特殊条件
砦の中の盗賊をあらかた殲滅したあと。
≪――特殊条件達成まで、あと90人となりました≫
また、そんな声が響いてきた。
この前は100人だったから、≪特殊条件≫とやらまで10人減少した?
この人数が何を意味しているかというと――
「――殺した人数?」
たしか、前の声が降りてきてから10人くらい殺したはず。
つまり特殊条件まであと100人の状態で10人殺したから、残り90人になったと。
特殊条件とやらを達成したら何が起こるのだろう? 地獄堕ち?
「シアさん? 何か言いましたか?」
息を切らせながらロイ君が尋ねてきた。彼はまだ一人も殺していないけど、それでも相手を殺す気で戦っているのはよく分かった。……実力が足りておらず、時間が掛かりすぎているから私が先に殺しちゃうのだけどね。
別に、『いたいけな少年にはなるべく人を殺して欲しくはない』なんて思っているわけではない。
◇
あえて殺さなかった盗賊に話を聞くと。
盗賊団のボスと主力たちは子爵家領の領都を襲撃しに行ったらしい。
領都。とは言っても王都みたいに厳重な城壁に囲われているわけではないと思う。田舎の弱小領地にそこまでの力はないのだ。余裕があるところで人の背丈くらいの石垣か、酷いところは土塁と木柵だと思う。
国の騎士団が駐屯していることもない。なぜならあの辺は『捨て地』だからだ。
魔の森から大量の魔物があふれ出す世界の終わり。それが起こったとき『犠牲』になってもらい、近くの辺境伯が軍を整える時間稼ぎとする。それが子爵家領の使命なのだ。
もちろん、子爵本人や住民たちに知らされることはないけれど。国としてはそういう方針で動いているのだ。王太子の婚約者として内政の手伝いをしてきた私はそういう土地がいくつかあるのを知っていた。
どうせ捨て地なのだから騎士団なんて置いておかないし、本格的な防備を整えることはない。実際、原作ゲームでは滅んでしまっていたし。
とはいえ、盗賊団の襲撃くらいで壊滅するのは手を抜きすぎというか……。いやまだ盗賊団で壊滅したとは限らないか。盗賊団を撃退して余力がなくなったあと世界の終わりが起こる可能性もあるのだから。
ともかく。盗賊団がどこにいるかは聞き出したので、そのためだけに生かしておいた盗賊は『処分』しておく。もはやそのことに対して口を挟む人はいなかった。
「シアさん! すぐに助けに行きませんと!」
慌てた様子のロイ君。子爵家領に知り合いがいるわけでもないでしょうに、とんでもない善人である。
「そうね、そうしましょうか」
答えつつ、砦の門ではなく物見台へと上る私。ロイ君は今すぐ駆け出したい様子だけど、私の経験豊富さを信頼してくれているのか黙ってついてくる。
小高い山の上に築かれた砦からは子爵家の領都がよく見えた。この高さと距離では攻撃魔法で街の好きなところを狙い撃ててしまうから、それを防ぐために砦を築いたのでしょう。見たところ他に高台はなさそうだし。
こんな重要地点すら維持できないのだから、子爵家領の経済的な余裕のなさが察せられるわね。あるいは人間に対する対策は早々に放棄して、魔物対策だけをしているのか。
子爵家領ではあちこちから煙が立ち上っていた。視力のいいリリーがいればどんな状況か確認できたかもしれないけど……彼女には囚われていた女性たちの世話をお願いしたので呼んでくるのも気が引ける。
そもそも、何が起こっているのかは分かりきっているのだから、私がやることは一つだけだ。
「――我が行く道に迷いなし。我が征く道に憂いなし」
「――世界の果てに夢を見て、今ここに奇跡の御業を再現せん」
「――我が夢、我が運命、|我が照らし、我が突き進まん《メインジ・ジェア》」
呪文を唱え終えた私は、領都に向けて転移したのだった。




