覚悟
勇者パーティーと同行することになり。
すぐに転移魔法を使っても良かったけど、ここは親睦を深めておきましょうかと徒歩&おしゃべりを選んだ私である。
「盗賊と遭遇したら、迷わないこと。迷っているうちにヤツらの剣が自分と自分の大切な人を殺してしまうわ」
乞われるがまま盗賊に対する心構えを伝える。
「盗賊を相手にするときのコツは――考えること」
「考える、ですか? 無心で剣を振るうとかではなく?」
「えぇ、考えることよ。――こいつらは、どうせ捕まえても縛り首だ。だから殺しても問題ないのだと」
「……捕らえることより殺すことを優先するのですね?」
「そうよ。捕縛なんて最初から選択肢から外して、殺すことを最優先。そうしないとこちらが殺されるもの。ヤツらはありとあらゆる手を使って命乞いをしてくるわ。俺は誰も殺してない、とか。脅されて仕方なく、とか。家族がいるんだ、とか。恋人に想いを伝えるんだ、とか」
「……盗賊にも事情があるし、家族もいるんですよね――痛いっ!?」
バカなことを考えているロイ君にデコピンを。この世界にはないものなのかロイ君は大いに戸惑っている。
「王国法により、盗賊の生死は問わないとされているわ。それに、盗賊は例外なく縛り首よ」
「それは……」
「誰も殺してない? それが本当だとどうやって証明するの? たとえ殺していなくても、盗賊から金品を奪われた被害者は生活苦で死んだり奴隷落ちしたかもしれない。あるいは自殺してしまうかも」
かつての私は盗賊に全てを奪われた。全てを奪われた者に、この世界は優しくなかった。
「脅されて仕方なく? 脅されれば何をしてもいいの? 罪なき人の命を奪い、金品を奪い、分け前をもらってもいいとでも?」
分け前にされた人間がどんな目に遭うか、分かっているのかしら?
「家族がいる? 恋人? なら、なぜ盗賊なんてやっているの? 荒稼ぎなんてできなくても手堅い職に就くこともできたのに。……そんな考え足らずだから後悔することになるというのに」
後悔していた。
彼らも後悔していた。
たくさん、たくさん。後悔していた。泣き出したヤツもいるし、やり直したいと懇願してきたヤツもいる。
でも、しょうがない。
だって盗賊なのだから。
最初の選択肢を間違えているのだから。
間違えだと気づいたのだから――次の人生では、間違えないでしょう。
「……シア様」
そっと、リリーが私の手を握ってきた。あたたかい手だ。こうして手を握ってくれる存在は……もう、どれほど残っているのだろう?
「し、シアさん! ぼ、僕、考え足らずでした! すみません!」
勢いよく頭を下げてくるロイ君。怒ったと思われちゃったかしら?
「あぁ、大丈夫よ。別に怒ったわけじゃないから」
まだ戸惑った様子のロイ君。そんな彼にそれぞれ肘打ちしてから、シーナちゃんとセイラちゃんが頭を下げてくる。
「シアさん、うちのアホがすみません」
「盗賊退治に対して私たちは『覚悟』が足りなかったようです。……どうか、ご教授いただければ幸いです」
おぉ、若いのにちゃんとしているわね。と、これじゃまるで私がお婆ちゃんみたいじゃない。……死に戻りの間の時間を加算するとかなりのお婆ちゃんじゃない? というか人の寿命を越えている気も……。
よし、私は何も考えなかった。
思考をぶった切った私はさらに盗賊退治のコツを教えるのだった。
◇
盗賊退治のコツも話し終えたので、自然な流れで雑談となった。
「子爵家領に行くって話だけど、なにか依頼でも受けたの?」
「……いえ、子爵家領には魔物が多く出没する森があると聞きまして。レベルを上げるならそこがいいかなぁとですね」
「あぁ、『魔の森』ね」
原作ゲームでもレベリングに最適な場所だったわね。森の奥に行けば行くほど強力な魔物が出てくるし。さらにはダンジョンまであるから、原作でも第二部が始まると攻略対象や勇者パーティーと共に滅びた街を拠点にして――
(……ん? 滅びた街?)
魔の森に近い、滅びた街。
繰り返す死に戻りの中で、原作ゲーム知識はかなり忘れていたけれど……ロイ君とのやり取りで思い出した。
滅びた街。
それは、子爵家領の領都だったはず。
(……滅びていたかしら?)
小さく首をかしげる私。これでも王妃教育を受けていたので国内の情勢は頭に入っている。地方の寒村の消滅などはさすがに覚えていないけど、貴族家の領都が滅びればさすがに記憶しているはず。
(私が追放されてから滅びたとか? それなら記憶してなくても不思議じゃないかしら……。いや、前回のやり直しでは王妃として50年ほど国政に関わったけど、セバスの実家の領都が滅びたなんて話はなかったはず)
私がやり直しの中で別の人生を送るように。人や街も異なる運命を辿るのかしらね?
ま、いくら考えても仮定でしかない。
子爵家の領都が滅びるなら魔の森から魔物があふれ出る世界の終わりでしょうけど。私が拠点にするなら世界の終わりも鎮圧できるから問題ない。
「私も魔の森には行ったことがないけど、レベリングには最適と聞くわね。ただ、お金は儲からないみたいだけど」
魔物を倒したときの収入源となるのは魔石や素材の売却だ。でも、魔の森は街から近い場所には弱い魔物しか出ないのでお金になりにくい。
お金になるような強力な魔物は森の奥にしか出現しないので、帰り道を考えるとあまり多くの素材は持ち帰れない。ゲームと違い、現実世界は帰り道にも多くの魔物が出現するからだ。十分な余力を持っておかないと途中で死んでしまう。あと他の冒険者から襲われる可能性もあるし。
「そうですね。冒険者としては利益にならないみたいですけど……まずはレベルを上げる方が先だとシーナとセイラも納得してくれましたので」
「ま、分かっているからいいのよ。別に私が止めるものでもないしね」
「いえ、気に掛けてくださりありがとうございます。冒険者になったばかりで分からないことも多いので助かります」
キラキラ以下略。これは将来女たらしになるわ……。




