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やめたい騎士団長は、なぜか昇進し続ける  作者: サザルト
第一章 やめたい騎士団長の日々
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いつもの日々

――帝国暦三二〇年・冬中頃 第七騎士団 本庁・執務室――朝。


 扉が開く、その先。

 玄関口。

 左右に、騎士と親衛隊が並んでいた。

 整った列。

 揃った気配。

「おはようございます、姫様」

 声が重なる。


 リリアは一瞬だけ足を止める。

 少しだけ、困ったように笑う。

 そして、いつものように、微笑む。

「おはようございます」

 柔らかく。

 視線を順に向ける。


「今日は寒いので、どうか身体に気をつけてください」

 静かに言う。


 空気が、少しだけ和らぐ。

 騎士たちの表情が、わずかに緩む。

 親衛隊も静かに頷く。


 リリアは少しだけ視線を逸らす。

 ほんの少しだけ、照れたように。

 それは、いつもの光景だった。


 そのやり取りを。

 執務室の奥から、見ている者がいる。

 窓際。

 メリエラだった。

 机に手を置いたまま、視線だけを向ける。

 距離を置いたまま、その全体を見ている。

「……これが」

 小さく呟く。


「噂の」

 言葉を続ける。


 室内の空気が止まる。

 クリスが吹き出す。

「やめろ!」

 ダリオが小さく声を落とす。

「……あっち、気にしとけ」

 視線だけで玄関を示す。


 ミナがくすりと笑う。

「今さら?」

「ずっとよ」

 軽く言う。

 ダリオが顔をしかめる。

「分かってるから言ってんだよ!」

 小声で返す。


 玄関の向こう。

 リリアはまだそこにいる。

 会話には入らない。

 ただ、見られているだけだった。


 メリエラは表情を変えない。

 今は静かに頷くだけ。

「なるほど」

 それだけ言う。


 何事もなかったように視線を落とす。

 ペンを走らせる。

 一瞬の静寂。

 クリスがぼそりと言う。

「……何を納得したんだ」


 ダリオが肩をすくめる。

「さあな」

 ミナがくすりと笑う。

「ちょっと面白いわね」


 紙の音が重なる。

 奥と、中央で。

 少しだけ距離を置いて。


 それでも。

 同じ朝の中で。

 少しだけ、遠うまま。


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