なんでそうなる
――帝国暦三二〇年・冬中頃
第七騎士団 本庁・執務室――昼前。
静かな時間。書類の音だけが続く中。
シエラが、ふと顔を上げる。
「……クリスさん」
小さく呼ぶ。
「……何だよ」
嫌そうに返す。
「メリエラさんのこと、少し聞いてもいいですか?」
クリスの手が止まる。
「……やめとけ」
即答だった。
シエラが瞬きをする。
「どうしてですか?」
「面倒だから」
短い。
シエラは少しだけ考える。
「では」
自然に続ける。
「今度、少しだけお時間いただけませんか?」
クリスの顔が歪む。
「は??」
「詳しく聞きたいので」
「やだ」
また即答。
シエラが止まる。
視線が、ゆっくり落ちる。
「……そう、ですか」
小さく。
「やはり、私では……」
言葉を濁す。
空気が、少しだけ沈む。
クリスが顔をしかめる。
「……おい」
シエラは何も言わない。
ただ、少しだけ視線を逸らしている。
クリスがため息をつく。
「……分かったよ」
投げるように言う。
「行けばいいんだろ」
シエラが顔を上げる。
「本当ですか?」
少しだけ明るい声。
「一回だけな」
釘を刺す。
「ありがとうございます」
柔らかく笑う。
一瞬で空気が戻る。
そのやり取りを。
少し離れた場所から見ている者がいた。
ミナだった。
「……あら」
小さく呟く。
視線をずらす。
ダリオも気づいている。
「……違うな」
ぼそり。
「絶対違う」
ミナが笑う。
「でも、そう見えるわよ?」
軽く言う。
ダリオが顔をしかめる。
「やめろ」
その後ろ。
さらに奥。
メリエラが、ちらりと視線を向ける。
一瞬だけ、見る。
そして。
「……なるほど」
小さく呟く。
まただった。
クリスが顔を覆う。
「……何がだよ」
誰にも届かない声で言う。
シエラは気づかない。
ただ、少しだけ嬉しそうだった。
その時。
執務室の入口で、足が止まる。
リリアだった。
中の様子を、少しだけ見る。
視線が、クリスとシエラに向く。
柔らかく笑い合っているように見える。
リリアは、ほんの少しだけ視線を逸らす。
そのまま、静かに中に入る。
何も言わない。
ただ、いつもの席へ向かう。
書類を手に取る。
手を動かす。
そのまま。
何も変わらないように。
時間が進む。
ただ少しだけ。
違って見えていた。




