それはどこに売っている
――帝国暦三二〇年・冬中頃
帝都・庁舎内 廊下――昼前。
レオンは紙を見ていた。
「……セリナに言われたが」
短く呟く。
手元のメモ。
「……保温用の下着?」
分からない。
そのまま顔を上げる。
「エリシア」
「はい」
「これは何だ」
エリシアがメモを見る。
そして。
「防寒用の女性用衣類です」
淡々と。
「どこに売っている」
真顔だった。
一瞬、エリシアが止まる。
「……衣料店かと」
少しだけ間を置いて言う。
その時。
「それでしたら」
別の声が入る。
イリスだった。
いつの間にか、そこにいる。
「上質なものをお求めなら、南区の専門店がよろしいかと」
穏やかに言う。
「職人が一枚ずつ仕立てております」
「冬でも汗をかかないよう、素材も特別で――」
続ける。
「この程度は」
さらりと言う。
「冬の間は三枚ほど必要ですので」
レオンが頷く。
「それにするか」
即答だった。
すぐさま、エリシアが口を開く。
「お待ちください」
静かに止める。
「必要以上に高価です」
はっきりと。
イリスは微笑む。
「良いものは長く使えますので」
柔らかく。
エリシアは揺れない。
「用途は日常使用です」
「過剰品質です」
淡々と。
レオンが二人を見る。
「違いは何だ」
真面目だった。
イリスが答える。
「肌触りです」
即答する。
エリシアが続ける。
「価格です」
こちらも即答。
一瞬の沈黙。
レオンは考えない。
「安い方でいい」
イリスが少しだけ目を細める。
「そうですか」
穏やかに言う。
だが。
「では、最低限としてこの程度は」
さらりと紙に書く。
エリシアがそれを見る。
止まる。
「……これは」
「通常の三倍の値段です」
静かに言う。
レオンが見る。
「高いのか」
「はい」
「そうか」
紙を折る。
「普通のにする」
イリスが小さく笑う。
「勉強になりますね」
柔らかく。
エリシアは何も言わない。
ただ、メモを書き直す。
「一般的なものを手配します」
淡々と。
レオンは頷く。
「頼む」
それだけ。
一瞬の静寂。
廊下に戻る。
足音だけが響く。
ただ。
誰も言わないが。
少しだけ、いやだいぶ違っていた。




