表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やめたい騎士団長は、なぜか昇進し続ける  作者: サザルト
第1章 騎士団長編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/264

第97話 それはそう見える

――帝国暦三二〇年・冬中頃 ヴェリア帝国東ロンバルディア騎士団領 第七騎士団 本庁・執務室――朝


 いつも通りの朝。


 まだ、レオンはいない。


 エリシアもいない。


 執務室には、朝の準備を始めた者たちだけがいた。


 そこへ、リリアが入ってくる。


 先に顔を上げたミナが、いつものように微笑んだ。


「おはようございます、姫様」


 続いて、ダリオも軽く頭を下げる。


「おはようございます」


「おはようございます」


 リリアは、いつものように微笑んで返した。


 ただ、少しだけ空気が違った。


 妙に静かで。

 妙に、こちらを見ている者が多い。


 リリアは小さく首を傾げる。


「……何か、ありましたか?」


「いいえ」


 ミナが笑う。


「何もありませんよ」


 その言い方が、少しだけ楽しそうだった。


 リリアには、理由が分からない。


 窓際では、メリーが静かに顔を上げていた。


 視線が、リリアに向く。


「……なるほど」


 また、それだった。


 リリアは、メリーを見る。


「メリーさん?」


「はい」


「今の、なるほど、は……何でしょうか?」


「少し、理解が進みました」


「理解、ですか?」


「はい」


 メリーは落ち着いた顔で頷く。


「人間関係の見え方についてです」


「人間関係」


 リリアはますます分からなくなった。


 その時。


 扉が開いた。


「おはよう」


 クリスが、いつものように顔を出した。


 所属しているわけではない。


 仕事があるわけでもない。


 ただ、暇で来た。


 そういう顔だった。


 そして、入ってすぐに足を止める。


「……なんだよ」


 執務室の空気が、妙に静かだったからである。


 ミナが笑う。


「楽しそうだったわね」


「は?」


 クリスが眉を寄せる。


 ダリオが肩をすくめた。


「噂になってる」


「は?」


 クリスが固まる。


「何の話だよ」


「昨日の話よ」


 ミナが楽しそうに言った。


「あなたと、シエラさんの」


 クリスの顔が、少しだけ引きつった。


 それから、反射的に執務室の中を見る。


「……シエラは?」


「まだ来ていないわ」


 ミナが答える。


 クリスは、ほんの少しだけ息を吐いた。


「なら、まだ助かったか」


「助かってはいないと思うぞ」


 ダリオが言った。


「もう噂になってるからな」


「何でだよ」


「そう見えたからだろ」


「どう見えたんだよ」


 クリスが言う。


 ミナは答えずに笑った。


 ダリオも答えない。


 代わりに、メリーが静かに口を開いた。


「理解しました」


 全員がそちらを見る。


 メリーは淡々としていた。


「関係性の構築ですね」


 クリスが止まる。


「……何だって?」


「段階的接近と、外部環境での距離調整」


 メリーは続ける。


「周囲に過度な違和感を与えない範囲で接触機会を増やし、相手の反応を確認する。そのうえで、自然な関係性として周囲に認識される位置へ移行する」


 少し間を置いて。


 メリーは静かに頷いた。


「極めて合理的です」


 完全に違った。


 クリスが顔を覆う。


「やめろ」


 ミナが笑う。


「すごくそれっぽいわね」


 ダリオも頷いた。


「それっぽいな」


「お前ら、納得するな」


 クリスが低い声で言う。


 リリアは静かに聞いていた。


 何も言わない。


 ただ、少しだけ考える。


 メリーが、ふとリリアの方を向いた。


 にこやかに。


 そして。


「リリアにも、参考になりますね」


 それだけ言った。


 リリアの動きが、わずかに止まる。


 視線を小さく落とす。


「……何の、でしょうか?」


 誰に向けたでもなく。


 静かに。

 誰も答えなかった。


 クリスは額を押さえる。


「来るんじゃなかった」


「暇で来るからだ」


 ダリオが言う。


「俺は別に暇じゃねえ」


「用事は?」


「……ない」


「暇じゃないか」


 ミナが笑った。


 クリスは反論できなかった。


 シエラ本人はいない。


 それだけは助かった。


 そう思ったはずだった。


 だが、メリーが静かに観察するような目でこちらを見ている。


 リリアは、まだ何の参考なのか分からない顔をしている。


 ダリオとミナは笑っている。


 結局。


 全然、助かっていなかった。


 紙の音が重なる。


 いつもの執務室。


 けれど、少しだけ話が違っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