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闇堕ち令嬢シンシア ~死に戻り少女は死なないことにした  作者: 九條葉月


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nattoku

「ロイ君はたぶん初めての殺人未遂だったろうし、大丈夫かなぁと思ってね。肉体にケガはなくても心が傷ついているかもしれないから」


 部屋に来た理由を説明する私だった。けっして、覗きに来たわけじゃありません。


「さすが主様。なんとお優しい……」


 セイラちゃんが祈るように手を組み、


「はい、大丈夫だと思います」


 即答するロイ君。確かに大丈夫そうね。……だからこそ(・・・・・)


「――じゃあ、一緒に寝ましょうか」


 私がそう提案すると、


「うぇえええええい!?」


 ロイ君が美少女らしからぬ奇声を上げ。


「ロイだけずるぅううううい!」


 シーナちゃんが謎の奇声を上げ。


「私だって本当なら同衾したいですのに!」


 セイラちゃんが欲望に忠実な声を上げた。


「女たらし……」


 リリー殿の絶対零度の視線で凍死しそう。


「い、いえ、夜中に不安になるかもしれないから提案したのだけど……よく考えればシーナちゃんとセイラちゃんがいるものね。私は必要ないかも――」


「そんなことはないですよ!」


「そうですそうです! 私たちではロイの相手は持て余します!」


「ここは全員で同衾しましょう!」


 欲望が。欲望が渦巻いているわ……。


「女たらし……」


 え? これ私が悪いの?





「さすがにベッドで5人眠るのは厳しいものがあります」


 と、リリー。5人って。自分も同衾する気満々だ……慇懃無礼メイド……。


 私は冒険者だし、公爵家を追い出される前提で暮らしていたので空間収納(ストレージ)に寝具も入っている。とはいえ、それは冒険者向けの寝袋だし自分とリリーの分しかない。


 私としてはそれでもよかったのだけど、『聖女』である私を床で寝せることをロイ君たちが恐縮しまくり……結果。追加で布団を借りて全員で床に寝ることで決着となった。


 床の上に三枚布団を敷いて、中心に私が。私の両隣にリリーとロイ君。リリーの隣にセイラちゃん、ロイ君の隣にシーナちゃんが寝転がる形。川の字というには大きすぎるわね。


 年若い女子たちが同じ部屋で。そうなるとすぐに眠るということはなく、必然的にお喋りタイムとなってしまうみたいであり。


「シアさんって公爵令嬢なんですよね? しかも王太子殿下の婚約者」


 おー、真っ正面から聞いてきたわね。たぶん私の様子からあまり気を使わなくていいと判断したのでしょう。……あるいは、人によっては無礼に感じることだと気づいていないか。


 もちろん、私が今さら不愉快になることはない。


「そうよー。もう追放されちゃったから元公爵令嬢で元婚約者だけど」


「……シアさんが追放されるなんて、信じられないのですが」


「ふふふ、私は結構な悪人なのよ?」


「いえ、それはないですね」


 曇りなき眼で断言されてしまった。う゛、罪悪感が……。


「そうですよ! シアさんが悪人だなんて! きっと誰かに嵌められたんです!」


 シーナちゃんが怒りと共に握り拳を作り、


「おそらくは聖女候補であるアリスでしょう。主様がお優しいのをいいことに、冤罪で貶めたに違いありません」


 完全に私を信頼してくれているセイラちゃんだった。うん、まぁ、冤罪なのは間違いないわよね。12回繰り返した中で私がアリスを虐めたことはないし。


「あの、詳しい話を聞いても――うぐっ!?」


 さらに問いかけてくるロイ君と、そんな彼女に肘鉄を食らわせるシーナちゃんだった。さすがに踏み込みすぎだと思ってくれたみたい。


 ま、気になるわよね。領主様にも結果だけ報告しただけで、なぜ追放されるまでになったのかは話してないし。


「えーっとね、私、アリスっていう男爵令嬢を虐めていたみたいなのよ。婚約者である王太子がアリスと親しくしているのに嫉妬して」


「……シアさんが嫉妬するようには思えないのですが」


「ふっふっふっ、女の嫉妬は怖いのよ? おっと、ロイ君も女の子だったわね。……ま、実際のところ、微塵も嫉妬なんてしなかったわよ。だって分かっていたからね(・・・・・・・・・)


 さぁここから嘘つきタイムだ。なぜ公爵令嬢なのにAランク冒険者になれたのか。上手い具合に誤魔化してしまいましょう。……今のセイラちゃんは盲目的に信じてくれているけれど、元々は私を騎士の殺人犯だと疑うほどに聡明な子。疑問点を解消しておかないとまた疑われるかもしれないからね。


