同じベッド
近くの街まで転移したあと。
私とリリーは冒険者向けの安宿を取って一息ついたのだった。
ちなみに部屋は一つ。ベッドも一つ。お金に余裕はあるのだし別々の部屋でも良かったのだけど……リリーが断固拒否した形だ。「メイドとして、お嬢様と離ればなれになるのはあり得ません」と。
普通のメイドはご主人様と同室・同ベッドを遠慮するものじゃないの……? とは思ったのだけど、なにやら妙に圧が強かったのでそのまま流された私だった。弱い。
とても硬いベッドにリリーと共に腰掛け、今後の予定について話し合う。
「このあと公爵家の騎士が私を追いかけてきて『処分』するのよ」
「例の神託でございますか……」
実を言うと、リリーには以前からやり直しの話はしてある。……まぁ、そのままでは信じてくれないだろうから『悪い夢を見た』という形だったけど。
出会った頃から少しずつ、私が死ぬ話だけではなく、これから起こる未来の話もいくつか話した結果……リリーは私に『神託』かそれに類する力があると思っているみたいだ。
そんな積み重ねがあるので、リリーにはある程度死に戻りの経験を伝えても大丈夫だと思う。
「ですが、公爵家の騎士がお嬢様を害するとは信じがたく」
「ほら、騎士とは言ってもガラの悪い奴が何人かいるじゃない」
「……確かに。彼らならやりかねませんか」
こんな話をしているのに驚きもなく、無表情を崩さないリリーだった。ともすれば私のことなんてどうでもいいと思っているんじゃないかと不安になるけれど……まぁ、リリーに限ってそれはないか。
今までのやり直しの中で、私が一番信頼しているのは彼女なのだから。
それはもう、リリーに裏切られたら人間不信になって自殺するレベルで。
「騎士たちが馬を使っても今夜中には追いつけないわ。というわけで、今日は早めに眠ってゆっくり休みましょう」
「そうですね、そういたしましょう」
答えるのとほぼ同時、リリーがベッドの上に身体を横たえた。ちゃんと私が同じベッドで眠れるよう左側に寄って。
「……こういうとき、メイドさんとしては『お嬢様と同じベッドなんて使えません! 私は床で十分です!』みたいな反応をするんじゃないの?」
「お嬢様いわく、私はもうメイドではないそうなので」
「いまだに『お嬢様』と呼び続けている珍妙な存在が何か言っているわ……」
「珍妙な存在なら珍妙な行動をしてもおかしくないですね。さぁどうぞ。腕枕はご入り用ですか?」
「……結構でございます」
なんだか妙に押しが強いリリーに流されるままベッドに入る私だった。同性だから大丈夫でしょう。
◇
翌日。
「――来ましたね」
仲良く食事を取っていると、リリーが顔を右側に向けた。たぶん探知魔法か何かで騎士の到来を察知したのだと思う。あるいは吸血鬼パワー。
追っ手。
しかし慌てる理由はないのでそのまま食事を続行し、リリーが淹れてくれたお茶を楽しみながら時間を潰す。彼女は空間収納にお茶道具などを完備しているのだ。
「……あら?」
宿の外。大通りがなにやら騒がしいので窓から様子をうかがう。この部屋は二階に位置しているので道を見下ろす形だ。
騒いでいるのは公爵家の騎士。それが三人。どうやら聞き込みを行っているらしい。
たぶん、あの門番から私が王都を出たことを聞き出したのでしょう。で、一番近いこの街に潜伏していると当たりを付けたと。
剣だけではなく手槍や弓まで持っているのが物々しいことで。
派手に騒いでいるのは私に追っ手の存在を知らせ、街から逃げるよう促すためかしら?
さすがに街の中で『処分』をするのは目立ちすぎるし、広い街の中から人一人見つけるのは苦労が多い。たぶん街の門番あたりを買収して、私がどの方向に逃げたのかを聞き出すのだと思う。
その行動は理解できるし、やってきた騎士たちの顔ぶれも想定内。何度か私を殺してくれた怨敵だ。
予想外のことと言えば、そんな騎士たちにセバスが同行していたことだ。これは初めてのパターンね。
いえ、後ろ手に拘束されているから『同行』というよりは連行と表現した方が適切かもしれないけれど。
「……なんでセバスがいるのだと思う?」
あまりにも理解しがたかったのでリリーに尋ねる私だった。だってセバスは私が追放されたことを知っていても、私がどこに行ったかは知らないのだ。道案内というわけではないでしょう。
派手に聞き込みをする騎士たちを見下しながら、リリーが小さく鼻を鳴らす。
「私はアホではありませんので。アホの言動を理解することはできかねます」
「おおぅ、言うわね……」
ちょっと騎士たちが可哀想になる――ならないか。何度か殺されたのだし。一度くらい『復讐』しても罰は当たらないでしょう。




