魔王は?
立ち話も何なので砦の中の会議室に移動することとなった。
「――浄化」
途中の廊下に浄化聖文を掛けながら歩く。こうすれば綺麗になって掃除の必要がなくなるからね。
もちろんあとから汚れるのは防げないので、そのときはみんなに掃除してもらいましょう。
会議室に腰を落ち着け、まずは今後の予定について話しておく。
「皆さんは一応『修道女』という立場ですが、宗教を強制するつもりはありません。とりあえず衣食住の面倒は見させていただきます」
私がそう説明すると、リーダー格の女性が小さく手を上げた。
「では、私たちは何をすればいいでしょうか?」
「そうですねぇ。辛い目に遭ったのですから、しばらくはのんびりしていただいても構いませんけど」
「いいえ。それは逆に辛いのです」
「なるほど」
同情心が逆効果になってしまうパターンか。あるいは動いている方が気が紛れるとか? それならこちらとしても仕事を用意したいわね。
修道女の内職といえば刺繍や機織り? あとは簡単な消耗品を手作りしたり?
地域の名産があるならそれを作ると聞くけど……。この地方の名産品って何かしらね? まず真っ先に思いつくのは魔の森で狩ってくる魔物の素材だけど。さすがに冒険者をやらせるのは身の危険がなぁ。ロイ君たちくらいなら私が守れるけど――
「――あ」
魔物を素材にする。つまり、解体とかどうだろう?
思い出したのは盗賊の悲惨な死に様をみて晴れ晴れとしていた女性たちの姿や、門前に並べられた生首。つまりはグロ耐性があるってことだ。
「私やロイ君たちは冒険者として活動していますので。狩ってきた魔物の解体などどうでしょうか?」
冒険者ギルドに任せるとかなり料金が掛かるし、自分たちでやるのも手間。とはいえ簡単に採取できる部分だけ持ち帰るのももったいないし。専属の解体師がいると助かるのよね。
……まぁ正直、この人数の生活費をまかなえるほどの収入があるかというと、ないのだけどね。ここで重要なのは利益よりもやりがいでしょう。
それに、余裕があるなら冒険者ギルドの解体出張所みたいな感じにしてもいいのだし。わざわざ魔の森から領都の中に獲物を持ち込むよりもここに持ってきた方が楽かもしれないもの。
ちなみに位置関係としては、領都と魔の森の間にこの砦がある感じだ。
私の提案を受けて、女性たちが不安そうな顔をした。
「私たちは解体の方法なんて知りませんけど……」
「その辺は私が教えますよ。もちろん、精神や肉体的にきつい仕事ですから無理にとは言いません」
私がそう締めくくると女性たちは小さな声で話し合いをして――了承したのだった。
◇
話も纏まったので砦の中を探検していく。最初来たときは地下室へと直行だったからね。細かい間取りは確認していないのだ。
元々が長期の籠城も想定した砦なので、部屋数も多いし炊事場や貯蔵庫も完備されている。これは世界の終わりで魔物が溢れても生き残れそうね。
「良い砦じゃない」
「シア様が浄化をしてくださるおかげで綺麗になりますしね」
珍しく褒め称えてくれる慇懃無礼メイドだった。
一通り探検も終わったので、砦の外へ。まだゆっくりと外観を見ていなかったからね。
ごくごく普通の、この世界ではありふれた砦だと思う。高い石造りの城壁に、長く伸びた尖塔。これでもう少し規模が大きければ城と呼んでも差し支えないはずだ。
「――いずれ、この砦が『魔王城』と呼ばれるようになるのでしょうね」
なぜかドヤ顔をするリリーだった。この世界ってまだ魔王(ヒロインたちが討伐する個体)がいるはずだから、魔王に怒られるわよー?
そういえば、魔王って今何をしているのかしらね?




