次の街
勇者パーティーと一緒に歩いていると、次の街が見えてきた。盗賊に対する情報共有も大体終わったので、転移魔法で移動してしまうことにする。
あの街で子爵家領行きの馬車を見つければいいでしょう。馬車を使えば一日かからないはずだ。
「――す、すごいです! 短距離とはいえ、6人同時の転移だなんて!」
転移魔法で街の城壁前まで転移すると、魔法使いであるシーナちゃんから大絶賛されてしまった。いやぁ、こういう純粋な子に褒められると嬉しくなっちゃうわよね。
「チョロい」
ふひーっと鼻を鳴らすリリー。誰がチョロいか。
リリーにはあとでご主人様の凄さを教え込むとして。
「まずは宿探しね。冒険者ギルド自体が宿になっている場合もあるし、普通は提携した宿を斡旋してくれるわ。夜に出歩くとトラブルに巻き込まれやすいから、食事はなるべく部屋で食べるように」
ロイ君たちに冒険者としての基本を教えつつ、街の出入り口を守っている兵士に冒険者証を提示する。この世界では冒険者証が立派な身分証明書になっているからね。
「おっ、Aランク冒険者か! こりゃ珍しい! ……この少年たちとの関係は?」
どうやら私とロイ君たちの冒険者ランクが違いすぎて不自然だったようだ。ロイ君たちは駆け出しで、まだEランクだからね。
「一応パーティーメンバーよ。恩人から面倒を見てやってくれと頼まれてね」
元公爵令嬢なのでこの程度の嘘は朝飯前だ。
「ほぉ、そうかそうか! Aランク冒険者から教えを受けられるとは羨ましいなぁお前ら!」
ロイ君たちに向けて快活に笑う門番さんだった。この感じだと引退した元冒険者なのかもね。
私が突然嘘をついたのでロイ君たちは戸惑っていたけれど、その様子が『初心者にありがちな人見知り』のように見えたらしい。門番さんは特に疑う様子もなさそうだ。
ただ、問題はリリーとセバスだ。冒険者でもなく、いきなり追放された二人は身分証明書も持っていなかった。
当然門番さんも疑いの目を向ける。二人がそれぞれ執事服とメイド服を着ているのだから尚更だ。
さて、ここはもう一つ嘘を重ねましょうか。
「この二人は私の知り合いで、依頼人でもあるわ」
「依頼人?」
「えぇ。仕えていたお屋敷をクビになり、身一つで屋敷を追い出されちゃったの。それで実家に帰るまでの護衛を私に頼んできたと」
「ははぁ、そりゃ大変だなぁ。しかしAランク冒険者を護衛に指名するとは何とも豪勢な」
「事情が事情だし、知り合いだから特別割引よ。それに、この子たちを魔の森で鍛える予定だったからちょうど良かったのよ」
「あぁ、魔の森でのレベリングか。そりゃ鍛えるのに最適だな」
「でしょう?」
「――なら、気をつけろよ? あの辺は最近盗賊が多いからな」
「王都でも依頼書が出ていたわね。そんなに酷いの?」
「あぁ。噂じゃ100人を超えるんじゃないかって話だ」
「あらまぁ」
そんなのちょっとした軍隊じゃない。さすがの私もその規模の盗賊団を相手にしたことはないわね。
そこまで人員がいるなら、私だったら大規模農場を営んだり冒険者クランを作ったりしちゃうのだけど……。まぁ、盗賊にそんな知識も意欲もないかしら。
盗賊100人。
騎士団もかなりの覚悟を持って攻略しなければいけない人数だ。
でも、私の場合は拠点だという廃砦ごと攻撃魔法で吹き飛ばしてしまえばいいのだから問題はないわね。
ちなみに攻撃魔法で砦を吹き飛ばせるレベルの魔法使いとなると、私の他には魔導師団長。あとは原作ゲームでレベルカンストしたシーナちゃんくらいかしら。
集団で考えるなら魔導師団も吹き飛ばせると思う。
