領主様
初老男性が声を掛けてきた。兜こそ外しているけれど甲冑姿のまま。先ほどまで戦死していた領主様でしょう。どことなくセバスと似ているし。
子爵家の当主にしては高価な甲冑。丁寧に後ろになでつけられた髪。整えられた口ひげに、優しげでありながら鋭さも感じさせる瞳。一角の人物であろうと感じさせる風貌だった。
「あなたは、Aランク冒険者のシア様だそうですね? デーニッツ――ギルドマスターから話は伺いました。……その、俄には信じがたいのですが、死者蘇生の儀式を執り行ったそうで?」
「えぇ、そうなりますね」
今さら嘘や誤魔化しは無駄なので正直の答える私。
「なんと、まさか本当に死者蘇生を……? しかし、私は確かに死んだはずで、だというのにこうして無傷で会話をしています。まさか本当に死者蘇生があるとは――」
感激に打ち震える領主様だった。この感じ、セバスを思い出させるわね。人の話をすぐに信じるところとか。
やはりこの人がセバスの兄みたいね。
私がセバスのことを話そうとしていると、領主様の後ろから小柄な男が顔を出した。
「へへっ、旦那様。いくらなんでもあっさり信じすぎですぜ?」
何とも特徴的な口調。その顔には全てを嘲笑っているかのような笑みが浮かんでいる。
道化役かしら?
王侯貴族の中にはこういう道化を身近に置く人がいるのよね。『貴族』や『領主』としての立場だと言いにくいことを、道化を通じて口にしてもらうと。で、その発言が問題になるようなら道化役を『処分』してしまうのだ。
「領主たるもの、まずは『鑑定』して真偽を確かめませんと」
道化のくせに真っ当な意見を。いや道化を演じながらも主に王道を説くというのはよくあるパターンかしらね?
まぁ領主の関係者が鑑定して『聖女』だと確かめてくれるなら好都合ね。『魔王』ではないという証にもなるし。
貴族相手に許可なく鑑定しようとするだなんて殺されても文句は言えないけど……あちらは私が貴族令嬢だと知らないのだし、そもそも追放された私はもう貴族じゃないのだからよしとしましょう。
と、こちらとしては問題なかったのだけど。私の左右からそれぞれセイラちゃんとリリーが一歩前に出た。
「――主を疑うとは。まさしく神すら恐れぬ所業」
「――もう一度ぶち殺せば信じますかね?」
ステイステーイ。待って待って。辺境とはいえ領主に手を出すのはマズいわ。しかも衆人環視の中だし。というかなぜボケ役が二人に増えているのか……。
私が唖然としていると、『キィン』という音が頭に響き渡った。たぶん鑑定眼を受けたという警告音でしょう。
「――申し訳ございませんでした!」
急にその場で土下座して、地面に額を叩きつける道化。いくら『道化』とはいえやり過ぎじゃない? 周りで様子を見守っていた人たちもドン引きしているわよ?
「おい道化。いかにした?」
領主様からも道化と呼ばれているらしい。
「旦那様! このお方こそ真なる聖女でございます!」
まーた大声で聖女と……。リリーといい、道化といい、わざとやっているのかしら?
もはや呆れるしかない私と対照的に、道化は戦々恐々としている。土下座の体勢のままプルプルと。
「本物の聖女様を疑い! さらには鑑定するなど! あっしの命なんかじゃあとても償えませんが、この首一つで勘弁してもらえませんか!?」
うん分かった首もらうわね?
と、答えるわけにもいかないわよねぇ。こーんな衆人環視の目があるのだから。
でも道化もそれは織り込み済みでしょうし……ここは一つ、意外な展開として本当に首を要求するのはどうかしら? どんな反応をするか見物じゃない?
私が黒いことを考えていると、領主様が私と道化の間に立った。まるで道化を庇うかのように。
「聖女様。平にご容赦を。この道化を止めなかったのは私でございますれば」
「…………」
本来であれば使い捨てである道化を守る態度、中々に立派じゃない? さすがは自ら最前線で戦うだけのことはあるわ。
まぁ、鑑定眼持ちの道化を使い捨てするのはもったいないし、そもそも道化をけしかけたのはお前だろうというツッコミどころがあるのだけど。ちゃんと守っているのだから及第点でしょう。
「――許しましょう。あなたに神のご加護があらんことを」
テキトーな文言を述べてから、貴族令嬢らしいカーテシーを。
「おぉ、ありがたい! 何という慈悲の心! やはり聖女様か!」
少し大げさに声を張り上げる領主様。たぶん失礼をしちゃったことに対するフォローのつもりなのでしょう。「領主が認めるぞ! このお方は本物の聖女様だ!」みたいな感じで。こっちとしてはあまり目立ちたくはないのだけどねー。善意なのだから受け入れておきましょうか。




