闇堕ち?
転移魔法を使い、砦へと戻る。もう慣れたものなのかロイ君たちに驚いた様子はない。
リリーによると、地下から解放した女性たちを守るため、ゴーレムが守りを固めてくれているみたい。その辺は気が回らなかったというか、リリーに任せていたのだから追いかけて来ちゃダメでしょというか……。
リリーはとにかく。ゴーレムがちゃんと仕事をしてくれているなら安心ね。普通は用事の済んだゴーレムは土に戻すものなのだけど、このまま働いてもらうのもいいかもしれない。どこかで大きめの魔石を確保すれば私の補助なしでも身体を維持できるだろうし。
「……うわ」
まずはゴーレムの労をねぎらおうと砦の門付近に転移した私は、そんな声を漏らしてしまった。
門の前に陣取った馬車と、それを守るように立つゴーレム。そしてその周りには、おそらくは人間だったであろう血と肉の塊が。どうやらゴーレムが『ぷちっ』としてしまったみたいね……。
わずかに残った痕跡から推測するに、どうやら肉塊たちは盗賊の生き残りみたいだった。領都から逃げ延びて、拠点である砦に逃げ込もうとして『ぷちっ』とされてしまったと。
その死に様は壮絶だけど、今さら私が盗賊に同情することはない。
「お疲れ様。損傷はない?」
ゴーレムの労をねぎらう私だった。とはいえゴーレムに意志はないのだからこんなことをしても意味は――
『――は、い。あり、ま、せん』
およ?
ゴーレムが喋った? そんな機能ついていないはずよね?
思わずリリーの方を向くけど、彼女も珍しく目を見開いて驚いていた。ゴーレムはリリーのお願いを聞いて馬車と同時に門も守ってくれたという話だったけど、その時も喋ったわけではないみたいね。なんだこれ……? よく考えればリリーに説得されて馬車と門を同時に守るのも妙な話だし……。
ゴーレム本人に聞いてみて――いや分かるはずないか。私だって「なんで意志があって喋れるのですか?」と聞かれても困るもの。
術者である私が『魔王』になった影響? でも魔王になったのはゴーレムを錬成した後だしなぁ?
むしろ術者とゴーレムという『繋がり』がある状態で魔王になったから、ゴーレムにも影響が出ちゃったとか?
あるいは大量に人間を殺したことでレベルアップした? そっちの可能性もありそうね。普通ゴーレムなんてレベルアップしないものだけど、それはあくまで普通の術者が錬成したゴーレムの話。
一般的なゴーレムは人間の子供くらいの大きさで、もちろん戦闘能力なんて大したことない。実験目的か雑用専門なのだから、このゴーレムみたいに何人も人間を殺してレベルアップすることなんてないのだ。
「……ま、いいでしょう。気にはなるけど味方なのだから」
「さすが、大器でございますね」
満足げに頷くリリーだった。
あとは馬車の中で待っているセバスと合流し――あら? セバスがいないわね?
「……セバスはどこ行ったの?」
このゴーレムに答えられるほどの知恵はあるかしらと思いつつ、一応確認してみる。
『女たち、不安。男、中、入った』
囚われていた女性たちが意識を取り戻し、不安げな様子だからセバスが対応したってことかしら?
