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やめたい騎士団長は、なぜか昇進し続ける  作者: サザルト
第一章 やめたい騎士団長の日々
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それは誰のものだ

――帝国暦三二〇年・冬終盤 帝都・衣料店――午後。


 店内は暖かい、布の匂いがする。

 レオンは立っていた。

「……ここか」

 短く言う。


「はい」

 エリシアが答える。

「一般的な衣料店です」


 レオンは周囲を見る。

 並んでいる服。

 よく分からない。

 その時。


「いらっしゃいませ」

 店員が声をかける。

「何をお探しでしょうか?」


 レオンが答える。

「母に頼まれた」

 一瞬の間。

「保温用の下着だ」

 そのままだった。


 店員が少しだけ間を置く。

「……こちらへ」

 案内される。


 並んでいるのは、女性用。

 一瞬、エリシアの動きが止まる。

「……こちらが」

 小さく言う。

「女性用です」


 レオンが頷く。

「問題ない」

 真顔だった。

 問題しかなかった。

 エリシアが深く息を吐く。

「……用途は」

「母だ」

 即答する。


 エリシアは何も言わない。

 ただ、理解する。

 完全に巻き込まれていることを。


 レオンが一つ手に取る。

「……薄い布だな」

 真面目に言う。

「これで暖かいのか」


 エリシアが答える。

「重ね着前提です」

「一枚ではありません」


 レオンの動きが止まる。

「そうなのか」


 その時。

「それでしたら」

 イリスだった。

 いつの間にかいる。

「こちらはいかがでしょう」

 別の商品を手に取る。


「上質な素材で」

「温度調整機能もございます」

 一瞬でレオンが頷く。

「それにするか」

 即答する。


 エリシアが止める。

「お待ちください」

「こちらは高価です」

 即断。

 イリスは微笑む。

「長く使えますので」


 エリシアは揺れない。

「三倍です」

 短く言う。


 レオンが考える。

「暖かいのか」


「はい」

 二人同時。

 一瞬の沈黙。

「安い方でいい」

 即決だった。


 その後。

「サイズはどうされますか?」

 店員が聞く。

 一瞬。

 レオンが止まる。

「……サイズ?とは?」


 レオンは隣を見る。

「エリシア!」

 エリシアが顔を上げる。

「はい」


「同じくらいの体格だろう」

 真顔だった。

「どのくらいだ?」

 一瞬で時間が止まる。

 店員が固まる。

 周囲の空気が変わる。


 エリシアの言葉が出ない。

「……それは」

 詰まる。


 そう完全に詰んでいた。

 深く息を吸う。

「……こちらで選びます」

 低く言う。

 それしかなかった。


 イリスが微笑む。

「勉強になりますね」


 エリシアが振り向く。

「なりません」

 即答だった。


 会計を済ませる。

 袋を受け取る。

 店を出る。


 外の空気は冷たい。

 レオンは袋を見る。

 そして。

「助かった」

 短く言う。

「エリシア」

 一瞬でエリシアの足が止まる。


 何も言わない。

 ただ、ほんの少しだけ。

 視線を逸らす。

「……当然の務めです」

 静かに言う。


 しかし、その声は少しだけ揺れていた。

 イリスが、その様子を見ている。

 何も言わない。

 わずかに目を細める。


 誰も気づかないまま。

 その場だけが。

 少しだけ、違っていた。


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