それは見せるものではない
――帝国暦三二〇年・冬終盤 第七騎士団 本庁・執務室――夕方。
三人は戻っていた。
レオン。エリシア。イリス。
「……勉強になったな」
レオンが言う。
「はい」
イリスが頷く。
「実に有意義でした」
穏やかに。
エリシアは何も言わない。
ただ、席に着こうとしている。
「エリシア」
呼ばれで、一瞬振り返る。
レオンが立っていた。
「すまなかった」
短く言う。
そして、頭を下げる。
エリシアの思考が止まる。
「……は」
声が出ない。
「常識が足りなかった」
続ける。
「また頼む」
それだけだった。
エリシアの顔がわずかに揺れる。
言葉が出ない。
「……当然の務めです」
やっと出た声。
だが少しだけ乱れていた。
その横で。
「私も」
イリスが口を開く。
「またご一緒させてください」
穏やかに言う。
エリシアが二人を見るが
完全に逃げ場がなかった。
レオンは頷く。
「構わない」
それだけだった。
一瞬の静寂。
そのままレオンが袋を取り出す。
何も言わず、リリアの前に置く。
ただ、袋だけを置く。
短く。
「……頼む」
それだけ言う。
席に戻り、書類を手に取る。
そのまま仕事を始める。
リリアは戸惑いながら袋を見る。
少しだけ迷う。
中を開ける。
長い静寂が続き。
リリアの動きが止まる。
完全に止まる。
そして顔が赤くなる。
みるみるうちに。
「……っ」
声にならない。
その様子に、クリスが気づく。
「どうした?」
ダリオも覗く。
「……何だ?」
ミナが横から見て。
「……あら」
小さく笑う。
空気が変わる。
「……これ」
ダリオが固まる。
「どういうことだ」
真顔だった。
クリスが顔をしかめる。
「いや待て」
「なんでそれを」
全員の視線がエリシアに向く。
「エリシア!」
「説明しろ」
「どういうことだ」
矢継ぎ早に来る。
エリシアはペンを走らせる。
止めない。
「……」
何も言わない。
「おい」
クリスが詰める。
「聞いてるか!」
エリシアは顔も上げない。
「……業務中です」
それだけ言う。
完全に遮断だった。
ダリオが息を吐く。
「逃げたな」
ミナが笑う。
「賢いわね」
リリアはまだ固まっている。
袋を持ったまま。
顔を真っ赤にして。
イリスが、静かに呟く。
「……なるほど」
また、それだった。
誰も納得していない執務室は。
静かに、大混乱していた。