もちろん魔導師団や魔導師団長がこんな辺境の盗賊退治をするはずがないので、こうして盗賊団ものうのうと活動しているのでしょうね。
「じゃあ子爵家領行きの馬車も運行停止している感じ?」
「だな。急ぎじゃないならちょっと様子を見た方がいいかもしれないな」
「分かったわ。ありがとう」
情報料代わりとして街への入場料を少しだけ多めに払うと、兵士は嬉しそうな顔で門を通してくれた。規定の入場料より多い分は彼の懐に入るからね。
◇
「ごめんなさいね、パーティーメンバーだなんて嘘をついて」
「い、いえ、むしろ光栄です! それに門番さんとのやり取りも参考になりました!」
「ああいうときのためにいくつか言い訳を準備しておくといいわね。あとは入場料を多く支払うと話が早いけど、あまり多すぎると真面目な門番は逆に疑ってくるから注意すること」
「勉強になります!」
打てば響くロイ君についつい多めのアドバイスをしてしまう私だった。なんかこう……弟子というか弟というか。
「チョロい」
ジトーッとした目を向けてくるリリーだった。相手する時間が少なくなったから拗ねているとか?
リリーの視線を背中に受けながら、まずは冒険者ギルドへ行って今日の宿を斡旋してもらう。
特にセバスは徹夜明けかつ長距離移動後だからね。気兼ねなく休めるように個室を取ることにする。セバス本人は遠慮したけど無視だ無視。私は執事の言うことを無視する系悪役なのだ。
私とリリーは同じ部屋。同性同士なのだから問題はないでしょう。
そしてロイ君たちはというと――なんと、三人で一つの部屋だった。
あらあら。
あらあらまぁまぁ。お盛んなことで。
いえ分かるわ。
ロイ君が一人部屋でシーナちゃんとセイラちゃんが二人部屋の場合、部屋を二つ取らないといけないものね。駆け出し冒険者にとっては部屋代もバカにならないでしょう。
でもねぇ? 年頃の男女が同じ部屋。しかも女性が二人。これはラブコメの波動を感じてしまうわよね?
「……ポンコツ闇堕ち令嬢」
リリーさん、それ、わたくしのことでして?
◇
二人部屋は何とも質素な内装だった。窓が一つ。その窓のすぐ下に二人がギリギリで眠れる程度のベッド。お風呂や洗面台なんてものはもちろんなく、壁に備え付けの机が一つあるだけ。もちろんカーテンなし。平均的な冒険者向けの宿だった。
ちなみに『冒険者向け』という言葉には『設備を極力少なくして値段を抑える』と『盗まれるようなものは置かず、壊されそうなものも置かず』という二重の意味がある。
……なんだか疲れた。
いや、使用した体力や魔力は大したことないし、私は自動回復と自動魔力回復というスキルも習得済みなので肉体的な問題はない。けれど、精神的に疲れてしまったのだ。
やっと自由になれたと思ったらセバスが登場して。少しだけとはいえ二日連続で人を殺し。転移魔法の連続使用に、まさかまさかの勇者パーティー登場。これで疲れるなという方が無理な話だ。
私は聖女候補なので聖魔法も使える。というわけで浄化という魔法を使って服や身体を清浄化してからベッドに身を乗り出したのだった。効果範囲にはリリーもいるので、彼女も綺麗さっぱりだ。
そのままベッドに身を投げ出すと、やはり当然のようにリリーもすぐ隣に横になったのだった。
「シア様は女たらしでございますね」
「え? いきなり何よ? リリーに関しては口説く以前にそっちから突撃してきてない?」
「いえ、気づいていないのならそれでいいのですが」
「?」
どういうことだろうと私が寝転がったまま首をリリーに向けると……彼女はもう寝息を立てていた。いや早い。早いわよリリー。もっとこう同じベッドで寝ることに対する照れとか葛藤はないの?




