襲撃
まずは探知結果に従い、地下牢を目指す。こういう砦に牢獄があるのはお約束よね。
まずは牢屋内の人の安全を確保するため、なるべく接敵しないルートを選びながら地下へ。それでもどうにもならない場合は即座に殺し、死体はリリーに処分してもらう。
死体が残っていては騒ぎになるからこの対応にしたのだけど、意外な効果があった。シーナちゃんとセイラちゃんが騒がなくなったのだ。
やはり死体がないと嫌悪感も薄れるのかしらね? ただ単に感覚が麻痺しただけかもしれないけど、どちらにせよ騒がなくなったのは良いことね。
鍵を開け、ジメジメとした地下へ。元より牢屋内の人間の健康など考慮していないのか、住空間としてはかなり居心地が悪い。
「う゛っ」
私の背後で誰かが呻き声を上げた。地下空間の充満したニオイのせいで吐き気を催したようだ。
汗と皮脂による臭気。これは風呂にも入れてもらえないから当然として――それらに混じったこの独特の『雄』のニオイは……。
わずかに聞こえるのは、まるで生気の感じられない女性の呻き声。もちろん私たちのものではない。助けを求めるような力強さはなく、口を閉じる気力すらないから呼吸と共に漏れてしまったかのような。
うーん、はじめてにしてはかなり悪い現場ね。攫われた人間のバラバラ死体があるよりはマシだけど。
一旦立ち止まり、どうしたものかと悩む。いくら魔王を目指しているとはいえ、少年少女にこの先の光景を見せるほど鬼畜にはなれないのだ。
そんな私の気遣いなど知る由もなく。ロイ君は止まることなく地下の奥へと歩いて行ってしまった。
追い詰められたような表情。
もしかしたら、この先に何があるのか察してしまったのかもしれない。
「ちょ、ちょっとロイ!」
「警戒もしないで! 危険ですよ!」
シーナちゃんとセイラちゃんもロイ君の後を追ってしまう。あーぁ、もう手遅れか……。魔法で動きを止めることも出来るけど、そこまでしてあげる義理もなしと。
小さくため息をついた私はリリーを伴い、地下空間を進んだのだった。
◇
「そんな……」
「こんな、酷い……」
「あぁ、神よ……」
それぞれに絶望を表現するロイ君、シーナちゃん、セイラちゃん。
目の前にあるのは鉄格子。
その奥に囚われているのは――若い女性たち。
年齢は十代前半から二十代の後半まで。全員が一糸まとわぬ姿で身体を床に投げ出している。
その身体は所々が酷く汚れている。
男所帯の盗賊に囚われれば、当然『そういうこと』をされるのだ。
「――ひっ!?」
私たちの存在に気づいた女性の一人が小さな叫びを上げ、後ずさる。
「やめて、たすけて……ごめんなさい、ごめんなさい、ゆるして……ごめんなさい……」
私たちは女だし、ロイ君にしても少年なのだから強盗と見間違えるはずがない。
でも、彼女にとってそんな理屈は何の意味も持たないのだ。
牢屋の外にいるのは、全員が『酷いことをする』人間で。彼女はもはや抵抗することすらできず、許しを請うしかないのだ。
「――――」
彼女の姿に、私はかつての『私』を見た。
その場に立ち尽くすロイ君たちを押し退けて鉄格子の前へ。
ゆっくりと。心を落ち着けるように深呼吸をする。
まだ、怒りを発露するときではない。
まずは彼女たちを何とかしないと。
私はもう一度深呼吸をしてから、浄化の呪文を唱え始めた。
「――神よ。いと気高き我らが神よ。穢れし子羊を憐れに思うのなら、慈悲の光を今ここに」
神などいるものか。
もし神がいるなら、なぜ私は地獄を繰り返すのか。どうしてこの女性たちは酷い目に遭わなければならなかったのか。
これがもし『神の試練』だというのなら、私は神を否定しよう。
私の決意はともかくとして。微塵も信仰心がなくとも呪文(聖文)を唱えれば効果を発揮するのが魔法のいいところだ。神の慈悲などではなく、理論理屈によって洗練された技術なのだから。
「――浄化」
牢獄内に光が降り注ぐ。神の奇跡……などではない。私の魔力が自ら光を発して輝いているのだ。
浄化魔法。
正確を期するなら、浄化聖法。
肉体を綺麗に。
心の傷までは癒やせないけれど、それでもそのままでいるよりはだいぶマシであるはずだ。異臭を放つ汗も皮脂も体液も、全てが消え失せていく。
そしてさらに、
「――魔力変換」
彼女たちの体内にある魔力を栄養分に変換する。
たとえば魔力をアミノ酸にして疲労回復を促したり。その他にも鉄分や亜鉛などを半ば無理やり補給させるのだ。
もちろん効果はささやかなものだし、急に元気になったりはしない。
しかし栄養失調状態だった彼女たちには十分だったらしく、先ほどより明らかに顔色が良くなっていた。
空間収納に入れておいた服を取り出し、転移魔法の応用で彼女たちに着せてあげる。……冒険者服はそんなに在庫がなかったし、どうせならということで貴族用のドレスを着せてあげる。もう使うことはないだろうしね。
晴れやかなドレスを身につけたおかげか、彼女たちの顔はわずかに華やいだ。
そんな女性たちに微笑みながら、私は後事をリリーに任せて踵を返した。
「――さて。皆殺しにしましょうか」




