ドン引き
予想外に大規模な回復魔法。これは効果を自分の目で確かめないといけないわよね。
というわけで、ケガ人ひしめく広場へと移動したのだけど。
「聖女様!」
「聖女様!」
「先ほどの光は聖女様が!?」
「ケガが! ケガが消えたんです!」
わぁあああっ! と駆け寄ってくる領民の皆さんだった。
「皆さんケガは平気そうですか?」
「はい! この通り!」
「包帯も足りなくて不安だったんですが完治しました!」
「見てください! 足の骨折まで!」
松葉杖を手にした男性が嬉しそうに足踏みしていた。確かに完治しているわね。普通のエリアヒールだと骨折までは治らないはずなのだけど。
魔王になったから?
いやいや、聖女になったから?
可能性としては聖女の称号を得たからかしら? 今までのやり直しの中で聖女になったことはないので、もしかしたら力が増すのかもしれないし。
と、そんなことを考えていたらこちらへと向けられる視線に気がついた。
片腕を失った男性と、そんな男性に寄り添う妻らしき女性。
女性が私に声を掛けようとしているのを男性が止めている感じだ。
察するに、あの女性が男性のなくした腕を治癒してもらおうとして、男性本人が遠慮しているのかしら? 「聖女様にそんなことを頼むのは……」みたいに。あるいは聖女でも片腕の欠損は治せないだろうと?
うーん。
私としてはどちらでもいい。直接頼まれれば考えるけど、まだそういうわけでもないし。
でもなぁ。
ロイ君が気づいたんだよなぁ。
アワアワした様子で男性たちと私を交互に見ているんだよなぁ。
赤の他人の欠損はどうでもいいけど、ロイ君からの好感度は気になる私だ。
それに今の私がどれほどの回復魔法を使えるのかも気になる。
MP(魔力)には余裕があるし、ここはやってしまいましょうか。
穏やかに微笑みかけながら、男性たちに近づく。
そして男性の欠損部に向けて手を伸ばし、聖文を唱えた。
「――道を知れ。|神の奇跡を、今ここに《dis Bingensis》」
効果は劇的だった。
まずは腕の切断面から骨が生え、その周りに血管や筋肉などが産まれていき、最後に皮膚によって包まれたのだ。
死者蘇生に比べれば、腕の欠損くらいは。
理屈で言えばそうなのだけど、完全に失われた腕が蘇るのはビジュアル的に強力ねぇ……。正直、ちょっとグロいかも。
◇
領都のケガ人を全て癒やした広範囲治癒。
失った腕すら元通りにした単体回復魔法。
もう領民の興奮はどうにもならないので、一人一人への対応は諦めて領都を出る。目指すのはもちろん廃砦だ。
「――おかえりなさい!」
保護した女性たちがわっと駆け寄ってきた。それはまぁ私が本当に帰ってくるかどうか不安だったのだろうなぁとは思うのだけど……。気になるのは、門の横に並べられた生首×5だ。
ちょっとドン引きしながら生首を見つめていると、リーダー格の女性が解説してくれた。
「盗賊共が戻ってきて、砦に入ろうとしたんです」
うんうん。
「それをゴーレム様が一人残らず首を千切ってくださいまして」
千切って……うんうん。
「なので、並べました」
うーん? なぜそこで並べるのかなー?
やはり私なんかより彼女たちの方が闇堕ちしているのでは? 乾いた笑いを浮かべるしかない私だった。
ま、まぁ、生首が並べてあるって最強の防犯よねーっと視線を逸らしつつ、領主様から受け取っておいた砦の権利書を見せる。とはいえ文字を読めるかどうかは分からないけど。
「領主様と交渉し、この砦は私のものとなりました。とりあえず修道院として運営していきますので、あなたたちも一旦は修道女として活動してください」
「あの、『一旦』とは?」
「他に働き口があるならそちらに行っても構わないということです」
「……お心遣いはありがたいですが、この近くの働き口となると領都ですので……」
「あー」
彼女たちにとっては働きにくい場所なのか。その辺は失念していたなぁ。
「ま、まぁ、修道女生活が耐えられないなら申し出てください。どこか遠くの街へ転移でお連れしますから。もちろん当面の生活費はお貸ししますので」
別に生活費くらいあげてもいいのだけど、それだと変に遠慮してしまうかもしれないからね。