「分かっていた、ですか? それはどういう――」


 ロイ君が疑問を口にする前に、セイラちゃんがガバッと布団から身を起こした。


「――聞いたことがあります! 聖女様の中には未来視の力を有する人がいたと! 主様もそうなのですね!? いえ! 主様なら当然と言えるでしょう!」


 わぁ、キラッキラー。顔がキラキラしているわー。聖職者って光るのねー。


 うん。ここまでは想定内。未来視の力で未来を視て、王太子の浮気や私の追放を事前に察知したということにする(・・・・・・・・)


 そうすれば生き残るために冒険者としての身分を準備していたとしても不思議じゃないし、今後『イベント』を回避するための言動をしても未来視の力だと納得してもらえるもの。


 ただし、あまり期待されすぎるのも考え物だ。


「なんだか期待してもらっているみたいだけど、そんなに大した力じゃないのよ。未来に起こる可能性を夢に見るくらいで、絶対じゃない。視える範囲も今後50年先までと決まっているみたいだから」


 と、いうことにしておいた。

 ちなみになぜ50年先までかというと、私が一番長生きしたのが50年先までで、そこまでに起こるイベントなら知識にあるからだ。飢饉とか、隣国の革命とか、戦争とか……。


「なるほど。50年という期間限定ですか。そういうものなのですね?」


 なんだか「神様が長く顕現しすぎると影響が大きすぎますからね。自ら縛りを掛けるとは何と謙虚な」みたいな顔をするセイラちゃんだった。


 続けてシーナちゃんが質問してくる。


「リリーさんは公爵令嬢だった頃からのメイドさんなんですか?」


「そうね」


 ここで少し悩む私。今のうちにリリーが吸血鬼だという情報を伝えてしまえば、今後『力』を使いやすくなるからね。


 ……砦を攻略しているときに盗賊の死体を処分してもらっていたけれど、あのときの三人は余裕がなかったのか気にした様子はない。でも、今後一緒のパーティーで活躍するなら絶対に疑われる場面が出てくるはずだ。


 視線でリリーに確認すると、


「よろしいかと」


 全幅の信頼を寄せて、私に任せてくれるリリーだった。……なんだか「シア様の方が嘘は上手ですからね」みたいな内心が透けて見える気がするけどね。


「――実は、リリーは吸血鬼なのよ」


「ふぇ!?」


「吸血鬼って、魔族じゃないですか!?」


 ロイ君とシーナちゃんが大混乱に陥った。そりゃそうか。魔王と魔族は『勇者』の敵なのだからね。


 それに対してセイラちゃんは冷静だった。


「二人とも、落ち着いてください。本当にただの吸血鬼であるならば主様がこうして情報を開示することはありません。さらにいえば、リリー様は吸血鬼であるにもかかわらず日中も活動していました。何か訳があるはずです」


 やっぱりセイラちゃんって頭がいいわよね。今は『主様』フィルターが掛かっているだけで。


 実際のところ。リリーが吸血鬼なのに日中も活動できるのは最上位の不死者の王(ノーライフキング)であり、その中でも突然変異と考えられる『太陽と共に踊る者(デイウォーカー)』だからだ。


 ちなみに『太陽と共に踊る者(デイウォーカー)』という名前は私が考えた。格好いいわよね?


 それはともかく。セイラちゃんがお膳立てしてくれたので嘘を重ねるとしましょうか。


「元々リリーは普通の吸血鬼だったのだけどね。私が改心させた結果こうして普通に出歩けるようになったのよ。いえ、私にもどうしてこうなったのかはよく理解できていないのだけど……」


 ここでちょっと不明点を作っておくことで嘘にもリアリティが出てくるのだ。


 それに、このくらいならセイラちゃんが上手い具合に補完してくれそうだし。


「……聞いたことがあります。初代聖女様は魔王を改心させ『善』なる存在にしてみせたと。人類と魔族の歴史において、勇者以外で魔王に対処できた数少ない例なのだとか」


 その話は私も聞いたことがある。とはいえそれは聖女候補として知ることができた知識であり、ロイ君たちは初耳だったみたいだけど。


 初代聖女と魔王。彼女たちは手と手を取り合って人間と魔族が共存する国を作り上げたのだという。まぁ、一種の神話よね。そんな国が存在したという歴史的事実は残っていないのだから。


「リリー様は太陽の下でも普通に活動していますし、血ではなく人間の食事を取っていました。おそらく主様によって改心した結果、魔族より人間に近くなったのでしょう」


「つまり、リリーさんは善なる魔族だと?」


 ロイ君の疑問にリリーがすまし顔で答える。


「私が善か悪かは分かりませんが。私はシア様にお仕えするだけですので」


「つまり、愛だと?」


 ロイ君は何を言っているのかしら?


「えぇ、愛です」


 首肯するリリーだった。乗るなアホ。


「しかし油断してはなりません。シア様は称号『女たらし』を有しておりますので」


 何を言ってんだこのアホは。


「あぁ……」


「あぁ……」


「あぁ……」


 納得したようなため息をつくロイ君たちだった。どういうことよ……?



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