるな、五位。」と一位ががっかりした声で言った。


「それがどう悪いですか? 永遠の征服や侵略や戦争から少し休むのが悪いのか? 俺たちは久々に、この惑星(ちきゅう)みたいな素晴らしい場所に出会いました。」二位が五位を援護した。


「お前たちはこの惑星(ちきゅう)で過ごした60年の間に忘れたかもしれないが、俺たちはかつて征服した種族の外見をコピーしたことは一度もなかった。なのにここでは完全に人間に変わり果てて、習慣や伝統や行動までコピーしてる。これは絶対にただですまない。」一位は、自分の味方だと思ってる仲間たちを真実に導こうとやけになった。


「変わったなら変わったでいいじゃないですか。何をぐずぐず言ってるんですか? 何が悪いのか、俺にはさっぱりわからんっす。」と二位は一位をあまりにも憎んで、恨んで、常に一位の言葉を種族への侮辱にすり替えて、何とかして一位を倒し、権力を掌握しようとしてた。


一位は二位の狙いをとっくに見抜いてた。でも残りの8人は自分の側に立ってくれると信じてた。でもそれは金や権力の差のせいじゃなくて。残りの8人に信じてたから。今まさに種族の存続がかかってるからだ。彼らからの分別(ふんべつ)が非常に必要になった時。


(豆知識:エンドログリフィトとはこの宇宙人たちの種族の名前です。人類のように。)


このエンドログリフィトの位は種族内での序列だ。一位は最も裕福で権力があるモノ。全員が従わないといけない存在だ。例えるなら、人間が支配してた時代の世界大統領みたいなもんだ。


「俺たちは酔っぱらってバーで喧嘩し、カードでカンニングし、わけのわからん試合に賭け、銃で傷を負わないと知りながらロシアンルーレットをする連中になった。なんで何にも気付かないの?!ここに来てから何段も退化してるんだ! それとめ単純に見て見ぬふりしてるの?! 何がお前たちの目を曇らせて、こんな基本的なことさえ見えなくしてるんだ?!」いつも冷静な一位が突然キレて、種族全体に迫る危機を伝えようとしてた。


残りの9人のエウドクリルは、一位がこんなに激昂するのを見たことがなくて、二位でさえも声が出なかった。そこで一位は続けた。


「みんな、一つ大事なことを忘れてるな。俺たちは自力では進化はできない。強くなるためには、宇宙中の他の種族の技術や技能が必要なんだ!それがなければ生き残れない。でもこの惑星(ちきゅう)に住んでいる人間は違う。俺の計算だと、あと20年で俺たちを殺せる武器を開発するだろう。俺たちに時間はもう残されていない! 決断は今すぐするべきだ!」と一位は、この会合の9人の金持ち連中を説得できると思ってた切り札を出した。


しかし、彼はエウドクリルの中で他の誰よりも多くを見て、知って、理解して、一番賢い存在にもかかわらず、小さな計算ミスを犯した。それが全てを台無しにした。彼は、この60年以上の間に、この9人のエウドクリルが富や贅沢や権力にどっぷり浸かって、たとえ滅亡の危機が迫ったとしても、これまで築き上げたものを絶対に手放そうとしないとは想像出来なかった。


「今の聞こえたか? このクズが今言ったこと、皆よく聞こえたか?! 俺たちは人間以下だって言ったんだぞ! あの弱くて無力な、ネズミ以下に役立たずの害虫どもより劣ってるって?! よくもそんなことが言えたな?! お前はここにいる会合のメンバーだけでなく、全エウドクリル――50億いるんだぞ――を侮辱した!」二位は敬意や尊敬や敬語を全て忘れてほど怒り狂って唾まで飛ばした。


「警告したはずだ、俺にそんな口のきき方をす…」


でも一位が言い終わらないうちに、十人のうち二人が立ち上がって叫んだ。


「二位が正しい! 彼こそ真のリーダーです! 一位は種族全体を侮辱し、哀れな人間どもが俺たちより優れてると言った。そんなやつに一位の称号は相応しくない!」七号と八号が口を揃えて叫んだ。彼らは二位に買収されてて、二位がトップになれば自分たちを二位と三位に昇格させる約束だった。


