閑話 聖職者・セイラ 2
「あぁ、神よ……」
あまりにも凄惨な光景を前にして、聖職者のセイラはただ神に祈ることしかできなかった。
殺人はやりすぎだと感じていた。
盗賊であろうと人間であると思っていた。
殺すのではなく悔い改めさせるべきだと考えていた。
そうすればどんな存在でも更生するだろうと……甘く考えていたのだ。
しかし、現実はそんなに甘くなくて。
砦の地下。鉄格子の奥に囚われていたのは若い女性たち。全員が一糸まとわぬ姿で身体を床に投げ出している。
――盗賊たちの慰み者になってしまったのだ。
そういう経験がないセイラでもすぐに察することができた。元々教会にはそういう目に遭って地元にいられなくなってしまった女性たちを受け入れるという側面もあるのだ。
セイラが出会った被害者の中には美しい者もいた。気高い者もいたし、常に何かに怯えている者もいた。彼女たちは皆、こんな目に遭っていたのか……。
彼女たちは被害者だ。何も悪いことはしていないはずだ。
だというのに女性であるというだけでこのような目に遭わされ、心と体が傷つき、さらには生まれ故郷に帰ることすらできなくなってしまった。
なぜこんな目に。
神の試練にしても酷すぎる。
この世界には、本当に、神などいるのだろうか――
「――神よ。いと気高き我らが神よ。穢れし子羊を憐れに思うのなら、慈悲の光を今ここに」
無慈悲な惨状を目の当たりにして。なおもシアは神への祈りを口にした。
「――浄化」
聖職者であれば誰もが使うことの出来る浄化聖法。ただし効果は信仰心によって変わってくるとされる。新人であればわずかに汚れを落とすことができる程度。しかし大司教ともなれば大切な儀式に相応しいよう場を清めることができるのだという。
牢獄内に光が降り注ぐ。
浄化にこんな効果はなかったはずだ。
しかし、事実として暗く湿った地下牢に光が満ち溢れ。穢された女性たちの肉体がみるみるうちに清らかになっていった。
そしてさらに。驚くべきことに。彼女たちの顔色までもが良くなっていたのだ。
こんなことはあり得ない。
浄化の常識を遥かに超えている。たとえ大司教であろうとも、枢機卿であろうとも不可能なはずだ。穢された人の肉体を浄化し、体調まで改善させるなど。あるいは『教皇』であろうとも……。
そんなことができるのは、きっと――
「――聖女様?」
無意識のうちにセイラは呟いていた。




