襲撃
魔王軍四天王の一人、グリッジ。
そして彼に従う――否。連れ回されている魔族の男、ジール。
彼らは魔族にも縁深い『魔の森』から徒歩で子爵家の領都を目指していたのだが……。その道中で古ぼけた砦を発見した。
「ほう、良いところに砦があるではないか」
まるで初めて知ったかのような発言をするグリッジ。領都周辺の地理や防衛施設についてはジールが報告書を送ったはずなのだが……。忘れているのか、そもそも読んですらいないのか……。
ともあれ、戦闘に関することならば普段より聡明になるのがグリッジという男だ。
領都を見渡せる小高い丘。
その上に立つ、そこそこ規模の大きい砦。
ここからならば領都内を観測し、好きなところに攻撃魔法を叩き込めるだろう。領館、診療所、倉庫など……。
そんな砦の入り口を守るのは、巨大なるゴーレムであった。人間族程度の魔力ではあれだけのゴーレムは作れないはずなのだが……。
「グリッジ様、ご警戒ください。あれほどのゴーレムを生み出せる魔法使いならば『勇者パーティー』の一員かも――」
ジールの警告を最後まで聞くことなく。グリッジは門に向けて突撃した。
「はっはぁっ! ゴーレム程度じゃ準備運動にもならねぇな!」
その言葉の通り。グリッジの拳は一撃でゴーレムを破壊してしまったのだった。
(この、脳筋が)
小さく舌打ちするジール。斥候である彼からすれば、砦内の戦力が分からないまま突撃したグリッジはバカとしか思えなかったのだ。
(せめてもの救いは、身体強化魔法を使っただけということか)
身体の内側に魔力を回す身体強化であれば、遠距離から察知されることはないだろう。これでもし魔力を外側に向けて解放したり攻撃魔法を放ったりすれば、特徴的な『魔族』の魔力が領都からも察知されたかもしれない。
普通の人間なら無理だろうが、聖女であれば……。
「おいジール! 何をしている! さっさと行くぞ!」
砦の重厚な扉を蹴り開けながら、グリッジはジールを急かすのだった。
(万が一の時に備えて距離を取っておきたかったが……仕方ない)
ここで付いていかなかったら魔王様に報告をされてしまうし、短気なグリッジに殺されてしまう可能性もあった。渋々、グリッジの後ろに移動するジール。
(強敵がいなければいいのだが)
領都から少し離れた場所にある砦で暴れるだけなら、まだ挽回できる。魔王様からはあまり目立たぬようにと厳命されているのだから気をつけなければ……。
◇
「――な、なに!?」
ベッドの上で休息を取っていたロイとシーナ、セイラは不意の破壊音を受け、飛び起きた。
「いたたた……」
途端に筋肉痛が襲ってくるが、言っている場合ではない。
轟音。
その直後に、さらなる轟音。
それはグリッジがゴーレムを破壊した音と、門扉を蹴破った音なのだが……無論ロイたちが詳細をすることはできない。
「地震、とか?」
「魔物が壁にぶつかった?」
「戦争……では、ないでしょうね。この近辺にそんな兆候はありませんし」
三人が顔を見合わせていると、
「な、なんだ貴様らは――ぐっ!?」
そんな、執事セバスの声が砦内に響いた。
何があったかは分からないままだが、緊急事態で間違いなさそうだ。
そう判断したロイは空間収納から迷うことなくポーションを取り出した。初級ポーションとはいえ、駆け出しの冒険者にとっては貴重品だ。
しかし、もしも『敵』と遭遇したときに筋肉痛で戦えないのでは笑い話にもならない。ここはポーションを使って筋肉痛を治すべきだと決断する。
「ロイ様。私が回復魔法を掛けますが……」
セイラからの提案にロイが首を横に振った。
「万が一があるからね。セイラちゃんはなるべく魔力を温存して欲しい」
「……分かりました」
頷き合ったロイ、シーナ、セイラはそれぞれの武器を手にしてから部屋を出たのだった。




