砦へ
門番が教えてくれたとおり、街から子爵家領に向かう馬車は運行停止していた。どうやら盗賊の被害が街道にまで至っているらしい。
仕方ないので冒険者ギルドと相談し、馬と馬車を借りることになった。御者は手配できなかったので自分たちで動かすことになる。
このメンバーの中で馬車を操れるのは私しかいなかったので、私が御者代わりをすることとなった。元公爵令嬢なのに働き過ぎじゃない、私?
馬車の前に付いた御者席に腰を据えると、自然な流れでリリーが隣に座った。慇懃無礼メイド……。
しばらく馬を走らせながら雑談していると――不意に、リリーが遮音の魔法を使った。内緒話をしたいらしい。
横目で確認するけど、他の人は魔法の発動に気づいてないみたい。魔法使いのシーナちゃんはそれでいいのだろうか? たるんでる……。いや私とリリーの周辺にだけ展開したから気づかなくても当然かしら?
「……なに? 内緒話?」
「それほど大したことではありませんが……シア様は『勇者』についてご存じなようでしたので」
「あぁ」
そんなことは昨夜確認すれば良かったのに、リリーさんは即熟睡していたからね。ご主人様を差し置いて。話を聞くなら今しかないと思ったのでしょう。
「たしかに知っているけど、そんなに情報は多くないわよ。聖剣を操り、魔王を打ち倒す存在だというくらいで」
正確に言えば勇者は魔王討伐に貢献するだけで、魔王を倒すのはヒロインなのだけど。話がややこしくなるから省略だ。
「……つまり、あの子たちはシア様の敵になる可能性が高いと?」
「どうかしらね?」
私は魔王になっても人類の滅亡とか世界征服なんて目指さないし。退屈な死に戻りがなくなればそれでいいのだ。危険はないのだから見逃してはくれないかしら? ほら、ロイ君たちって甘いし。人類としても友好的な魔王がいいだろうし。
そもそも自分から魔王だと名乗らなければバレないのでは? いや称号は『剣聖』とか『賢者』みたいに『魔王』を獲得しちゃうかもしれないけれど、それは隠蔽スキルで隠せるもの。
「……見通しが甘いというか、単純というか、闇堕ちしても根っこの善人さは変わらないというか」
「この、慇懃無礼メイドは……」
そんなやり取りをしているうちに、馬車は盗賊の拠点だという廃砦付近に到着した。
砦は小高い山の上にあるようだけど、幸いにして山道が門まで続いているようだった。
「じゃあ、セバスは馬車の中で待機していて? すぐ戻るから大丈夫よ」
「しかし……いえ、この老骨では足手まといにしかなりませんか。承知いたしました。無事の生還をお祈りしております」
セバスが深々と頭を下げ、
「……シア様。私には待機するよう命じないのですか? か弱い少女ですよ?」
「あなた強いでしょうが。キリキリ働きなさい」
「人使いが荒いことで」
「コキ使ってあげると言ったでしょう?」
「前言撤回したい気分ですね。しかし、セバス様の護衛はどうするのですか?」
「……あ」
よく考えればそれもそうね。ここは砦への道中なのだから山賊が偶然やって来る可能性もある。そうなった場合セバス一人では不安だ。
「ポンコツ……」
じとーっとした目を向けてくるリリー。くっ、今さら「やっぱりリリーは残って」とお願いするのも負けた気になるわね。
というわけで、私は別の『護衛役』を置いていくことにした。
具合の良さそうな地面の上に立ち、まずは風魔法で指先を少しだけ切る。
滴り落ちる血。
それが地面に染みこんだところで、私は『ゴーレム作製』の錬金術を発動した。
「――土塊よ、我が身を映せ」
ゴーレムの大きさは人間くらい。いざというときは馬車を守ってもらうから、盗賊の集団に負けない程度の強さにしておけばいいでしょう。
見た目としては岩や石が寄せ集まって人間の形になったみたいな感じだ。
「ご、ゴーレム錬成……しかもこんな簡単に……」
「内包された魔力量が……多すぎます……」
なぜかガクブルと震えるシーナちゃんとセイラちゃんだった。あぁ、ゴーレムはどちらかというと魔法じゃなくて錬金術だものね? 称号・賢者を習得すると錬金術も使えるようになるのだけど。
存分に震えながら顔を見合わせる二人。
「……セイラちゃん、あのゴーレム、私より強いのでは……?」
「……違いますよシーナさん。あなたより強いのではなく、私たち三人より強いのです……たぶん瞬殺……」
大げさだなぁ。こんな即席のゴーレム相手に。




