追放
そうして。13回目のやり直しの中で。
私は、自分の人生に見切りを付けた。
正確に言えば、貴族としての自分の人生。王妃としての未来を諦めた。だってあれ以上ないほどのハッピーエンドを迎えてもダメだったのだ。どれだけ努力しようとも、あれを越える結末を迎えるのは無理に決まっている。
だからこそ。私が目指したのは、悪役令嬢になるのを回避することではなく、殿下とのハッピーエンドでもない。――とにかく、死なないこと。死に戻りをしないことだけを重視して準備に明け暮れていた。
だって、つまらないじゃないか。
これからも死ぬたびに7歳まで巻き戻り、同じ人生を送るのなんてつまらない。いくら自分の意思で展開を変えられるとはいえ、起こるイベントは一緒なのだから。驚きも、新鮮さも、回帰した先には何もない。
だから私は死なず、死に戻りせず、新鮮で予想の付かない人生を歩むことを目標にしたのだ。
前世とは違って『魔法』が存在するこの世界にはいくつか不老不死になる方法がある。神話に登場する伝説の薬を飲むとか、死にそうになったら魂を別の身体に移し替えるだとか、吸血鬼に噛んでもらって眷属になるとか、魔族に変化するとか……。
いくつか可能性がある中で、私が参考にしたのは前世の知識だった。
ここはゲームの世界。ゲームで起こったイベントは現実でも起こるし、ゲーム知識を活用してイベントの結果を変えることも可能だった。
だとしたら。
私も、あれになれるはずだった。
ゲームの主敵。
人類の怨敵。
聖剣でなければ倒せず、たとえ倒されようが何度だって復活する――魔王に。
◇
魔王になるのは簡単だ。
イベントで聖剣を獲得し、それを使って魔王を倒せばいいだけなのだから。
そうすれば、世界の理に従って私が新たな『魔王』になる。そういうものだからだ。魔王を倒した者が次の魔王になるという、この世界の決まり事。避けられぬ呪い。俗な言い方をすればゲームの設定。
魔王を倒し、自らが魔王になってしまった『ヒロイン』がどうするのか。自ら命を絶って魔王の連鎖を止めるのか。何か解決策を見つけて王子様や他の攻略対象と幸せになるのか。それがゲームの第二部の見どころだった。
とにかく。私は『魔王』にならなければいけなくて。
魔王になるには現在の魔王を倒さねばならず、そのためには聖剣を獲得しなければならない。どちらにせよ長期間の冒険をしなければならず……『王太子の婚約者』という地位が邪魔だった。
だからこそ。13回目の私は自ら進んで追放されることにした。
何も難しいことはない。私は普通に生活しているだけで『聖女を虐めた悪女』という冤罪を吹っかけられ、追放されてしまうのだから。今まで何度も経験してきたことを今回も繰り返せばいいだけのこと。
それに、もし失敗してもやり直せばいいだけなのだし。
だからこそ。
私は何もしなかった結果、冤罪によって『聖女を虐めた悪女』の地位を手に入れた。
そうして。
私は、運命のあの日を迎えたのだった。
「――シンシア・グラグベルク! 貴様との婚約は破棄する! 『聖女』に嫉妬しての数々の蛮行! 全て証拠は揃っているのだ!」
私の婚約者。王太子殿下がこちらを憎々しげに睨み付けながら宣言する。
今は貴族学園の卒業記念パーティー。私はこうして自らの悪事を衆人環視の前で断罪されてしまうのだ。
この展開も……さて、何回目だったっけ?
「貴様は追放だ! 衛兵! この女を閉め出せ!」
殿下のお言葉に従い、会場警備をしていた騎士たちが殺到してくる。
「……結構。抵抗は致しませんわ。お仕事ご苦労様です」
ここで下手に抵抗すると、わざわざ地面に押さえつけられたあと無理やり連れて行かれてしまうので、私は抵抗することなく騎士たちの指示に従った。
会場の入り口に移動する最中。私は王太子殿下と、件のヒロインを横目で流し見た。
王太子殿下は相変わらずのご尊顔。私が大人しくしているのが意外なのか目を見開いている。
…………。
特に心乱れることはなかった。直近のやり直し前だと結婚し、共に国を盛り立て、子供を産んで孫にも恵まれた『夫』だったというのに。それをすっかり忘れていることへの怒りも、悲しみも、まるで存在しなかった。
そもそもの話。
殿下との生活で実感したことだけど……私、うっすらと男が嫌いなのよね。
だからむしろ前回を忘れてくれていたことは幸いだった。変な同情心みたいなものを抱かずに済んだし。
そして、そんな殿下の横に並び立つ女性。
ヒロインの地位を射止めた男爵令嬢アリス。
髪色は平凡な茶色だけど、平民出身という設定には則していると思う。
何とも美しい女性だ。
平民から貴族の養子となり、ここまでのし上がっただけあって強い瞳をしている。口撃ばかりで陰険な貴族子女とは違い、直接の行動力が凄まじい子。
きっと殿下はそんなところを気に入ったのだと思う。
まぁ、別に構わない。
好きなだけ勝利の美酒に酔っていればいい。
私はもうこんな国には興味ないし、あんな男に未練はない。――だって、すでに一度攻略したのだから。
溺愛されて。子供を産んで。国の経営も順風満帆。最高の状態で『ゲーム』を終えた。
ああいうのは、一度経験すれば十分だ。




