閑話 下半身
「――はっはぁ! こりゃあいい! 良い女が揃っているじゃねぇか!」
魔王軍四天王のグリッジは『女』のニオイを嗅ぎ付け、城壁内の中庭にやって来た。そこでは五人ほどの女が何か作業をしていたのだ。
女。
明らかに非戦闘員。
しかも、若い。
グリッジの力では一度使えば裂けて死んでしまうだろうが、逆に言えば一度は使えるのだ。そんな女が、五人。つまりは五回楽しめる。
穢らわしい欲望を隠そうともしないグリッジ。
そんなグリッジの登場に女性たち――そういうことにトラウマを持つ彼女たちは身を寄せ合って恐怖に耐えていたし、そんな反応がますますグリッジの嗜虐心を高まらせていた。
(なんと穢らわしい……)
味方でありながら。魔王軍幹部相手でありながら。嫌悪感を抑えることのできないジール。
別に、あの女たちに同情しているわけでも、ましてや助けようと思っているわけでもない。なぜなら魔族と人間族とは長年殺し合ってきた『敵』なのだから。
だが、いくら敵だからといって、魔族の誇りを捨てていい理由にはならない。戦いとはあくまで『覚悟』を決めた者同士が行うべきもの。あのように戦闘職にない女を、自らの欲望のままに犯すなど……。
(魔王様に報告しなければな)
このような単細胞ではいずれ魔王様の覇業の邪魔になるだろう。いや、もはや今回の聖女襲撃で魔王様の計画を台無しにしかねない。
(斥候として、今回の顛末を全て見届けてから魔王様の元へ戻るべき。……しかし、ここはもう見切りを付けて撤退するべきか?)
ジールがそう悩んでいると、
「――待て!」
何とも威風堂々とした声が、中庭に面した建物から降ってきた。
ジールが見上げると、建物の二階から少年が飛び降りてきた。
そしてケガなく、最小限の衝撃で着地してみせる少年。
(ほぉ)
グリッジのような筋肉の塊ならともかく、非力な人間が二階から飛び降りて無事とは……。なんという身体能力かと敵ながら感心してしまうジールであった。
そんな少年の背後には二人の少女がいたが、彼女たちは少年ほどの実力がないのか飛び降りることなく姿を消した。おそらく階段を使うのだろう。
四天王が一人、グリッジを前にして恐れることなく大剣を抜く少年。
そんな彼を見て、グリッジはいやらしく口端を吊り上げた。
「そのニオイ……。お前、女だな? ははっ! こりゃあ楽しめそうじゃないか!」
ニオイで別種族の性別を見抜く。いったいどういうことなのかまるで理解できないジールだ。もはや下半身で思考しているのではないかと思いたくなるほど。
しかし、そんな下半身男の本能は鋭かったらしく。大剣を構えた少年――いいや、少女は驚きで目を見開いたのだった。




