光堕ち?
ロイ君たちが騎士の埋葬を続行する中。別に手伝う義理はないので静観していると、リリーが耳打ちしてきた。
「――ずいぶんと警戒されていますね」
「警戒?」
「はい。あの回復役の聖職者……セイラでしたか。お嬢様を疑っているようで」
「ふーん」
証拠はないけど、状況的に疑われてもしょうがないか。そもそも首なし騎士と同じ方向からやって来たのだし。
正直言って勇者パーティの三人は素人同然なので、一瞬で首を落とすことも可能だ。そのくらいは鑑定するまでもなく分かる。
けれども、警戒されたままでは少し時間が掛かってしまうかもしれない。
時間が掛かってしまうと、転移魔法で逃げられてしまう可能性もある。……いやシーナちゃんの力量では転移魔法は使えないと思うけど、原作ゲームでは使用可能だったので想定はしておいた方がいいと思う。
「じゃあ、好感度を少しでも稼いでおきましょうか」
リリーに答えてから、埋葬を続けるロイ君たちに近づいた。
「手伝いましょう」
「え? でも……」
遠慮しようとするロイ君を半ば無視して土魔法を発動。とはいえ、もう騎士の身体はほとんど土で隠れてしまっていたので、演出重視。まずは穴のあった場所に小山のように山を盛る。
これだけでお墓のように見えるけれど、もう少しこだわって。山の頂上から土の棒を伸ばして、成形。さらには土を岩に換える。これで墓標に見えるでしょう。
「ぶ、物質変換魔法!? 土が岩になるだなんて!? そんなの、魔法使いの上位職である『賢者』くらいでないと――っ!?」
さすが魔法使い。シーナちゃんが驚愕で目を見開いていた。
まっ、数多いやり直しの中で魔法を極めたこともあるからね。この程度であれば簡単なのだ。……そんなやり直しの中で褒められたことなどほとんどないので鼻高々な私であった。
「……チョロい」
小さくため息をつくリリーだった。聞こえてるわよ?
◇
簡単なお墓が完成して一息つくと、勇者であるロイ君が勢いよく頭を下げてきた。
「シアさん! 埋葬を手伝ってくれて、ありがとうございました!」
「あら、いいのよ別に」
殺したのは私だし。とは、もちろん口にはしない。
「僕たちはそろそろ目的地に向かおうかと……あの、シアさんはどちらへ? たぶん方向は同じですよね? よければ途中までご一緒しませんか?」
顔を赤くしながら提案してくるロイ君だった。純朴な少年だ。いや欲望まみれとも言えるかも?
「私たちはこれから子爵家領に向かおうと思っているの。セバスが隠居して実家に帰るからね、その送迎をしているの」
「子爵家領! 僕たちと同じ目的地ですね!」
一緒に行きましょう! と目で訴えかけてくるロイ君だった。
「別に同行自体は問題ないけど……途中で盗賊退治をしていくつもりなのよ」
時間が掛かるかもしれないし、危ないから止めておけば?
