攻撃魔法
なんでいきなり魔王に?
原作ゲームだと魔王を倒すことで次の魔王になってしまうという流れだったはずだ。神の否定とか、魔法で殺戮とか、千人斬りなんて条件はなかったはず――
――いや、分からなかっただけか。
聖女となるヒロインが神を否定するはずがないし。攻撃魔法で人々を殲滅するはずもない。ましてや剣を振るって千人斬りなんて……。元々そういう条件があったとしても、それをゲームプレイヤーが知ることはない。
つまり、あれかしら? 魔王になる条件はいくつかのパターンがあって、私は偶然そのうちの一つを達成してしまったと?
んー? でもそれだとゲームの制作者は誰も実現できない条件を設定していたってこと? あるいはゲームは関係なく、この世界独自のルールとか?
分からないなぁと私が首をかしげていると、
「――シア様。いかがなさいましたか?」
「わぁ!?」
突然背後から声を掛けられてビクッとしてしまう私だった。リリーって気配がないのよねぇ……。吸血鬼だから? あるいは『リリーなら』と無意識に警戒しない可能性もあるけれど。
というかなんでリリーが領都に?
「ごほん。リリー、あの女性たちは?」
「現在ベッドで休ませています。今ごろは楽しい夢を見ているかと」
「あらそう」
洗脳の一種か、あるいは吸血鬼としてのスキルか。リリーにはそういう夢魔みたいな力もあるようなのだ。
なるほど、リリーがロイ君たちを砦からここまで連れてきてくれた感じか。走ってきたにしては早すぎるし。
ちらりとロイ君の様子を横目で確認すると、彼は茫然自失としていて、血のついた剣の柄を強く握りしめていた。指が白くなるほどの力で。
彼の周りではシーナちゃんが励ましたりセイラちゃんが回復魔法を掛けたりしていた。『はじめての殺人(未遂)』の衝撃にどれほど効果があるかは分からないけど、まぁ私がしゃしゃり出るよりはいいでしょう。
私が最初に人を殺したときは――どうだったかしら? もう、色々ありすぎて忘れてしまったわ。あるいは必死に記憶から消そうとして本当に忘れてしまったか。
ロイ君の様子も気になるし、『魔王』についても調べたい。
けれど、私が優先順位を間違えることはない。
「……なんだかとんでもないことになっているのだけど、説明はあと。まずはこの街の盗賊を殲滅してしまいましょう」
「御心のままに」
リリーが恭しく一礼してきたので、探知魔法で状況を確認してから領主の館を目指す。私たちの登場はまだ伝わっていないのか、城館を取り囲んだ盗賊たちが包囲を解く様子はない。
「ふむふむ?」
城館の門は固く閉じられ、館の中から弓矢や攻撃魔法が飛んでいるわね。領地の騎士かもしれないけれど、冒険者たちが立てこもっている可能性もあるかしら?
ちなみに冒険者ギルドと盗賊の関係は地方によってまちまちだ。裏で繋がっている場合もあるし、ギルドが報酬を上乗せしてバンバン狩っているところもある。
盗賊は両館の周りに集まっていて。一般人の姿もない。これは範囲攻撃魔法が使えるわね。
「まずは城館を取り囲んだ盗賊を排除するわ」
「ご随意に」
リリーの一礼に軽く頷いてから、天に向けて右手を掲げる。町中で炎系の魔法を使うのは危険すぎるので、ここは雷系で行きましょう。建物に落とさなければ火事にはならないはずだ。
「――神威象りたる天の光よ。すべてを焼き尽くす神々の怒りよ。世界を照らす光で以て、世界を害する邪悪を討て!」
ぱちり、と私の髪先が爆ぜた。
暗雲が立ちこめ、急激な勢いで帯電していく。
「――|雷よ、我が敵を討ち果たせ《トニトルニアス》!」
解放。
落雷。
雷となった魔力は、正確無比に盗賊たちを打ち据えていく。気絶や感電などという生易しいものではない。一瞬で肉体が黒焦げになるほどの威力だ。
「お見事でございます。中級攻撃魔法でこの威力とは」
リリーが(無表情のまま)絶賛してくるけれど。私としてはちょっと首をかしげてしまう。
リリーの言うように、ちょっと威力が強すぎない?
盗賊に対する怒りが無意識の乗ってしまったかしら?
「一撃で8割ほど滅しましたか」
「……そうみたいね」
しかしまぁ、中級攻撃魔法の呪文って明らかに神様関連なのだけど。『神の敵』であるはずの魔王でも普通に使えたわね? 呪文の内容は関係ないってことかしら?
うん、浄化のときも神様を否定しつつ『神の奇跡』を実行していたものね。この世界はそんなものなのだと思う。信仰心より呪文詠唱が重要、みたいな?
もう一度雷を放とうとした私は――中断した。城館の門が開き、冒険者たちが盗賊に向けて突撃を開始したからだ。
今の状況でも探知魔法と組み合わせて盗賊だけを狙い撃つことはできる。けれど、万が一ミスがあると大変なので、私は攻撃魔法を諦めて斬り込んだのだった。




