大したことではない(当社比)
死者蘇生。
とはいえ、実際のところそんなに難しいことではない。
原作ゲームでは死亡した仲間を24時間以内に教会へと連れて行き、聖職者に寄進(寄付)をすると生き返らせてもらえたからだ。
ちなみに原作ゲームは第一部が恋愛シミュレーションで、第二部以降がRPGとなっている。いきなりの別ジャンル化。ちょっとゲーム制作者たちの正気を疑いたくなるわよね。いや恋愛パートと戦闘パートが混じっているのはありがちかしら?
ジャンルはともかく、原作ゲームでは死者蘇生もシステムに組み込まれていたのだから、当然私も執り行うことができる。死に戻った中では修道院に入って聖職者としての道を歩んだこともあるし。
ただまぁ、聖職者になってから知ったけど、この世界の人間はなぜか死者蘇生が使えないのよね。神話での伝説扱いになっているみたいだし。
原作ゲームとの差にどんな意味があるのか。あるいはこの世界はゲームによく似た現実ということなのか……。
この世界にはないはずの死者蘇生。
リリーの心配ももっともだ。
でも、私はあまり心配していない。
なぜならば――死者蘇生なんて、まともな人間は信じないからだ。私は何度もの死に戻りの中でそれを実体験している。
確かに噂にはなる。
けれども、それだけ。
まともな人間は与太話だとしてまともに取り扱わないし、いずれは変な噂の一つとして自然消滅する。そういうものなのだ。
新聞もテレビもないこの世界で、情報が広がるのは人伝でしかない。さらに伝言ゲームで噂の内容自体が変わっていくことを考えると……。よほど純心な人間か、よほどのバカでもない限り信じないし、そういう判断力の弱い人間には、噂の発生源にたどり着けるほどの『力』はない。隣町に行くだけでちょっとした冒険だしね。
結論としては問題ないと思う。
あとはまぁ、領主に頼んで箝口令を敷いてもらえばね。
だいぶ魔力を使ったなぁと私が肩を回していると、
≪――特殊条件・蘇生人数100人を達成しました≫
おや? また頭の中に声が?
この広場だけでも……100人は軽く超えていそうね。みんな驚いたり呆然としたり涙を流しながら抱き合ったりしている。
≪――神の代行者。人類の守護者と認定されました。特定僥倖『聖女』の称号が与えられます≫
なんでやねん。
と、思わずツッコミしてしまった。声を出さなかった私、えらい。
なんで『魔王』が『聖女』になるのよ?
いやたしかに100人以上蘇生させれば聖女でしょうけどね? その前に魔王認定されているのよ? 人類の災厄にして僥倖ってどういうことよ? 死こそ救いなり~みたいな? 人類を皆殺しにして救ってくださいと?
とりあえず、ステータス画面を確認。……うん、聖女の称号を得ているわね。くれるというなら貰っておきましょうか。
…………。
ここは称号欄を『Aランク冒険者』じゃなくて『聖女』にしてしまえばいいのでは? ほら、死者蘇生したのは事実なのだし。冒険者より聖女の方が納得してもらいやすいでしょう。元々聖女候補だったのだし。
あと、私を婚約破棄&追放した王太子への意趣返しになるもの。「へー、あなた本物の聖女に冤罪を被せて追放したんですねー」って感じに。
私がちょっと腹黒いことを考えていると、
「――お見事でございました。このリリー、シンシア様の実力を見誤っておりました。伏して謝罪致します」
深々と頭を下げてくるリリーだった。
「いいのよ。隠していた私が悪いのだし」
リリーには死に戻りの中で何度か死者蘇生を見せたけれど、今回のやり直しではまだ秘密にしていたはずだ。……何度も同じような人生を繰り返したのでちょっと記憶が曖昧になっているけど、たぶん見せてはいないはず。
「……ところで」
リリーが私の顔を凝視してくる。正確には、私の顔より少し上を。
「その御髪は……?」
「おぐし?」
あぁ、そういえば今は変身魔法で髪を茶色に変えていたのだっけ。で、死者蘇生で魔力を使いすぎたから変身魔法が解除され、元の金髪になったのだと思う。
でもそんなに驚くことでもないのになぁリリーは元の髪色を知っているのになぁと思いながら髪を一房手に取り、目の前へ。
――銀。
銀色。
とっても艶やか。
キラキラ。
日の光を反射して輝いている。
リリーの銀髪より――少し色が濃いかしら?