そう言外に伝えたのだけど、ロイ君は気づかなかったみたいだ。
「盗賊退治ですか! 報酬が安いからみんな避けるのに、さすがシアさんです! Aランク冒険者ならもっと割のいい仕事ができるのに、困っている人たちのために盗賊退治を受けるだなんて!」
「そ、そうね。誰かがやらないといけないものだから……」
キラッキラ。
ものすっごくキラキラとした目を向けられてしまった。ロイ君から。そしてシーナちゃんからも。『憧れのお姉さん枠』を順調に確保できているみたいだけど、良心の呵責が……レベリングするだけなんです……隙あらばロイ君たちも殺っちゃおうとした闇堕ち令嬢なんです……。
そして。
「う゛」
どこか苦しそうな様子で胸に手をやるセイラちゃんだった。どうやら私みたいに良心が呵責っているらしい。リリーによると私を疑っているみたいだし、疑惑の目を向けている相手が良いことをしているとねぇ……。
うんうんと頷いていると、ロイ君たちが顔をつき合わせてなにやら相談を始めた。
集音系の魔法を使えば盗み聞きできるわよね、と気づいたときにはもう話し合いは終わったみたいだ。
「あの! シアさん! 僕たちもお手伝いさせていただけませんか!?」
「へ? お手伝いって……盗賊退治の?」
「はい! 僕たちもいずれは困っている人々の助けになれるような存在になりたいので! シアさんみたいに!」
キラッキラ。
キラッキラとした目を向けられて浄化されそうになる私だった。
そしてシーナちゃんはさっき盗賊団と聞いて怯えてなかった? ……Aランク冒険者がいるから大丈夫だろうって判断? そんな単純な。
ここは『憧れのお姉さん枠』として警告しないとね。
「あのね、盗賊退治ってことは人を殺すのよ? ああいう連中は降伏勧告なんて聞かないし、聞いたふりをして騙し討ちをしてくるのだから。……人を殺す覚悟はあるの?」
――勇者パーティーなんて盗賊との戦いに連れて行って、どさくさ紛れに暗殺してしまえばいい。
それが分かっているというのに問いかけてしまう私だった。
「……正直、僕には覚悟がありません。でも、いつか覚悟はしなきゃいけないと思うんです!」
「別に盗賊団の討伐なんて騎士団に任せればいいでしょう? あなたは冒険者で、あっちは仕事でやっているのだから」
「ですが、困っている人を見捨てていては、勇者にはなれないと思うんです!」
「勇者……?」
ロイ君ってもう『勇者』なの? この程度の腕前で?
でも、そろそろ原作ゲームで言うところの第二部が始まるのだから、聖剣を抜いていてもおかしくはないのか。
自分の失言に気づいたのかロイ君がハッとした顔をする。
えーっと、気づかないふりをするべきかしら?
「――実は、僕は勇者なんです!」
おっと、聞こえなかったふりをする前に自白してしまった。この子、大丈夫? ちゃんと勇者としてやっていける? ……いやいやだから私が心配してもしょうがないんだってば。
「ちょ、ちょっとロイ様」
慌てた様子でセイラちゃんが止めようとする。けれども、
「いや! ここで正直に話さないと信頼してもらえないよ!」
相変わらずのキラッキラした顔で断言されてしまった。ほんと浄化されそう。
もはや目が潰れそうな私に構うことなくロイ君は説明をしはじめた。
――辺境の村に産まれたロイ君。
幼なじみの少女を守るため、剣の修行をする毎日。
そんな中、王都からやって来た聖職者の少女から『勇者である』という神託を伝えられる。
こうしてロイ君は魔王を倒すため、幼なじみの魔法使いと、神託を授けてくれた少女と共に旅立ったのだった。
うーん、普通に物語になりそう。ファンタジーラブコメあたりで。となるとロイ君はハーレム主人公か。爆発すればいいのに。
おっと、今は真面目な顔をしているロイ君たちに対応しないと。勇者に関しては初耳だという顔をしながら。
「話は分かったわ。でも、勇者なら尚更人殺しは避けるべきじゃない? 人々の英雄で、憧れで、穢れなき存在でなければならないのだから」
「いいえ、勇者だからと言い訳して汚れ仕事をしないなんて、許されません。そもそもそんな『勇気なき者』が勇者に選ばれるはずがないです」
「うーん……」
勇者の称号は聖剣に選ばれた者に与えられるもので、勇気の有無は関係ないと思う。……いや聖剣に選ばれる条件に『勇気』があるかもしれないけれど。それにしたって人殺しで勇気の有無を判断したりしないでしょう。
でも、ロイ君の覚悟は固そうだ。
普通に考えれば拒否するだけでいいのだけど……ここは、不確定要素である勇者パーティーと一緒に行動した方がいいのでは?
いっそのこと冒険者パーティーを組むのもいいわよね。『仲間』であれば私が魔王になったあとも討伐を躊躇ってくれるかもしれないし。
「……自分の身は自分で守ること。それができるなら、いいわよ」
「はい! 頑張ります!」
とても元気な返事をするロイ君だった。王太子にもこのくらい可愛げがあればねぇ。
「……なるほど。純心キャラとの交流で浄化されるのもまた闇堕ちの基本ですか。光堕ち……これはこれで」
リリーが真顔で何か言っていた。




