達成
廃砦から領都の出入り口となる城門前まで転移して。
「……ふぅん? 辺境にしては立派なものね?」
城壁の端から端までを見渡しながら私はそう呟いたのだった。
そう、城壁だ。
さすがに王都ほどではないけれど、高さ3メートルほどの石積みの壁が領都を取り囲んでいたのだ。これなら魔物はもちろん、大規模な軍勢でもある程度は防げるでしょう。
こんな城壁があるのに盗賊の侵入を許したということは……門番あたりを買収したのかしら?
「さて、どうしたものかしら?」
開け放たれたままの城門。逃げてくる住民たち。
壁の向こうから聞こえてくるのは悲鳴。漂ってくるのは何かが燃えるニオイ。まず間違いなく襲撃が起こっているでしょう。
探知魔法を使い、街全体をスキャンする。青い点が一般人で、赤い点が盗賊だから……。どうやら、町の人の多くは中心部にある領主の館(城館)に立てこもっているらしい。で、城館に入れなかった人々が盗賊から逃げ惑っていると。
盗賊の数は冗談じゃなく100人を超えていそうね。下手をすれば200人弱……。
これだけいると普通の略奪だけでは養いきれないような気もするのだけど。密貿易とかやっているのかしらね? あるいはスポンサー付き? たとえばここの領主と敵対する貴族が裏で資金提供したり……。まぁ、それは今はいいかしら。
一般人もいる領都の中で攻撃魔法をぶっ放すわけにもいかないから、一人一人殺していかないとかぁ。ちょっと面倒ね。
「盗賊の大部分は城館を取り囲んでいるみたいだけど……まだ余裕はありそうね。ここは周囲の盗賊を殲滅しちゃいましょうか」
方針を決定した私はロングソードを抜いてから街に入ったのだった。
◇
――雑魚ばかりである。
まぁ、まともな腕をしていれば盗賊なんかにならず、どこかの貴族に仕官するか冒険者になるから当たり前なのだけど。それを考慮に入れても質が低かった。どうやらこの盗賊団は頭数を揃えるのを優先しているらしい。
「一般人相手なら質より数が重要だから間違ってはいないのだけどね」
そんな質の低い連中に攫われた人間がどうなるかは……。
とりあえず、目についた盗賊は『魔力変換』で仕留めつつ、逃げ遅れた集団がいたので守りながら剣を振るう。あまり激しく動かれていると誤射が怖いし。
それに、剣で斬り殺した方が盗賊共の恐怖心をかき立てられるからね。
数えるのも面倒くさくなるほど斬り伏せたところで、盗賊も住民も私の存在を強く認識したらしい。盗賊は邪魔者として。住民は救世主として。
自然と住民たちは私の背後に集まり、そんな私たちを盗賊たちが取り囲んだ。
「――へへっ! 動くなよ! コイツがどうなってもいいのか!?」
盗賊の中でも一回り大きな男が、幼い少女の首筋にナイフを押し当てた。……私が強いとみるや子供を人質にするとか、本当にクズね……。
「よく見りゃあ美人じゃねぇか! 剣を捨てろ! お前が大人しくするなら他の連中は見逃してやるぜ!」
そんなはずはない。私が剣を捨てたら、私も後ろにいる人たちも『戦利品』になってしまうだろう。いや、男は殺されるかしらね? 奴隷として売れるけど途中で抵抗されるかもしれないし。殺してしまった方が面倒はない。
ここで心優しき人間なら抵抗できなくなってしまうのだろうけど……私なら問題はない。『魔力変換』ならば幼子を避けて盗賊を殺すことも可能だからだ。
しかし、私は剣を捨てた。
なぜならば、盗賊の背後に見えたから。ここは私が剣を捨てて盗賊たちの意識をこちらに向けた方がいいでしょう。
「へへっ、よく分かっているじゃねぇか。おいお前ら! まずはこの女――を?」
下卑た笑いを浮かべた男の言葉が止まる。背中に衝撃を受けたためだ。
後ろを振り返った男が見たものは――自らの腰に深々と刺さる剣だった。
この世界、この時代、回復魔法がなければ内臓の損傷はほぼ致命傷となる。
そんな致命傷を盗賊に追わせたのは、ロイ君だった。
剣を腰だめに構えての一撃。背中から腹にまで貫通するほどの勢いだ。
返り血がロイ君の身体を赤く染めていく。
興奮状態にあるのでしょう。呼吸は乱れ、目には凄惨な覚悟が浮かんでいた。
「てめぇ……ガキが……」
最後の力を振り絞って反撃しようとした盗賊。そんな彼の動きは永遠に止まった。ロングソードを拾った私が、一瞬で距離を詰めて首を刎ねたためだ。
盗賊の首が地面に落ちる。
これで、盗賊を殺したのはロイ君じゃない。
というのは、甘すぎるかしらね?
ともかく、残りの盗賊は『魔力変換』でトドメを刺して――
≪――特殊条件を達成しました≫
おや? またまた謎の声が?
≪――特殊条件1・神を否定する≫
まぁ、神様なんていないわよね。
≪――特殊条件2・魔法で敵を1万人倒す≫
なんだかゲームの実績解除っぽくない? いやゲームの世界かここは。
しかし、魔法で1万人も殺したかしら? 今まで死に戻った人生の合計? それならあり得るかもね。前の人生、王都へと迫る敵軍に向けて攻撃魔法をいくつか叩き込んだし。
≪――特殊条件3・千人斬りを達成する≫
この前から聞こえてきたカウントはこれかしら? これもまた死に戻った人生の合計ならそのくらい行くと思う。一回、『剣聖』になるためにひたすら斬り続けたし。その後も冒険者として盗賊狩りを繰り返したもの。
≪――神の敵。人類の敵と認定されました。特定災厄『魔王』の称号が与えられます≫
え?
え?
えぇ?
魔王になっちゃった?
いやいや、なんで?




