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闇堕ち令嬢シンシア ~死に戻り少女は死なないことにした  作者: 九條葉月


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王都脱出

 


 冒険者ギルドを出て、再び夜の街を歩く。


 当初の予定ではすぐに転移魔法を使う予定だったのだけど……受けたばかりの依頼書をリリーが熟読していたからね。暇つぶしを兼ねて街を歩くことにしたのだ。


 ギルドの近くは酔っぱらいたちの喧噪で騒がしいから長居したくないし、もうちょっと夜の王都を楽しみたかったというのもある。


 こんな暗い中では文字なんて見えないと思うのだけど、問題なく読めているみたい。さすが吸血鬼ね。


「……お嬢様が動くにしては安すぎると思いますが?」


 依頼書を読み終えたのか不満げな声を上げるリリーだった。


「ま、いいじゃない。修行ついでにお金がもらえると考えれば」


「……私が知る限り、もうかなりの人数を斬ってきたはずですが。まだ物足りないのですか?」


「物足りないって。その言い方だと私が人斬りを楽しんでいるみたいじゃない?」


「てっきりそうなのかと」


「メイドさんから危険人物扱いされていた……。別に人を殺したくらいで特別な感情は抱かない(・・・・・・・・・・)わよ」


 自分ですら12回も死んでいるのだ。前世も含めると13回か。今さら他の人が死んだところでどんな感情を抱けというのだろうか?


 まぁリリーが死んだら即座に自殺してやり直すかもしれないけれど。この子、殺しても死なない系だからなぁ。


「人殺しが趣味というわけではないと。……では、なぜ未だに人斬りを?」


「うん? 人を斬るのが一番レベリングの効率がいいもの。獲得経験値自体は大型の魔物を倒した方が多いけど、そういうのはかなり辺境にまで足を伸ばさないといけないし」


 ちなみにレベルや経験は今までの死に戻りの中で全て引き継がれている。よく考えると不思議だけど、それを言ったら12回死んだ記憶が引き継がれているのだからレベルや経験も同様だと考える方が自然なのだと思う。


 最も効率のいいレベリングが人殺し。

 ならばそれを選ぶしかないわよね。私には断罪追放という名のタイムリミットがあったのだから。


 今まで人を斬った数は――もしかしたら千人に達するかもしれない。処刑されそうになっても逃げ出せるようにと剣の修行は毎回やっていたし、かなり本格的に『剣聖(剣の師匠)』の元で修行した人生もあったから。


 まぁ、いくら剣の腕が高くても魔導師団相手では勝てなかったので、その次のやり直しでは魔法を極めようとしたのだけどね。


 改めて考えると私って死に戻った中で剣と魔法を両方極めているのよね。そんな私が魔王を目指すのはある意味必然と言えるのかもしれない。ほら、魔王って強くなければいけないし。