こうして勢いと支持を得た二位は、ついに目標を達成した。地球だけでなく、天の川銀河全体で最強の存在になった。


「さあ、決断は下したぜ、全部お前の言う通りだ、一位。あ、違うな! 今は俺が一位だぜ、ははは! お前は何になる? 二位かな? いや、そんなわけないだろ。貴様の持ってたものは全部奪い取るぞ。その上、奴隷にしてやる! はは! 全宇宙で最高の種族を侮辱したらどうなるか、思い知らせてやる。」と新一位のポリエムホリシュは、傲慢で誇らしげに、嘲笑うように言った。


巨大なドアをくぐって「円卓の部屋」に入ったイヴドグラニスは、最も裕福で影響力のあるエウドクリルだった。しかしわずか数十分後、同じドアを出て行く彼は、種族の中で最も貧しく、ポケットには一文もなく、さらに新一位の奴隷になっていた。


元一位が犯した過ちは、彼が想像もしなかったことのためだった。この60年強の間に、円卓の委員が富と贅沢にこれほど溺れるとは思わなかった。この惑星(ちきゅう)以前の惑星では、エウドクリルの中にこんな序列はなかったからだ。それはやりたくなかったからじゃない。そんなことができると知らなかったからだ。地球に来て、金で何でも手に入ることを学んだ。そこで最も賢く強い連中が最初の数年で世界全体の金を掌握した。


そしてこれらの富豪エウドクリルが生まれた後、彼らがますます多くを欲しがるのは明らかだった。だからイヴドグラニスは「円卓の部屋」を創設し、十人の影響力のある者たちが会合して妥協点を見つけ、内戦を防ごうとした。


しかし、創設者を除いて、残りの九人は富と贅沢のせいでどんどん愚かになっていった。バランスの取れた決断はできず、自分の利益だけを考え、他の大事なことをすっかり忘れて偏りが大きいの決断をしてた。


部屋を出ると、そのオフィスも建物全体も、今や立ち入り禁止になった男は、絵画や彫刻のある長い廊下を歩いた。イヴドグラニス(元一位)が芸術への興味を失った理由は、それらが本物そっくりでも、実際はただのコピーだったから。人間の能力をコピーできるエウドクリルは、芸術品もコピーできた。それにそのコピーは本物そっくりだった。


何年も経って、イヴドグラニスはようやくそれらの本当の価値に気づいた。っていうか、価値がないってことだ。今やどの家にも同じ絵が安く飾れる。彼は芸術品の複製会社を作ったことを大きな過ちとこの期に及んで悟った。芸術を広める善意が裏目に出て、かつてフィンセント・ファン・ゴッホの「星月夜」を初めて見たときに燃えた情熱を完全に消し去ってしまった。


半世紀以上前、このアイデアは天才的で画期的に思えた。誰もが有名画家のオリジナルを家に持てる。しかし、何百万枚もの「オリジナル」があるとき、本当のオリジナルはひとつもない。


その日、ニュースやSNS、新聞などすべてのメディアで、「円卓の部屋」の序列が変わり、一位が種族への裏切りで追放されたと報じられた。その後の運命は公にされず、彼が奴隷になったことは一部の者だけが知っていた。


ポリエムホリシュ(新一位)の奴隷となった男は、すべての命令に従わなければならなかった。新一位は、彼にくだらない無意味な仕事を次々と与えて、立場の違いを笑いものにした。でもおかげでイヴドグラニスは、あの8月の土曜日にニューヨークで起きたことの原因を考える時間ができた。そして何より、彼は何が自分の敗北を招いたのかを理解した。するとその瞬間、彼はちょうど65年前に自分の種族に来た不幸に気付いて驚愕した。

読んでくれてありがとう。

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