さらに言えば瞳の色は『金色』になっていた。銀髪金目……メッチャ目立つわね……。
「……銀色ね?」
「はい。銀髪でございます」
「なぜ?」
「私がお尋ねしたいくらいですが? いえ私としては『おそろい』なので文句はないと言いますか大喜びと言いますかついに私の時代が来たかと言いますか」
何を言っているのかしらこの子は?
「……聖女になったからかしらねぇ?」
魔王になったからの可能性もあるけれど。ここまでキラキラ輝いていると聖女っぽくない?
「……聖女でございますか?」
「うん、聖女。私、聖女になったみたいなのよ」
さすがに魔王になった直後に聖女は信憑性がないかなーと思ったのだけど、リリーは即座に信じたようだ。
「やはり――っ! その美しさ!! 慈悲深さ!!! 聖女以外の何でありましょうか!!!!」
リリーが周りにも聞こえるほどの大声で叫びだした。あーあ、周りの人たちも「聖女様!?」「やはりそうか!」「聖女様であればこの奇跡も!」と騒ぎ出している。
そして、
「――いいえ、リリー様。主は神そのもの。聖女を越えた存在なのです」
突然『にょきっ』とセイラちゃんが現れた。いや実際に『にょきっ』と生えてきたわけじゃないけど、そう表現したくなる勢いで『にょきっ』と出てきたのだ。
「……なるほど、私としたことが。シア様は神でしたか」
違いますけど?
私がリリーに突っ込もうとすると、セイラちゃんが地面に両膝を突いた。そしてそのまま、教会で神に祈りを捧げるかのように手を組む。
「――懺悔します」
「あ、はい?」
「私は、主を見誤っておりました。王太子殿下の婚約者かつ聖女候補でありながら、嫉妬によって他の聖女候補を虐めるような人間であると」
主って、私のことよね?
いやいや今はもっと気になることがある。
「……私の正体、知っているの?」
「はい。天上より降臨なされた神ですよね?」
違いますけど?
「そ、そうじゃなくて、私の身分よ」
「人間界での身分のお話でしたか。はい、教会で修行中に何度か。とはいえ直接ご挨拶したことはなく、遠巻きに見学していただけですが」
「あー……」
セイラちゃんは聖職者だし、教会で『聖女候補』だった私を見ていても不思議じゃないのか。
私が納得している間にもセイラちゃんの懺悔は続いた。
「さらには。私は主があの首なし騎士を殺したと疑っておりました。ですので、懺悔を。罪深き私をお許しください」
いや名推理。大正解なんですけど? でも勝手に勘違いして勝手に疑いを晴らしてくれたなら結果オーライ? みたいな?
「――許しましょう」
かなり尊大に。偉そうに。胸を張って許しを与える私だった。だってこのまま流されれば殺人の容疑者から外れるし。
「なんと寛大な……主よ、お仕えいたします……」
え? 仕える? なんで? 私が『神』だから? 聖職者として? そもそも神じゃないんですけど? それに勇者パーティーはどうするの?
助けを求めるようにリリーを見る。
彼女は何度も何度も頷いていた。「シア様を主と定めるとは、分かっていますね」とばかりに。駄目だコイツ頼りにならない……。あと主じゃなくて主みたいだし。
殺人の容疑者から外れるのは嬉しいけど、このまま神様扱いはマズいのでは?
ここは何とか誤解を解かなければいけないと私が悩んでいると、
「――失礼致します。先ほど、『聖女』というお言葉が聞こえたのですが」




