子爵家領へ
セバスが納得してくれたのが良かったのか悪かったのか……。というかセバスもわりと闇堕ちしてない? 気のせい? 騎士を殺すお嬢様を見て平然としていたり、元旦那様を殺させようとしたり……。
い、いや、あのセバスが闇堕ちするわけないわよね。気のせい気のせい。
「それはともかく、っと」
騎士の死体をこのまま放置しても騒ぎになるだけなので、まずは土魔法を使って大きめの穴を掘る。そしてその中に騎士たちの死体を放り込み、土を被せてしまえば隠蔽完了だ。
もしかしたら野犬か魔物が掘り返すかもしれないけれど、その頃にはもう私たちは現場を離れているので問題はない。
そういえば、最初に首を刎ねた騎士。馬が死体を乗せたまま走り去ってしまったけど、どこまで行っちゃったのかしらね? どうでもいいと言えばいいのだけど『馬に乗った首無し騎士』とかオカルトになりそうよね。
「――改めて、今後の予定を」
街道を歩きながら確認を始める私だった。ちなみにリリーもセバスも私の三歩後ろを歩いているのでとても喋りにくい。並んで歩こうと提案してもやんわりと拒否されるし。威厳がない私……。
「セバスは公爵家をクビになったので、実家に帰るしかないのかしら?」
「はい。家族は子爵家領に住んでおりますので」
「では、子爵家領に向かったあと、子爵にご挨拶しましょう。ここは『お嬢様』である私も一緒に説明した方がいいかしら。あなたの名誉が傷つかないよう努力するつもりよ」
「……お嬢様はそのあといかがなさるおつもりですか?」
どうやら私の態度から子爵家に留まるつもりはないと察したみたい。けれども『聖剣を見つけて魔王を討伐し新たな魔王になる』なんて馬鹿正直に説明するわけにもいかないので……。
「私は冒険者だからね。これからは誰にも縛られず『冒険者シア』として生きていくわ」
Aランク冒険者証をセバスに見せる私。ランクB以上の冒険者証には魔石が付いていて、魔力を通すと登録者の顔写真と基本情報が表示されるのだ。空中に浮かぶ液晶画面みたいな感じで。高ランク冒険者証が盗まれたり悪用されないための対策なのだそうだ。
「これは……髪色こそ違いますが、間違いなくお嬢様ですね」
「えぇそうよ。髪色もこの通り」
変身魔法を使い、髪色を金髪から茶髪に変えてみせる。
「おぉ、難度の高い変身魔法をいとも簡単に……。このセバス、お嬢様の実力を見誤っておりました」
「死に戻りを繰り返すうちに剣も魔法も極めちゃったからね」
「なんという過酷な……」
またまた泣き出すセバスだった。別に同情を誘ったわけじゃないのだけどね……。
「あー、というわけで、せっかく堅苦しい公爵令嬢という立場から解放されたのだから、これからは自由にさせてもらうわ。冒険者らしくね」
その中には聖剣獲得と魔王討伐も含まれているけれど。嘘は言っていないと思う。
「そうでございますか。どうやら覚悟は固いご様子……。私はもうお嬢様を止められる立場にありませんので、あくまで『提案』となりますが。我が子爵家を拠点の一つにするというのはいかがでしょうか? 領内の冒険者ギルドにも何かと融通を利かせられますし」
「拠点ね」
悪くない提案だと思う。
子爵家は公爵家に比べると権力なんてあってないようなものだけど、それでも貴族は貴族。魔王を倒すまで冒険者として生きるなら、貴族の庇護はあった方がいい。
特に子爵家領の冒険者ギルドで活動するとき『王都からの流れ者』より『子爵の後ろ盾持ち』の方が余計なトラブルはやって来ないだろうし。
「とりあえず、子爵と会ってみてから考えましょうか。冒険者ギルドでも活動しやすくなるでしょうし」
……あ、そうだ。冒険者ギルドといえば。
「せっかく子爵家領に向かうのだからと、近くの依頼を受けていたのよね。子爵家に行く前にやってしまってもいいかしら?」
空間収納から依頼書を取りだしてセバスに見せる。拠点となるギルドが変わるのだから最初に大きな手土産を持って行った方がいいでしょう。盗賊退治はどこのギルドでも消化率が悪いと聞くし。
「盗賊退治……。自らが追放されてもなお、人々の安寧のために行動なされるとは……。このセバス、感激いたしました」
いやそんな大層な心持ちじゃなくてね? ただ単に修行をしたいだけなのだけどね?
今回の獲物である盗賊団は規模が大きいらしく、子爵家領近くの廃城というか廃砦を拠点にしているらしい。普通の盗賊はどこが拠点なのか探ることから始めなきゃいけないので比較的楽な依頼だ。
……拠点が分かっているのに騎士団が手を出せないのだから、盗賊の数が多いことが予想される。けれど、私にとっては何の問題もない。雑魚が何人集まろうとも雑魚でしかないのだから。
「……お嬢様。この砦であれば私も心当たりがあります。ご案内いたしましょう」
「あらそう? 大丈夫? 騎士の強行軍に付き合わされて疲れているんじゃない?」
昨夜すぐに王都を発ったのだとしたら、徹夜での移動だったはず。老人のセバスにとっては辛い道のりだったでしょうに。
砦周辺の地形がどうなっているかは知らないけど、盗賊団がアジトにしているなら山の中にあってもおかしくはない。そんな場所に徹夜明けのセバスを連れて行くのは……。
ちなみに転移魔法には『一度行った場所か目視できる範囲にしか転移できない』という制約があるので、砦に直接転移することは出来ないのだ。
私の心配を余所にセバスが自らの胸を軽く叩く。
「ご安心を。仕事が間に合わないときは徹夜もしていましたので。若い頃のように何日もというのが厳しいですが、一日くらいなら問題ありません」
「……それは元実家の雇用状況に問題があるわね……」
セバスほど優秀な人が徹夜しなければ回らない仕事量。セバスをクビにして、これから公爵家は大丈夫なのかしらね? いや私が気にしてもしょうがないし、いっそ滅びてくれた方が後腐れなくていいのだけどね。




