範囲回復
領主様からの呼び方が無事変更されたところで。
「聖女様。折り入ってご相談が」
「はい、なんでしょう?」
「実はこの領地には治癒術士が不足しておりまして」
「でしょうね」
ここは魔の森から近いので危険が多いだろうし。かといって給料がいいわけでもない。優秀な人は王都などの安全で儲かるところへ行ってしまうのだ。
一応、大聖教も領都の教会には最低一人の治癒術士を派遣してくれるはずだけど……辺境だからね。ハッキリと言ってしまえば質が悪いのだと思う。
「では、ときどき私も治癒のお手伝いを致しましょう」
「おお! そうですか! いやぁありがたい! もちろん大聖教が定める『寄進』はいたしますので」
寄進。あるいは寄付。まぁ端的に言えば治癒料金だ。聖職者が報酬をもらうのはどうかということで『寄進』という言い方をしているだけで。あくまで善意、善意の行為なのだ。
「昨日の戦いでも多くのケガ人が出ましたよね?」
「えぇ。お恥ずかしい話ですがまだ治療は進んでおらず……」
広場で死者蘇生はしたけれど、あれはあくまで死人を復活させる呪文だからね。同じ場所にいたとしてもケガが治ることはないのだ。死者のケガは完治するのだからついでに治してくれればいいのにね。この辺りはゲームっぽいわ。
そうだ、ゲームと言えば。
ここはゲームでの定番、『集団治癒』で一気に治してしまいましょうか。
「領主様。この館で一番高いところにご案内いただけますか?」
◇
「おー」
領館にある尖塔。その中でも一番高いところにある部屋にやって来た。ここは監視塔であると同時に鐘を鳴らす場所でもあるようだ。……時を告げる鐘は教会がやるのが一般的なので、こちらは緊急時のためのものかしらね?
広場に目をやると、多くの人が集まっていた。炊き出しと――治療所かしらね? たぶんケガ人が多すぎて教会や診療所では対応できないのだ。
粗末な包帯はすでに血まみれだし、そのまま放置されている人もいる。包帯すら足りないのだから薬はなおのことでしょうね。
私は別に自分やリリー以外の人間がどうなろうと知ったことじゃないけれど。それでも街や人を守るために戦った方々には敬意を表しましょう。
単純なこと。
気高き人には慈悲を。
悪党共には破滅を。
他人への判断基準はそのくらいだ。
これだけ見晴らしがよければ隅々まで届くでしょう。
目を閉じて、聖文の詠唱を始める。
聖なる祈りを、今ここに
|聖者は森を進みゆく《grøne skog, fekk》
|彼の喉は渇きたり《skade på sin》
|彼の足は傷を負う《eigen hestefot》
|神よ、神よ《Bein i bein》
|人は大地へ《kjøt i kjøt》
大地は神へ
|偉大なる創造主の《Alt med Guds》|慈悲を賜らん《ord og aimen》
「――道を知れ。|神の奇跡を、今ここに《dis Bingensis》」
空の彼方に魔法陣が展開した。この街全体を覆うほどに巨大な円だ。
そんな魔法陣から光が降り注ぐ。怪我人や病人に向かって。確かな温かさを伴いながら。
……あら? 集団治癒ってこんな感じだったかしら? もうちょっと地味というか、私を中心に光がにじんでいく感じだったはずだ。こんな空中に超巨大魔法陣が出現するなんて、私知らない。
「おぉ……なんという奇跡か……」
「神はここにあり……」
滂沱の涙を流しながら両膝を突く領主様とセイラちゃんだった。




