正体
さて。セバスの件は納得してもらえたようなので本題に入りましょうか。
「私がAランク冒険者として活動しているのはご存じですか?」
「はい。冒険者ギルドのデーニッツから報告は受けております。最近話題の、儲からない盗賊退治を積極的に受けているのですよね? 私もギルドを通して依頼を出しましたので、以前からご高名は」
「あら、そうでしたか」
じゃあ王都のギルドで受けた盗賊退治の依頼は領主様が出したものだったのかしらね? 盗賊退治が最優先で依頼人はあまり気にしないのよねぇ。
「最初デーニッツから話があったときは半信半疑でした。なぜ冒険者が儲からない盗賊退治ばかりをしているのかと。しかし請負人がお嬢様であると知り、納得しました。――民のために。聖女として。自ら汚れ仕事を引き受けていたのですね!」
いえレベリングのためです。
と、バカ正直に訂正することはない。勝手に勘違いしているのだからそのままにしておきましょう。
「依頼通り、盗賊が拠点にしていた砦はすでに制圧したのですが――地下室に囚われた女性たちがいまして」
「……それは、」
そういう目に遭ったのだと察したのか言葉を失う領主様だった。分かっているなら話が早いわね。
「彼女たちはもう故郷に帰れないと嘆いておりまして。できることならばあの廃砦での共同生活をお許しいただければと」
「維持できずに廃棄した砦ですので構いませんが……。山の中で不便ですし、ずいぶん傷んでいるのではないでしょうか? ご希望であれば町中に館を準備しますが? 必要であれば教会に話を通して……」
「いえ。やはり町中では人の目がありますから」
「……そのあたりは女性の方が被害者に寄り添えますか……。分かりました。砦の使用許可は正式な書面に纏めておきましょう。生活費もこちらで見させていただきます」
「いいえ。それには及びませんわ」
「しかし、彼女たちが攫われたのも元はと言えば我々が盗賊を退治しきれなかったからこそ。なにか償いをしなくては……」
「そうして被害者全員に補填を行うつもりですか? こういう言い方は失礼となりますが、この領地にそこまでの余裕があるとは思えません」
「…………」
「それに、施されるばかりでは彼女たちの自尊心が傷つきましょう。ここは私にお任せくださればと」
「……そうですな。我々に余裕がないのも事実。それに女性たちも自分を救ってくれたお嬢様の方が信頼できますか……。お嬢様に頼ってばかりで恐縮ですが、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい、お任せください」
そういうことで話は纏まったのだった。
◇
用意された部屋で一息ついたあと。
「……ロイ君は大丈夫かしら?」
未遂とはいえ、人を殺そうとした。
剣は深々と相手の腹に刺さり。明らかに致命傷だった。
私の死者蘇生を見たせいでテンションが上がり、あまりに気にした様子はなかったけれど……。落ち着いてきたら、思い出すかもしれない。苦しむかもしれない。
「……ずいぶんと『勇者』を気に掛けているご様子で」
どこか不満げな様子のリリーだった。
「あら、嫉妬?」
「えぇ、嫉妬でございます」
「あらあら、照れちゃうわね」
「どうぞ存分にお照れくださいませ」
いつもの感じのやり取りをしつつ廊下を移動し、ロイ君たちの部屋の前で立ち止まる。
「……今さらながら。男女三人が同じ部屋で大丈夫なのかしら?」
領主様に遠慮したのか、慣れない豪華な屋敷に戸惑っているのか、ロイ君とシーナちゃん、そしてセイラちゃんが同じ部屋を希望したのよね。
ちなみにセイラちゃんは私にお仕え(?)しているけれど、だからこそ同室は遠慮した形だ。どっかの慇懃無礼メイドに爪の垢を煎じて飲ませたいわね。
「本当に今さらだと思いますが。今まで三人で旅をして来たのですし。昨日も三人一緒の部屋に宿泊していたではないですか」
「それはそうなんだけどねー」
ここは領主様の館なのだから、街の安宿と同じ感覚で使われたら困るじゃない?
「ないかと」
即座に断言するリリーだった。なんでそんなに自信満々なのだろう?
私が疑問を口にしようとすると――部屋の中から声が漏れ聞こえてきた。どうやらロイ君とシーナちゃんがやり取りしているみたい。
『ちょ、ちょっとダメだよシーナ』
『いいじゃない、ちょっとくらい』
『し、子爵様のお屋敷なんだから……』
『関係ないって』
こ、これはマズいのでは!? 領主から借りている部屋で! ハーレムものでよくある叡智なイベントをするのは!
「シア様ってここまでアホでしたっけ?」
アホとは何よ、アホとは。|過酷な運命から解き放たれた《何だかんだで魔王になった》結果、少し明るくなっただけじゃない。
「少し……」
何か言いたげなリリーはスルーして、扉を開け放つ。
「ロイ君! TPOは弁えなきゃダメよ!」
Time、Place、Occasion! いくら合意の上でもその辺は大切にしないと!
「――シアさん!?」
急に開け放たれたドアに驚き、まるで女の子のような悲鳴を上げるロイ君。
どうやら寝間着への着替え中だったようだ。平民の中では着の身着のまま寝てしまう人もいると聞くけれど、子爵家のメイドさんたちはちゃんと寝間着を貸し出してくれたからね。
そしてロイ君の後ろから抱きついて胸を揉んでいるシーナちゃん――胸?
胸があるわね? ささやかながら、男性にはあり得ない大きさの。
…………。
ずかずかと部屋に踏み込み、ロイ君のズボン(男物)を掴む私。そしてそのまま勢いよく引きずり下ろして――
「――やめなさい」
脳天に空手チョップを落とされてしまった。リリーから。
その一撃によって体勢を崩してしまった私は床に倒れ込んだ。掴んだままの、ロイ君のズボンと共に。
……わぁお。
これは、かんぺきに、おんなのこだわ……。称号の『女たらし』ってこういうことだったの……?