 ともあれ、リリーが依頼書を読み終わったのだから本格的に移動を開始しましょうか。


「転移魔法で次の街に移動――いえ、そうね」


 死に戻りを振り返ったせいか、『あれ』を思い出した私である。


 新たなる門出なのだから、もう一つくらい復讐して(・・・・)おきましょうか。


 転移魔法の発動はキャンセルして、そのまま門に向かって歩く。私だと分かるように(・・・・・・・・・)変身魔法を解除してから。


「? 転移魔法を使わないのですか?」


「えぇ、『公爵令嬢シンシア』として王都から出ましょう」


「……ご随意に」


 聞きたいことはまだあるだろうに、大人しく一礼して庶民の服からメイド服に着替えるリリーだった。こういうところが本当に好ましい。


 そんなやり取りをしている間に王都外壁の門が見えてきた。


 門自体はかなり大型であり、朝から夕方までしか開いていない。けれど、門の隣に小さな通用門があるので、出て行くだけなら簡単な審査だけで通れるのだ。


 門を守っているのは二人の兵士。


 ――真夜中に突如として現れたドレス姿の令嬢。メイド付き。


 いかにも怪しい存在を目にして門番は目を丸くしていた。


「……ご令嬢が、こんな時間に何の御用で?」


「わたくし、王太子殿下から追放されまして。至急王都から出ないといけませんの」


 嘘泣きしながら状況説明をする私だった。


「なんて可哀想なお嬢様!」


 同じく涙を流すリリー。意外と演技派だ。


「は、はぁ? 追放ですか?」


 戸惑ったように顔を見合わせる門番二人。まぁ当然の反応よね。


「え、えーっと、とりあえず王城に確認を取りますので――」


 真面目に対応しようとする門番だけど、そんなことをしていては王太子が足止めをしてくる可能性が高い。ここは奥の手といきましょう。


「リリー」


「御意」


 リリーが門番二人を『視る』と、彼らは突如として焦点の定まらない目となった。


「――おぉ、追放とはなんとお可哀想な」


「――さぁ、どうぞお通りください。行く先に幸あらんことを」


 まるで感情のこもっていない声を発しながら門を開けてくれる門番たち。


 洗脳か、あるいは傀儡か。魔法の詳しい内容は知らないけど、リリーはそういうこともできるのだ。分類としてはたぶん闇魔法。……最初は王太子あたりを操り人形にしてもらおうとしたけれど、王族はこういうのに耐性を付けているから諦めたのよね。


「……あ、そうだ。リリー、ギルベルト様が許可を出して私たちを通したということにしておいて」


「仰せのままに」


 再び門番二人の目を見て洗脳(?)するリリー。


 門番たちが私を通したとなると、あの愚かな王太子が門番に八つ当たりをするかもしれないからね。こうしてギルベルト様(故人)に罪をなすりつければいいでしょう。騎士団長の息子なら兵士相手に強権を発揮しても不自然じゃないし。


 それに。こうすれば『ギルベルトがシンシアと駆け落ちした』と判断されて追っ手を混乱させることができるからね。


「なるほど腹黒い」


「聞こえているわよ? ……あと、公爵家の騎士(・・・・・・)がやって来たら、私は次の街を目指したと伝えさせて」


「はいはい」


 注文ばかりしているせいかちょっと面倒くさそうなリリーだった。こういうところも好ましい……かしら?


 いきなり働かせすぎたリリーに感謝の意を伝えてから、王都の外へ。


 地平線の先にまで広がる荒野。敵国や魔物が攻め込んできたときに備えて王城の周囲は遮蔽物がないようにしてあるのだ。岩とか森があると敵兵が隠れてしまうし、魔法や矢が当たらないからね。


 王都の近くには簡単な作りの家――テントが幾つも張ってある。地方から流れてきたけど王都に入ることを許されなかった流民とか、犯罪者とかが寄り集まってキャンプ地を作っているのだ。


 王家としても帝都内の景観を汚さないならと半ば黙認している――というか、金にならないからどうでもいいと考えているのだ。王都の外で魔物に襲われようと、盗賊の被害に遭おうと、疫病が流行ろうと、政府は一切関知しないというこの世の地獄。


 かつてのやり直しの中ではそんなキャンプ地の中に身を潜めていたこともあるけれど……うん、あまり思い出したくはないわね。


「さて、と」


 王都から出たのでもう歩く必要もない。私は転移魔法を使って次の街へ移動してしまうことにした。


 深呼吸をして心を落ち着け、身体と精神を魔術師のそれとする。


「――我が行く道に迷いなし。我が征く道に憂いなし」


 これは転移魔法の呪文であると同時に、私がこれから征く道への覚悟でもある。


「――世界の果てに夢を見て、今ここに奇跡の御業を再現せん」


 世界の距離を縮めるという奇跡。繰り返す運命を打倒するという覚悟。


「――我が夢、我が運命(ディ・スティーナ)、|我が照らし、我が突き進まん《メインジ・ジェア》」



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