砦の中の盗賊を殲滅したり、囚われていた女性たちを救い出したとき。セバスには馬車で待機してもらっていたから何も知らなくても不思議じゃないのだけど。
「リリー。セバスは事情を知っているの?」
「はい。簡単にではありますが説明をさせていただきました」
「そう。ならセバスの性格的に女性たちを放っておけないでしょうね」
探知魔法を使ってみると、砦の中の広い部屋にセバスと女性たちの反応があった。まずはそこに向かってみましょう。
◇
広間に入り、まずはセバスとやり取りをする。
「お嬢様。お疲れ様でございます」
「セバスこそ、ご苦労様ね。無事セバスのお兄さんに会えたわ」
一度は戦死したのよ~というのは伝えるべきか隠すべきか。悩んでいるうちにリリーとセイラちゃんが私の武勇伝(?)を高らかに語ってしまったのだった。
「さすがお嬢様でございます。死者蘇生……さすがに信じがたいですが、リリーやセイラ様が嘘をつくとは思えません。一体どれほど感謝すればよいものか」
「ま、気にしなくていいわよ。放っておけないものね。……攫われた女性たちの様子は?」
「はい。話に聞いていた状況からすれば落ち着いているかと。……先ほどまで今後のことを話し合っていたようでして」
「今後ねぇ?」
盗賊に攫われてああいう目に遭った女性というのは前と同じ生活は送れなくなってしまう。どうしても街の人たちから同情や憐憫の目を向けられてしまうし、酷いところでは迫害も受けるからだ。
私も死に戻った中で修道院生活をしたこともあるので、そういう女性が行き場を失い修道院にまで流れてきた場面を何度も目にしてきた。
「あの、主様……」
どこか不安げな顔をするセイラちゃん。彼女も聖職者だから修道院に行くしかなかった女性たちのことを知っているのかもね。
「大丈夫よ、見捨てたりはしないから」
「……ありがとうございます」
深々と頭を下げてくるセイラちゃん。こんな少女がこんな顔をしているのだから、ここは何とかして安心させたいところよね。
でも、どうしたものかしら?
正直、私はAランク冒険者で稼ぎもいいので、この女性たちを養うことだって可能だ。なんなら領主様と交渉してお金を引っ張ってきてもいい。私は『聖女』なのだから、いっそのこと修道院や教会を作ってしまうのもありよね。
もし大聖教が文句を言ってきたら称号欄を鑑定させてやればいいし、そもそもこんな辺境に教会を作ったところで認識すらされないはずだ。
ま、その前に彼女たちの意思確認だ。苦難があろうとも地元や家族の元に返りたいというのなら応援するし。領都以外から連れてこられたなら道中の護衛を引き受けてもいい。
セバスが教えてくれたように。もうすでに女性たちの間で話し合いは終わっていたらしい。
「お嬢様。私たちはもう家には帰れません」
「……まぁ、無理強いはしないですけど」
気持ちはよく分かるし。
「できることなら、この砦で共同生活が送れればと」
「……ここで、ですか?」
「はい。屋根や井戸もありますし、炊事場や洗濯場もありますから。……やはり勝手に住むのはマズいでしょうか?」
「いえその辺りは大丈夫じゃないでしょうか? どうせ廃砦ですし。領主様には私から許可をいただきましょう。……でも、ここってその、あれですよね? 地下で嫌な思い出があるのですから……」
「たしかに酷い目に遭わされましたけど……でも、お嬢様に救っていただいた場所でもありますから」
「ま、まぁ、本人たちが大丈夫というのなら――」
「――それに、良い思い出もありますから」
「良い思い出?」
私がオウム返しをすると、女性たちの顔がパァアアッと華やいだ。
「はい! あの盗賊共が苦悶の表情を浮かべたままの死体や、門の前で虫けらのように潰されていく光景! それを見ただけで胸のつかえが取れ、晴れやかな気持ちになりました!」
とてもいい笑顔を浮かべる女性たちだった。虫けらのように潰されたというのはゴーレムの所業だとして……。あぁ、そういえば。地下室に向かうまではリリーに盗賊の死体を処理してもらっていたけれど、その後は速さ優先で放置していたのだった。
で、ベッドから起きた彼女たちは盗賊たちの凄惨な死体や、ゴーレムに叩き潰される盗賊たちを目の当たりにして――晴れやかな気持ちになってしまったと。
…………。
……彼女たちの方がよっぽど闇堕ちしているのでは?
いやまぁ、事情が事情だから仕方ないのだけどね。
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