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闇堕ち令嬢シンシア ~死に戻り少女は死なないことにした  作者: 九條葉月


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才能

 


 ゴーレムにセバスと馬車の守りを任せて砦への山道を登る。

 リリーは吸血鬼なので身体能力は人間より優れているし、ロイ君たちもそれなりに鍛えているのか息が上がった様子はない。これならちょっと休憩したあとに突撃しても問題なさそうね。


 砦近くの茂みに陣取り、まずは小休止。息を整えつつ水を飲む。


 門の前には門番らしき男がいて、退屈なのか大きなアクビをしている。あの様子なら大きく騒がない限り気づかれないでしょう。


 皆の呼吸が落ち着いたところで作戦会議だ。


「まずは探知魔法で敵の数を確認しましょう。敵に魔法使いがいるなら気づかれちゃうけど、盗賊の中に魔法使いがいることは滅多にないからね」


 盗賊なんかやるより貴族のお抱えをやった方がお金が儲かるし、何より安全だもの。


 まっ、ときどき罪を犯したヤツが盗賊落ちしている場合もあるのだけどね。その場合は警戒を強めればいいだけ。どこに誰がいるのか事前に分かっている方がリスクを軽減できるのだ。


 魔法使いのシーナちゃんに頼んでもいいけど、まずは私がやってしまいましょう。そのあとシーナちゃんに試してもらってどれほどの腕前か確かめてもいいかもしれない。


 探知魔法は簡単な部類の魔法なので無詠唱でやってしまう。


「……んー?」


 探知結果が頭の中に流れ込んできた私は首をかしげてしまうのだった。


「ど、どうしました?」


 どこか不安げなロイ君に探知結果を説明する。


「数が少なすぎるのよね」


「数が?」


「えぇ。あの門番は盗賊が100人とか言っていたじゃない?」


「……あくまで噂だったのでは?」


「まぁそれは噂にすぎないとしてもね。王都の冒険者ギルドにまで討伐依頼が回ってくるのだから、かなり大規模な盗賊団だと思うのだけど……。砦の中にいる人員が少なすぎるのよね。たぶん最低限の警備しかいないのではないかしら?」


「それは……どこかに出かけているということですか?」


「そうね。たぶんどこかで『仕事』をしているのよ」


 盗賊の仕事といえばもちろん盗賊行為。この世界の盗賊は容赦がないので放火や誘拐、殺人も躊躇いなくやってしまう。


「っ!?」


 立ち上がりかけたロイ君の手を掴み、引き寄せる。


 ちょっと引く力が強すぎたのかロイ君がこちらに倒れ込んできたので、抱きしめて支える。あら柔らかい。そしていい匂い。――初めて抱きしめられたとき、ずいぶんと固く感じた王太子の肉体とはかなり違う。まぁまだロイ君は少年だものね。


 そして偶然か必然か。ロイ君の顔は私の胸の中へ。これがハーレム主人公、ラッキースケベの力か……。


「わっ!? すみません!?」


 顔を真っ赤にしたロイ君が大声を出しながら飛び退いて。


「……あちゃー」


 門番がこちらを見ている。たぶん気づかれたわね。茂みに隠れているとはいえ、そのうちこちらにやって来るかもしれない。


 ここは喋れないようにしてしまいましょうか。


「――魔力変換(クレアツィオ)


 門番の周囲に存在する酸素が魔力に変換される。

 空気中の二酸化炭素濃度が急激に高くなった結果、門番は声さえ上げられずに気絶したのだった。倒れたときにちょっと物音がしたけど、不自然じゃない程度でしょう。


「……え?」


「あの、シアさん? 今の魔法は……? いえ魔法ですかアレ……?」


 魔法に詳しそうなシーナちゃんとセイラちゃんが戸惑っている。


「説明はあと。砦の中の盗賊を制圧して、情報を聞き出しましょう」


 空間収納(ストレージ)からロングソードを抜きつつ門を目指す。


「あ、」


「はい」


 頭に疑問符を浮かべながらもシーナちゃんたちが私の後ろを付いてきて……私は、門の直前。倒れた門番のすぐ横で立ち止まった。


 まずは、先ほどリリーと内緒話したときのように遮音の魔法を展開する。誰かが叫んでもいい(・・・・・・)ように。


 そして――ロングソードの切っ先を、倒れた門番の喉に突き刺した。


 声さえ上げることなく絶命する門番。周辺に血が飛び散り、事態を理解したシーナちゃんとセイラちゃんが叫んだり腰を抜かしたりしている。


「し、し、シアさん!?」


「人を殺してっ!? 気絶していたのに!?」


 顔を真っ青にした二人に対して冷酷に告げる。


「気絶していようが、いまいが、盗賊は盗賊。逃げれば仲間を呼んでくるし、また略奪行為をするわ。――言ったでしょう? 捕縛なんて最初から考えないって」


「で、でもっ」


「意識のない人を……」


 まぁ想定通りの反応だ。こんな年端もいかない少女がいきなり殺し合いのただ中に放り込まれて平常心でいられるはずがないのだから。


 なので、これは一種の優しさ。

 ここで引き返すなら、これ以上(・・・・)は経験しなくて済むからね。いつの日か「酷い冒険者がいたんですよ」と思い出話ができるようになるでしょう。勇者パーティーから嫌悪されちゃうのが問題だけど、この程度の腕前なら敵対しても問題ないし。


 しかし、


「――二人は馬車に戻っていて」


 ロイ君が一歩を踏み出した。

 その目には覚悟が込められている。


「あら? ついてくるの?」


「はい。あのとき語った覚悟は、嘘じゃないですから」


「……へぇ?」


 目の前で白刃が煌めき、人の命が奪われ、鮮血が吹き出したというのに。ロイ君は意外なほど平静を保っていた。先ほど私の胸に顔をうずめただけで取り乱した子と同一人物とは思えないわ。


 なんともまぁ。

 この子、才能があるわ。


 はたして『勇者様』に相応しいかどうかは分からないけれど。


 才能があって、覚悟がある。

 ならば教え導くのが先達としての使命かしらね?


「では、参りましょう」


 遮音はまだ効果が持続している。

 私は魔法で開錠してから門扉を開いたのだった。




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